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エルスクラス

 廊下を歩きながら水琴は考え事を巡らせる。


 シェフィの言った考えて動いている。先人が作り上げただけの価値観でしかないという言葉。実際ノルアはグリッドのおかげで自分の意見を通す事が出来た。だが心に傷も負った。それが正しいのか? だがそれが必要ではないとすると……


 ――なんの目的で生徒を選ぶ必要がある。



「あ、あの」

 水琴の思考は止まり、ノルアに視線が向く。


「……あ、悪い。考え事してた。なんだ?」

「ありがとうございました。その、うれしかったです」



「あれは……なんか、あの環境を用意したのが許せなくて、まるで自分ごとのように腹が立ったんだよ」


「私、水琴様を召喚できて良かったです」

「なんだよ急に」


「いえっ、なんでもありません!」


 ノルアは無邪気な笑顔を見せると自分達が通うクラスへと案内した。さきほどのシェフィの影響か、歩けずにいるものが廊下の壁にもたれかかり、休んでいた。



 何人か休んでいるものに対して罵声を浴びせたり、足でつつくものが居たりする。


「居心地が悪いな」

 水琴の不機嫌そうな声にノルアは説明を挟んだ。



「ふ、普段はこんなにひどくないんですよ。多分気が立ってるんだとおもいます。さっきの重圧で……」


「魔族と人間、異種族の壁はなさそうだけど他の壁を作り出してるみたいだな」

「はい……きっとエノア様がこれをご覧になったら……全員もれなく恐怖を与えられるでしょうね」


「そういう人なのか?」


「と、言われているだけです。自分の中の正しさを全うする方だそうです」

「統治する王がいないからこそか。ここは国ではなく学園という範囲だけどな」



「あ、一応ルールをお話しておきますと魔法や魔力を使った争い事は禁止です。

 表向きは……」


 最後の言葉の意味を水琴は察した。


「あー、分かった。まぁ俺には関係ないな。ただの人間だし。不死を除いて」

「着きました。ここです」



 案内されたのは他の教室と変わりない外見のドア。水琴の通っていた学校のようなスライドするタイプのものではなく引いて開けるタイプのドア、少々大きい。魔族に配慮した結果だろうか。

 水琴がその扉を開けると左側に教卓、黒板。右側には長机が階段のように奥にいくにつれて高くなっている。上に行くには階段を昇る必要がある。それらは三つに区切られていて一つの長机に五人は座れるだろう。



 生徒たちもちらほらとまばらに座っている。角が生えた胸の大きい魔族に、短髪の好青年。股下まであるコートを着ている片メガネの青年。銀髪の髪をツインテールにしている女の子は端っこの方でずっと俯いている。


 短髪の好青年が駆け下りてきてノルアにあいさつする。


「よっノルア! お前確か実習だったろ? どうしたんだよ! 久しぶりだなー」

「う、うんルーク。えっと、実は……その、グリッドさん達は殉職して……」


「そっか……辛くねーか?」

「大丈夫だよ。水琴様とアリスさんが付いてくれてるし」



「その二人? 俺はルーク。種族は人間。

 使える魔法は基礎的なのと固有のもので地形変化。使う力は魔素と魔力の半々。

 よろしくなっ!」


 にこっと笑って手を差し出すルーク。



 服装もシンプルで、学校規定の長袖ワイシャツにズボン。ベルトはズボンを締めるものと何かを入れるためのベルトの二本。前髪は眉に掛かる程度で襟足も少し見える程度。もみあげは耳下あたりまででかなり清潔感のある見た目で茶髪。


 水琴は差し出された手を握り返した。


「よろしく。俺は水琴。随分明るいんだな」

「そうか? まぁそれだけが取り柄だからな!」



 白い歯を見せたルークは握手した手を軽く振る。水琴は試しにこう言ってみた。


「落ちこぼれなんて言われてるらしいが」


 教室の雰囲気ががらりと変わる。さっきまで日常だったはずのクラスに不穏な空気が流れ始める。しかしルークは唇を緩くし、自分の意見を述べた。



「そうだよ。俺たちは落ちこぼれだ。そう言われて蔑まれる。だったら俯いてシクシク泣いてろってか? あはは、それを受け入れちまったら自分でも認めることになる。

 俺はそんなのごめんだね。まーそう言った所で評価は変わらねーんだけどな」


「んなことねーよ。俺の評価は変わった。てっきり全員運命を受け入れて落ち込んでるやつばっかだと思ってたんだ。そんなことはなかった。

 くだらない先入観もって悪かったよ」



 ルークは素直に謝る水琴の事を気に入った。


「いいやつだな! このクラスに編入するのか?」

「ああ。落ちこぼれらしくなんにも出来ないが俺も運命を受け入れるつもりはないよ」



「そう来なくっちゃ!」





 上の長机でぼーっとしていた角の生えた魔族がゆっくりと歩いてくる。


「やっほーノルア。彼氏?」

挿絵(By みてみん)

