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メアとメリー

 屋敷を囲うように黒い柵が設置され、中央に石レンガの門。辺りはほどよく木が群生している。ゴチャゴチャせず、あくまで屋敷がメイン。そういう手入れをされているのが分かる。


 屋敷はゴシック建築ではなく、暖色を使った石レンガで構成されていた。温かみのある配色、しかし屋根を黒くすることでその存在感を確かなものにしていた。



 門の外で待たされる水琴とアリス。そこそこ長い時間が経ち、さすがにノルアの状況が気になり始める。


「結構遅いな」

「何かあったんでしょうか」


「説明に時間がかかってるのかもな。元々経験としてパーティーに入っていたはずだから帰ってくるタイミングではないだろうし、突然男女一人ずつを紹介しようというのもな。迷宮の事は口止めしてるし」



 二人が待っていると屋敷の扉から二人の女の子が顔を出す。


 年齢は十二歳くらいだろうか。耳の上で二つ結びされた髪の毛先が顎の辺りで、後ろ髪は結ばずに流している。

 ノルアと同じ薄い緑色の髪をしていた。服装はシンプルで、目立たないタイプの襟をしている。長袖のシャツに細長いリボン、そして学生が履くような明るい紺色のスカートを身につけている。


 二人は見た目にほとんど違いがない。双子だろうか。



「「おにーちゃん」」

 同時に話し始める女の子達。


「どうした?」

 水琴から見て右側の女の子が話し始める。


「えっとですね、ノルアおねーちゃんはパパとママに捕まってます」

「つかまっ!」



 水琴はノルアが叱られ、監禁されているのかと勘違いした。


「あっあっ、違くてですね。久しぶりに会えて話が終わらないんです。覗いていた私達にノルアおねーちゃんが外にいる二人を中で待たせるようにって言われたの」


「たのっ!」

 左側の女の子がそれに同意するかのように語尾を真似する。



「そっか、じゃあ案内してもらってもいい?」

「「うん!」」


 水琴とアリスは大きなテーブルがある部屋に通される。二十人くらいで食事出来るのではないかと思われる大きなテーブルに圧倒される水琴。


「ここ座ってください」「くだーさい!」


 二人はそれぞれ椅子を後ろに引く。



「あっ、ねぇねぇ! あれやろ?」

 赤いリボンの髪飾りをつけた女の子が青いリボンの髪飾りをつけた女の子にそう言った。


「あれ? あーうんいいよ」

 二人は向かいで二人、手をつないでぐるぐるその場で回った。



「「はい!」」


「はい?」



「どっちがメアで」

「どっちがメリー?」



「なるほど、そういうことか」


 んーと水琴は考える。



「髪に結んだ青いリボンがおねーちゃんかな?」


 ぱちっぱちっと二人瞬きした後、お互いを見合った。



「すごーい! 正解!」

 赤いリボンをつけた妹がそう言った。



「どうして分かったんですか?」

 青いリボンのおねーちゃんは首を傾げて言った。



「その前に自己紹介してほしいな。おねーちゃんがメア?」


「そうです」「そうだよ!」



「じゃあ分かった理由を話そっか。

 きっとおねーちゃんは妹よりも先に行動を起こして、お手本となるように頑張るんじゃないかなって思ったんだ。だから当てずっぽうだよ」



 当てられたのがよほどうれしかったのか、二人は手を取り合いながらはしゃいでいた。

 礼儀正しく、大人のように振る舞うのが青いリボンをつけたメア。そして元気で笑顔にさせてくれるのが妹のメリー。


「あ、あの……」

 ノルアが扉から顔を覗かせる。


「かわいい妹だなノルア。双子か?」

「あっはい。紹介します。こちらが」


「メア、だよな」



「自己紹介はお済みでしたか。おまたせしてすいません……」



「そんなこと気にしなくていい。かわいい双子とも遊べたしな」


 双子のメアとメリーはえへへっと無邪気に笑った。そしてノルアは水琴とアリスを父親と母親がいる書斎へと案内した。



「失礼します」

 ノルアはドアをノックすると、入ってよしという男の声が聞こえる。


「ノルアです。紹介したい二人をここに連れてまいりました」



 ノルアからの合図とともに水琴とアリスは中に入る。


 壁際には本が敷き詰められた本棚。長机が中央に置かれ、皮で覆われた椅子に男が一人座っていた。体はしゅっと引き締まっており、唇の上と顎にひげを生やしている。袖のないベストをシャツの上に着用している。


 その横に部屋着用のドレスを身にまとった女性が立っている。髪をくるくると頭の上の方で纏めている。その女性は水琴とアリスに話しかける。



「あなた達がノルアの召喚した転移者?」


 どうやらアリスも転生者として紹介していたらしい。

「はい。お初にお目にかかります」



 言葉遣いはこんな感じでいいんだろうかと水琴は不安になる。



「あらー。ご丁寧にどうも……

 いい子じゃないノルアー! かわいくてかっこよくてお母さん今日お食事作っちゃおうかしらっ」



「お、お母様!」


 慌てるノルアを他所に、父親と思わしき男は背もたれに体重をのせる。ギシッと歪む音がした。



「名前は確か、水琴とアリスだったかな」

「「はい」」



「うむ。母さん。今日はごちそうを作らねばならないな。

 なんたってうちの娘が転移者を二人召喚し、連れてきてくれたのだからな!

