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04 王子たちの思惑

 ラズリア公国のオルブライト商会と言えば、港町ラダリニアに拠点を構える小さな商会で、ある意味有名な商会だ。


 何故規模が小さいのかと言うと、頭目であるシルヴァ・オルブライトがこれまで諸外国とは貿易をしてきたにも拘らず、隣国のニルヴァーナ王国とは何故かやりとりを一切して来なかったからであった。


 やはり大国であるニルヴァーナ王国、そして王都ニルヴィアとの貿易を執り行わないのは商会としては中々発展が難しいのだが、それにはワケがある。


 とにかくオルブライト商会は、まるでニルヴァーナ王国を目の敵にしているかのように一切貿易しようとはしなかったので、規模は大きくならず、小さな港町と諸外国間でしかその名は知られていなかった。


 ゆえに商人たちからも「オルブライトは変わっている」と言われ「オルブライトに未来は無い」などと揶揄され続けてきたという意味で有名なのである。


 そんなオルブライト家も一応ちゃんとした貴族だ。


 港町ラダリニア付近に領地を持つ伯爵家なのだが、実は近年までオルブライト家は子宝に恵まれずにいた。


 先代、ハーストン・オルブライトは領民からの信頼も厚い良い領主であり、問題も少ない良い土地柄だったが唯一後継に悩まされていた。


 それが昨今、突如一人の男子を養子として受け入れた。


 それがシルヴァ・オルブライトだ。


 しかしシルヴァ・オルブライトは滅多な事では顔を出さなかった。


 また外を出歩くとしても必ず仮面を被り、その素顔を晒す事はなく、シルヴァという人物は謎多き貴族令息として、貴族間では奇異な目で見られていたのだった。


 それが――。


「な、何!? 今度の我が王宮での舞踏会にあのシルヴァ・オルブライトが出席するだと!?」


 ニルヴァーナ王宮にて。


 ガウェイン第一王子殿下は驚愕の表情で声を荒げる。


 それもそのはず。


 つい先日、そのシルヴァという謎の仮面男にルフィーリアに関する事などできつく糾弾されたばかりだ。


 自国であるなら不敬罪として強引に連行してしまう手もあったが、他国でそこまで強引な行為はさすがにできず、その後なす術もなかったガウェインは、仕方なく従者と共に国へ戻った。


 が、シルヴァの言う通り負けず嫌いな上にしつこい性格のガウェインは、おめおめと引き下がるわけもなく、ニルヴァーナ王宮に戻るや否や、すぐに自分の部下にオルブライト商会について調べさせた。


 隣国の貴族なので国交問題に発展してはと考え、安易な手出しをするべきではない事ぐらいは弁えているガウェインだったが、それでもなんとかしてオルブライト商会に制裁を加えてやろうと画策している真っ最中であった。


「これまでにオルブライト家が我が国の夜会に出席した事は?」


「おそらくありません」


 そう答えるのはガウェインの側近でもある兵士長のユリアン。ガウェインが最も信用している部下だ。


「では一体誰がオルブライト家を我が王宮に招待したのだ!?」


「それがどうやら第三王子殿下のようです」


「な、なんだと!? ブロンの奴めが!?」


 ニルヴァーナ王宮には王位継承権を持つ三人の王子がいる。


 第一王子のガウェインの他、第二と第三の王子が年功序列順に存在しており、ブロン・ニルヴァーナは陛下の三人目の子であった。


「何故ここに来てブロンがそのような者らを……」


「わかりません。もしやブロン殿下はオルブライト商会が有するあの魔石店を我が物にしようと画策しているのやもしれません」


「むう……そして、今度の夜会にてあの魔石店の希少性、有用性を謳い、王に自分の功績を認めさせ王位を狙っている、か?」


「無いとは言い切れません。まだダグラス陛下は王位継承についてハッキリとは物申されておりませんし」


「……っち。ルフィーリアとの婚約破棄を奴らにも見せつけていたからな。どこかで私があの魔石店の女に会いに行った事がバレたのか」


「そう考えるのが妥当かと」


「ブロンめ、それで私の足元を掬おうと言うのだな? 無駄な事を! いくらあのラダリニアの魔石屋が類い稀なる魔石師であろうと、こちらはフランシス家の令嬢と婚約しているのだ! 我が父ダグラスもこの私に王位を継承させるに決まっている!」