「ち、ちちちちちちちちちがいますっ! そんな、恐れ多い……」


 鳥のさえずりかと言わんばかりの”ち”を披露しながらノルアは否定した。



「恐れ多い? そんな相手なの? あたしはノービア。魔族だよ。よろしく」


 ノービアは手を出す。水琴はその手を握り返した。


 身長はノルアよりも低いが胸が脅威的な大きさを誇っている。苦しいのか胸元までワイシャツのぼたんを開けている。赤色の髪で後ろ髪は肩より長く癖っ毛。前髪は揃っていてサイドが肩までの長さ。ワイシャツの袖を肘下までまくっている。ルークのようなベルトは見当たらない。シャツの裾は入れていない。シャツの下の部分のボタンをいくつか外している。


 手を握ると暖かく、さらっとしたさわり心地のいい手をしていた。


「よろしく。俺は水琴、見ての通り人間だよ」

「……その服装は、ううん何でも無い。あたしもなんの力もない魔族だけどよろしくね」



「魔族でもそういうのあるんだな」

「偏見は捨てたほうがいいよ。どっちの世界の――とは言わないけど」



「バレてる?」


「わざわざ口にしないってことは事情あるんでしょ? あたしもいろんな事情があるからねー。

 あ、でもあたしが襲われそうになったら男らしく助けてねっ」


「一秒も持たねーよ」

「あたしが逃げるには十分っ! なんて冗談よ」



 次の瞬間、扉が勢いよく開けられる。見た目は人間だがかなり屈強な見た目をしている。髪はルークと同じように短髪だが前髪以外ギザギザと逆だっている。ノービアのように袖を捲くるのではなく最初から半袖。右腕にカクカクした腕輪をつけている。ネクタイを中途半端に閉め、シャツを出して歩いている。



「どけよ」

「第一声からそれか」


 水琴は敵意むき出しの男に言い返した。


 返答より先に水琴は腹部に蹴りを入れられる。そのまま吹っ飛び教卓側の壁に叩きつけられる。




「ただの雑魚か。俺に逆らうんじゃねーぞ」

 ルークが肩に手を置く。


「おいイツ。今のはねーんじゃねーか」

「あ? 離せよ雑魚」


「断るつったら?」


 お互いの周囲にある魔素が反応する。



「やめなよ」

 ノービアがそう言った。反応を示していた魔素は鳴りを潜めた。



「なんだよノービア」

「くだらないからやめて」



「ああ分かったよ。そうだな雑魚の相手なんかくだらねーな。朝から面倒を起こすつもりはねーよ」



 魔素が落ち着き、イツは適当に座る。ノルアが水琴に駆け寄った。


「水琴様っ!」

「大丈夫、いてーけど痛くねぇ。つっ、あのやろ……」



「彼はイツという名前です。つい最近まで優等生クラス、フィードにいた貴族なのですがここに落とされまして……元の優等生クラスに戻ろうと必死なんですよ。多分」


「やつあたりかよ……」



 ルークが手を差し出す。


「大丈夫か? ほら、俺の手をとれよ」

「ああ。庇ってくれてサンキュー。あーいてぇ……」



 大丈夫? とノービアが心配する。


「わりー。一秒も持たねーかも」

「肉弾戦だったんだけどねー……冗談言えるなら大丈夫かな」



「ああ。これから授業だろ? 席に座ろーぜ」

「そうだね。聞く価値ないから上の方に行こうよ。図書室で本読んでたほうがまだ勉強になると思うよ」



「価値がない? ならなんで学園に」

「親の方針。嫌だって言ってるけど断れないの。強制的に転移させられるし。ほらいこっ。

 そこのかわいい女の子も」



「私ですか?」


 アリスは自分を指さして聞いてみる。

「そっ、ずっと黙ってるけど話すのは苦手?」



「はい。苦手です」

「はっきりしてるね。分かった。あまり返答が必要ないような会話を振るよ」



 ノービアの勧め通り上の方の長机に座る。隣にはノルアとアリス。アリスは待ちきれないのかそわそわしている。


 アリスの先にいるツインテールの女の子を見る。さきほどからあんなにも騒がしかったのに微動だにしない。ただひたすら下を向き続ける彼女を水琴は気になっていた。



 ノービアが背もたれによりかかりながら話した。


「そういえばさっきの圧すごかったねー。あれシェフィでしょ?」



 ルークはせめてさんをつけろと言った。


「いいのいいの。顔なじみだし。あれやらせたの水琴?」

「ちょっと言い合いになってな」


「怖かったでしょ」

「ああ。死ぬ恐怖には慣れたとおもったが体の節々まで震えが来たよ」



 これで全員だったのかチャイムが鳴るまで誰も入ってこなかった。先生が入ってくると第一声がこれだった。



「よぉ落ちこぼれのクズども。学園長の命令で仕方なく授業をしてやる。寝てろ」

 水琴は小声言った。

「おいおいあれが先生かよ……!」



 ノービアは机に足をのっけながら顔の側面に手を添える。


「担任はそんなことないんだけどね。それ以外はほぼあんな感じ。あたしらはさ、邪魔なんだよ。学園にとっては。

 ま、一応授業はしてくれるからまだマシなのかもね。来ない落ちこぼれクラスもあるみたいだよ?」

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