 父さんも張り切ってみようか!」



 厳格な父親、だと水琴は思っていたが母親と同じようにテンションが高く、気楽で距離が近いタイプの人だった。ノルアは恥ずかしそうに二人を止める。



「お二方あまり台所には立たないではありませんかっ。お客様の食事は味の保証がある侍女に作らせましょう! そ、それに私が召喚してしまったことで水琴様……とアリスさんは家族に会えないのです。喜ばしいかどうかは……」


 父親は顎ひげを触りながら発言した。


「そうだな……まずは謝罪をすべきか。

 すまなかったな。責任はこちらでとる。我が家で面倒は見るし、望むのなら養子にすることもやぶさかではない」



 水琴はうつむきながら言った。


「いえ、大丈夫です。家には泊まらせてほしいと思っております……

 もしご迷惑でなければ、ですが……」



「迷惑? ははは! そんなはずあるまい! 家族が増えたようで楽しいよ。はっは!」

「感謝致します」


 水琴は両肘をたたみ、右腕をお腹へ持っていき、左腕を背中に移動させてそう言った。どこかのドラマで見たかしこまった礼の仕方を真似してみた水琴。どうやら間違いではないらしい。ノルアの両親はにこっと笑いかける。



 その時水琴は心の中で、家族に会えないことをうれしいと思ってしまっていた。たしかに迷宮の中では心底辛かった。しかしそこを出てからこれまでの旅は悪くなかった。ゲームをしたいという欲求も消えている。いや、消えたままが正しいのかもしれない。


 一段落つき、水琴とアリスは用意された部屋に通される。


 ノルアは部屋の鍵を開けた後に言った。



「こちらのベルを鳴らせば侍女が参ります。

 ……騒がしかったでしょう」


「ああ。うちの親とは大違いだ。子供を自慢に思ってる」



「水琴様?」

「気にするな」



 昔の事を思い出すと頭が痛くなる。



「いい事、ばかりではないかも知れません。きっと我が家の両親は親として正しいのだと思います。過保護はありますが子を誇りに思い大事にしてくださいます。

 だから私は……反抗の仕方を知りませんでした。グリッドさんのパーティーを抜けると決意した時に私は初めて……自分の意志で動きました」


「何もかもが正しいことなんてない。そんな説明書があるのなら世界は平和だよ」



 ノルアは複雑そうな顔をした後、無理に少し笑って部屋を後にした。水琴は同室のアリスに言った。



「同じ部屋で良かったのか? これだけ大きいんだ。自分の部屋をもらっても」

「一人はもう嫌なので私のわがままに付き合ってください水琴」


「……まぁいいけど」



「水琴、さっきの会話で何か思う所でもあるのですか?」


「俺は、ノルアを殺そうとしていたんだ。明るくて肯定してくれる親が居て、かわいい二人の妹が居て。アリスに止められなきゃきっと俺は殺してた」

挿絵(By みてみん)


「情が湧いたというやつですか。でも殺されてるだけの事をした。本人もそう思っているのではないですか?」



「本人がそうでも俺自身は今、複雑なんだよ。グリッドも殺した。リオとリリッタも。

 俺はそいつらの友人も家族も知らない」


「今同じ状況をもう一度作れたら――殺しますか?」



「殺すよ。この世が理不尽なのは分かってるからな。あんな苦しみを与えてきたあいつらを殺さない選択肢はない。

 ただ、その家族はどう思うのかなってな」



「そこを考慮してしまったら罰は永遠に実行されませんよ」


「ああ。だからもういいんだ。

 ただ、ノルアの家族とどう接したらいいんだろうなってな」



「正直に言ってしまうのはどうでしょう」

「言えるかよ」


「では、嘘を突き通すのはどうですか? 嘘もバレなければ真実です」

「……それが俺の罰か」



「そうとも言えるかも知れません」


 その後、メアとメリーに食事だよと呼び出された二人。水琴は殺そうとしていたことを口にはせず、召喚された身としてアリス共々演じることを選んだ。

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