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ルーヴェスト帝国

 数日、馬車に揺られながら水琴達はルーヴェスト帝国へと向かっていた。草原や林を進んではいたが、進むに連れてルーヴェスト帝国への道が舗装されていった。到着する頃、水琴はそれでも酔ってしまい目を閉じてひたすら寝ていた。


 ノルアがぐったりと荷台で横になっている水琴の肩を揺らす。


「あの、着きました水琴様」

「その様ってのやめてくれ、よ……」


「いえ、私がそう呼びたいのです」

「おちつか、おえっ」


 馬車から全員降りるとリィーナは仕事を済ませてくると言った。


「ノルア達はどうする?」


「私は一度家に戻ります。服もこれですし……それに水琴様とアリスさんを両親と妹たちに紹介しなければなりません。その責任が私にはあると思うので……」



「そうか。ノルアのご両親なら受け入れてくれるだろうな」

「はい!」


 リィーナは手を振り、街へと消えていった。


 アリスは自分に寄りかかってダウンしている水琴を揺らしながら、目の前の景色を見せようとする。


「水琴、水琴! すごいですよ!」

「ぅぁー……」

挿絵(By みてみん)


 ノルアは少し寝かせましょう。と水琴をアリスから受け取り、膝枕をする。水琴達は大きな噴水に設置されたベンチに座っていた。一時間ほどが経ち、自然と目が覚める水琴。


「う……ノルア?」

「おはようございます水琴様」


「結構寝てた気がする……」

「一時間ほどです」


「悪かったな。よいしょっと」


 水琴が体を起こすと目を見開いた。

 街が目に写った瞬間、水琴の耳にたくさんの人達の声や生活音、噴水の音がなだれ込む。


「は、え……まっ」


 情報の処理が追いつかない水琴。


 ルーヴェスト帝国の景観に怖気付く。ゴシックと呼ばれる建築が並ぶ。今まで見た家とは違い、ただ必要な建築をするのではなく、尖った装飾などの見た目を重視した――いわゆるデザインをメインとした建築ばかりだった。彩度が落とされ、色鮮やかな建物はない。その代わり趣味で並べられた花や木がより一層目立ち、鮮やかさを醸し出している。


 特質するべきは巨大な城。目の前の複数の世帯が使うであろう建築物をゆうに超える禍々しいデザインの城である。それでいて気品さを感じさせる。


 水琴を混乱に陥れたのは建物だけではない。


 街灯が並べられた石レンガの道を歩くのが人間以外の種族が非常に多かったからだ。モンスター以外で人間ではない種族と言えばエルフのエレナしか水琴は見たことがなかった。


 この街を歩いているのは毛が多く生え、耳や尻尾がある獣人、角の生えた魔族や混血種、ドラゴニュートのような爬虫類を主としたもの。なんとスライムまでが人間と一緒に街を歩いていた。

 エルフの森に匹敵する異世界の光景に水琴は脳の処理が追いついていなかったのだ。


「大丈夫ですか?」


 ノルアは水琴にそう言った。


「ああ。大丈夫。ちょっと驚いただけだ。すごい街だなここは」


「はい! 英雄譚に書かれていることですが、元々は魔族が隠れる森だったらしいです。

 それをエノア様が仲間に引き入れ、初めて人間と魔族が一緒に暮らす国を建てたのです」



「ほー……そのエノアってのは一体どうやって」


「エノア様は、水琴様と同じ異世界の方でした。

 転移ではなく転生者としてこの世界に産み落とされたエノア様はいろんな運命に巻き込まれ、背負い、自身の夢を叶えました」



「夢?」

「人間と魔族が暮らすこの国をつくり、自分の大切な者を守ることです」


「……立派な理由だ。俺と違ってな」


「ふふっ、そうでもないかも知れません。最初は巻き込まれただけで自主的ではなかったそうです。王妃リーシアと出会い、変わっていったと書かれているので、きっと水琴様もこれからなにか見つかるかも知れません。

