18 真実の愛
(ルビイさん素敵すぎるだろ、常識的に考えてッ)
バルコニーにて、夜風に美しい髪を靡かせるルビイを見て心奪われているシルヴァは、実はこの時、強い決心をしていた。
(私はやはり彼女の事が……ルビイさんが好きだ。死ぬほど好きだ。だから今日こそ、この場で、このままの流れで本当の愛を告白をしなくては)
と、決意していたのだが、何故か話が逸れに逸れてしまい、妙な疑心感を彼女に抱かせてしまう。
そして気づけば。
「わ、私……け、決してシルヴァ様に利用……ひっく……さ、された事とかが悲しいとかでは……ないんですの……ぐす、ぐす。な、なのに……」
ルビイを泣かせて傷つけてしまう形となってしまった。
シルヴァは自分の情けなさを呪った。
知らず知らずのうちに彼女を傷つけてしまっていた事を。
しかし同時にわからなかった。彼女の涙のワケが。
けれど、今後の事も考えるとルビイに対して本当の気持ちを伝えなくてはならない。
シルヴァの婚約者になってもらえるか、どうか。
しかしシルヴァは兄の愚行を見て、ずっと悩んでいた。もしルビイの気持ちが自分に向いていないのにも拘らず、地位と権力に物を言わせて女性の気持ちを捻じ曲げてしまう事に。
今、シルヴァは自分が第二王子という身分である事を彼女に明かしてしまった。
だからこそシルヴァは余計に言いづらくなってしまったのだ。本当の気持ちを。
(でも、このままじゃダメだ。だから、どんなに情けなくとも私は言わなくては……)
ようやく決心を付け、シルヴァは、
「ルビイ、聞いて欲しい」
そう言った。
「は……い……?」
シルヴァは大きく深呼吸をし、ルビイの両肩をグッと掴み、
「私は……キミが好きだ」
と、告げた。
(……言ってしまった。言ってしまった言ってしまったついに本当に彼女に直接言ってしまった好きだと言ってしまった彼女の肩を掴んで綺麗な瞳を見つめながら言ってしまったうわあルビイさん超可愛い超綺麗超好きだああダメだ今すぐこの場から逃げ出したいいつもの仮面を付けて表情を隠したいやっぱりすぐに誤魔化してしまおうかいや待てそれではこれまでと一緒だそもそもルビイさんは私の事なんてなんとも思ってないのだから別に)
シルヴァは表面上では極力平静を装っているが、小刻みに身体を震わせ、ルビイの肩を持つ手には無駄に力を入れ、脳内では目まぐるしいほどに様々な思いが駆け巡っている。
その顔はその耳先まで真っ赤になるほど照れ上がってしまっていた。
「……あ、あの」
しばらくの間があいてルビイが言葉を紡ぐ。
「は、はい」
シルヴァはいつもの口調ではなく、それは実に情けない返事をしてしまった、と自分でも気づいた。
「シ、シルヴァ、様……そ、その」
「……」
シルヴァはルビイが何を言うのかわからず、その心臓がはち切れそうな程に脈を強く早く打っている。
(この反応彼女は嫌がってる怖がってる困っているどうすればいいのか困ってる顔だ失敗した失敗した私は失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した)
「す、少しだけその力を緩めてもらえませんか?」
「……へ?」
「そ、その……シ、シルヴァ様の両手が……も、ものすごい力で……ちょっと痛くて……」
「あ、あああッ! す、すすす、すまないッ!」
シルヴァは慌てて両手をパッと離した。
そしてまた、
(やってしまった失敗してしまったこんな柔らかく細いルビイさんの肩をあんなに強く握りしめて怖がらせて痛がらせて私は何をやっているんだ情けない逃げたい消えたい死にたい失敗したああ失敗した失敗した失敗した失敗)
「あ、あのシルヴァ、様……」
「はい……」
もうシルヴァの体力は精神的にとっくにゼロだった。
側から見てもわかるくらいに、しょんぼりと肩を落とし、力なく返事していた。
「シルヴァ様、ありがとうございますわ」
「……」
シルヴァはもう頭の中の整理が追いつかず、自身の手で顔を隠すように押さえ、ロクにルビイの顔すら見れなかった。
(彼女がお礼を言っている。何か応えなくて。何を? 傷つけない答えを。私は何を言えば私は私は……)
「私を気遣ってくれたのですわよね?」
「……え?」
「私が……私が本当は最初からシルヴァ様の事をお慕い申し上げていた事を察して、シルヴァ様は私を傷つけないように、そう言ってくださったのですわよね?」
「……ん? ん? え? え?」
ルビイの言葉にシルヴァはいくつものハテナを頭に浮かべる。
「ごめんなさいシルヴァ様」
(謝った……謝らせてしまった……終わった……終わりだろコレは……常識的に考えて……)
と、一人絶望するシルヴァだが、
「シルヴァ様にこんなに気を使わせてしまうなんて……ただでさえ、こんな中古品の女を拾って助けてもらった上に、お気遣いまでさせてしまうだなんて、申し訳なくて……」
ルビイは力のない笑顔でシルヴァの顔を見て、言葉を続ける。
「シルヴァ様、ご無理をなされないでください。私との演技はもう終わりですわ。だからこれからはシルヴァ様の本当の愛をお探しになられて欲しいのですわ」
「ル、ルビイさ……」
「同情と愛情を履き違えてしまってはシルヴァ様がお可哀想です。私の事を同情してくださっているのでしょう?」
「ち、ちがッ!」
「ご安心してください。私は例えシルヴァ様が他の女性と結ばれたとしても、この魔石師としての力を貴方様の為だけに使い続けるとお約束致しますから。だから、私などに縛られないでくださいませ」
ルビイにそこまで言わせてようやくシルヴァは気づいた。
自分の愚かさと、言葉の届かなさを。
想像していたよりも、ルビイと自分の距離は遠かった。
関係性が悪かったのだ。
だから、通じるはずもない。
真実の愛など。
挫けそうだった。シルヴァは初めて挫けそうになりかけた。どんなに辛くても挫けない事だけが自分の矜持であると自負していた自分が。
(違う。私の愛は……)
シルヴァの愛は本物だ。海よりも深くルビイを愛している。
「ルビイ、いや。ルビイさん! 聞いてくれッ!」
シルヴァはもう一度だけ心を立て直す。
「私は、自分の地位も名誉も、本当は何もかもいらないんだ。私が一番欲していて、目指していたところは、本当は……兄上の失墜などでは、ないんだ……」
そして全てを、弱さを、曝け出すしかないと決めた。
「シルヴァ様の……本当の目的?」
「ああ。ルビイさん、私はずっと、ずっとずっとずっと前から……キミが兄上に婚約破棄されるよりも遥か昔からキミの事を愛していたんだ」
「……え? え?」
今度はルビイがハテナ顔で目を丸くする。
そして、
「私は……数年前、ルビイさんが兄上の婚約者として初めてこの王宮にやってきたあの日から、ずっと貴女の事を本当に、本気で心の底から愛してしまっていたんだ」
と、自分の想いの全てを包み隠さず語り始めるのだった。
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