「その通りでございますガウェイン殿下」


「一度婚約破棄したルフィーリアに再度婚約を申し出たという事でもネタにし、この私を陥れようというのなら、私はハッキリと真実を言うまでよ」


「と言うと?」


「私の真実の愛はカタリナにある。だがルフィーリアの希少性がニルヴァーナ王国の為になると思い、やむなくそんな嘘をついた、とでも言えば我が父も納得するであろう」


「なるほど、国を思っての発言だったと弁明するのですな」


「だが此度、ブロンがもしルフィーリアを自分の物にする策略でいるのなら、それはそれでいい。我が王家はフランシス家とルフィーリアの両方を手に入れられたと父上もお喜びになるだろう。そこで国の事を第一に思っている私を王位継承から外すなどありえるはずもない」


「確かに。それならば返ってダグラス陛下もガウェイン殿下に一目置かれるかもしれませんな」


「くっくっく、そういう事だ。だが一応念の為、ブロンの動向には注意を払っておけ」


「ですが今、ガウェイン殿下の直属で動ける者は、オルブライト家の調査などに割いてしまっておりますが」


「もうオルブライト家についてはこれ以上大したネタも出ないだろう。引き上げさせて、ブロンの動きを見張れと言い渡せ」


「っは。かしこまりました」


 ガウェイン殿下はまだ知らない。


 シルヴァ・オルブライトが出席するその本当の目的を。


 そしてその意図を。


 それはガウェインだけではない。


 誰一人知る由もない。


 シルヴァのその本意を――。




        ●○●○●




 時は少しだけ遡り、ラダリニアの港町にて。


「私の婚約者になってくれないか?」


 そう告げたシルヴァの言葉にすっかり困惑していたルビイであったが、その晩に再びやってきた彼の言葉で冷静さを取り戻す事ができた。


 シルヴァの言った婚約者とは、演技の上での婚約者という意味だったのだ。


 オルブライト商会は実はこの度、それまで頑なに取引を行おうとはしなかったニルヴァーナ王国との貿易関係を結ぼうと考えているのだという。


「実は前々から第三王子のブロン殿下と話が進んでいてね」


 とシルヴァは言った。


 シルヴァとブロン殿下は元々チェス仲間であったらしく、とても友好的な関係にあった。


 シルヴァがオルブライト家の養子になった後もその関係は続いていて、つい先日、シルヴァはブロンにルビイの話をしたのだという。


 ルビイの事を哀れに思ったブロンはシルヴァにこう言ったそうだ。


「それならば、シルヴァ殿を今度の王宮の舞踏会に招待しよう。その場で今後我がブロンの名の下にニルヴァーナとオルブライトが貿易関係を締結する旨を表明しようじゃないか。そしてオルブライト家の婚約者としてルビイさんを紹介しよう」


 そうすれば、ガウェインも下手な手出しはできなくなるだろうとの事だ。


 その話が出るまでシルヴァはニルヴァーナ王国の事を忌み嫌っていたので貿易関係を結ぶつもりは全くなかった。


 だがガウェインからの要らぬちょっかいを失くさせるには、この手が妙案だと考え、ブロン殿下の発案に乗ったのである。


「つまり私はシルヴァ様の婚約者のフリをして、王宮の舞踏会に出ればよろしいんですわね?」


「その通りだ。もちろん、私なんかとでは嫌かもしれないが、キミの身の安全を考えて我慢してもらえれば……」


「嫌だなんてそんな事!」


 あるはずもない。


 むしろルビイはそれが演技で無くても良いのに、とすら思っていたのだから。


 とにもかくにも、ルビイはこのシルヴァの提案を受け、追放されたあの王宮へ再び足を踏み入れる事となる。


「ですが私はガウェイン殿下に王宮に二度と来るなと言われていて……」


「なに、この前訪ねてきた時にはアレは誤解だったとガウェイン殿下本人が言っていたであろう? 言質は取ってあるのだから、もしその事でとやかく言われたら私がそう言ってやるさ」


「わ、わかりましたわ……。でもシルヴァ様、舞踏会までその仮面を付けたままで出席なさるおつもりですか?」


「規定には駄目だとは記されていないし、ドレスコードはきちんと守るよ。何よりブロン殿下直々のご招待だ。その辺はなんとでもなるさ。それに……」


「それに?」




「その舞踏会での状況次第では、私はこの仮面を外す事になるかもしれないし、ね」






ご一読いただきまして、本当にありがとうございますッ!


面白かった、続きが気になる、と少しでも思ってくださったならブックマークやこの下の⭐︎で評価を頂けるととても嬉しく励みになります。どうかどうか、よろしくお願い致します。

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