 その為のお手伝い、私がんばります!」



「見つかれば、な」

「それでは私の屋敷に案内します。家族はお父様とお母様。それと妹が二人です」



 水琴とアリスはノルアの屋敷へと歩いて向かった。日が落ち始め、街灯に黄色い火が灯っている。これは魔法か? と水琴が尋ねるとその通りですと答えるノルア。


「この国は魔素が豊富でして、こうして魔術を刻むことで……」


 ノルアは落ちていた石を手に取り、地面のレンガに異世界の言葉を書く。レンガは媒体となって魔素を吸収し、そのレンガだけが光り輝く。


 文字を指で消しながらノルアは言った。



「と、こんな感じです。無尽蔵にあるわけではないので多用してはいけないのですが、今回は説明ということで」


 ノルアは自分の屋敷へと向かう間、魔素と魔力についての説明を始める。


「魔素というのは大気中に存在する力です。生きている限り微量ですが、これを吸収したり放出したりします。主に人間の方が魔法を扱う際はこれがメインになります。


 もう一つは魔力です。これは魔素を取り込み、自身の中で循環させることによって自分の一部とする力です。元々体に蓄積していることが多い魔族の方々は魔力を扱うことが多いですが、すべての源は魔素です。


 魔素は大気中にありますが不安定ですし、量もまばらです。魔力は普段から体に溜め込んでいるものなので安定しつつ強力で、自由です。

 その代わり魔素は魔力よりも負担が少ないので終焉魔法や最上位魔法と呼ばれる魔法は魔素を使用されます」




「終焉魔法?」


「はい。この世を終わらせる事が出来るとされる禁忌の魔法です。何千年も前に国が総力を上げて使ったという記録があります。

 もう一つはエノア様とその従者達が使ったとされてます」



「そんな危険な魔法ぽんぽん使えるものなのか?」


「いえ、それを使うための魔素を集めるのは用意ではありません。魔素は持ち運びできるものではありませんし。



 現状終焉魔法を使えるのはたった一人と言われてます」



「誰だそんな危なすぎる奴は」

「エノア様です」



「そのエノア様ってのはあのでっけー城に住んでるのか」


 水琴はいかにも魔王城というような巨大な城を指さした。ノルアは不安そうにその質問に答えた。


「いません……

 エノア様がこの国をつくり、世界を統治してからおよそ八百年程、突如として行方を眩ませました。玉座は空席なのです」



 エレナに行方不明になったと聞いたことを思い出した水琴はノルアに別の疑問を言葉にする。


「その空席とやらに誰も座らないのか?」


「座りたがらないのです。その責任は大きく、力も必要とするでしょう。認められるのにはどれほどの努力と力、名誉と名声、信頼が必要でしょうか。

 エノア様の末裔や今なお生きている従者もその席に座ろうとはしません。まだ空席とは認められていないという考え方もあります」



「もうひとつ聞きたいんだけど、”八百年”で行方を眩ませた? 生きてるのか?」

「はい。少なくとも行方を眩ませる八百年まではその生存を確認されています」



「人間がどうして……」


「エノア様は人間ではありますが、魔王であり、勇者であったんです。かなり特殊でして、寿命というものが存在するのかどうかも」



「チートすぎないか」

 まぁ自分自身も死ねるのか、寿命があるのか分からないがと心の中でぼやいた。



「チート? よく分かりませんがエノア様よりも長寿の存在がいますよ」

「とことんファンタジーだ……」


「代表的なのはシェフィ様でしょうか」

「シェフィ?」



「血の原初であり、悪魔です。詳しいことは書かれていませんでしたが神代の時にはすでに生きていたとのことなので少なくとも一万年以上も生きていることになります」



「頭痛くなってきた……」

「異世界は人間しかいないらしいですからね。あっ見えてきましたよ」


 ノルアが指差す先には大きな屋敷。



「え、一家庭がここに住んでるのか?」


「侍女も居ますがそうですね。

 少々お待ちください。着替えてからお父様とお母様に挨拶をして参ります」



 ノルアは軽くお辞儀をすると屋敷に入っていった。

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