16 過去との決別
ガウェイン第一王子殿下が断罪され、連行されるというまさかの急展開に舞踏会会場は妙な空気に包まれていた。
そんな中。
「皆の者、我が王家のつまらぬ恥を晒してしまった事、深くお詫びするッ!」
ダグラス王がその空気を察し、再び声を張り上げた。
「だが、同時にこの場で素晴らしい事実も発覚した。それは我が息子のシルヴァリオとルフィーリア嬢が婚約しているという事だッ!」
ダグラス王は先程までの険しい表情を一変させ笑顔でそう言った。
「シルヴァリオ、ルフィーリア嬢、こちらへ来てもらえるか?」
ダグラス王の誘いに、
「「はい」」
と、ルビイたちは頷き、ダグラス王のいた壇上のもとへと二人並んで歩み寄った。
「今一度、確認させてほしい。シルヴァリオ、お前は本当にこのルフィーリア嬢を愛しているのか?」
「はい、父上。私は彼女を心より愛しております」
「ではルフィーリア嬢。貴女も我が息子のシルヴァリオを愛しているのか?」
「はい。私も……愛しております」
ダグラス王は二人の目をジッとしばらく見据える。
「……」
やや長い沈黙の後、
「……わかった。ならば何も言うまい」
ダグラス王は小さく笑って瞳を閉じた。
「ではここに正式に、シルヴァリオ・ニルヴァーナとルフィーリア・フランシスとの婚約を我が名ダグラスにおいて認める事とするッ!」
わぁーッと会場が再び湧き立ち、盛大な拍手に包まれた。
「父上、ひとつだけ訂正を」
「なんだシルヴァリオ?」
「彼女は現在フランシス家に勘当され、更にはその名を名乗る事すらも禁じられています。なので、彼女は今、ルビイ。オルブライト家の姓の字をあてがい、ルビイ・オルブライトと巷では名乗っておりました」
「そういえばそうであったな。これは失礼した。では改めて、ルビイ、今後とも我がシルヴァリオをよろしく頼むぞ」
「はい、陛下!」
「それと父上。更にこの場を借りて私から皆に言いたい事があります。よろしいでしょうか?」
「うむ。シルヴァリオ、お前の思うままにせよ」
シルヴァリオは笑顔で頷き、会場の人々の方へと向き直す。
「おそらく今、この場にいるはずであろうルビイとカタリナのご両親であられるフランシス家のエメルド卿とディア殿に伝えたい事があるッ! いるのであれば、我々の前に出てきてもらえないだろうか!?」
というシルヴァリオの言葉を聞いて、ルビイは目を丸くした。
まさかこの会場に父と母が来ているとは夢にも思わなかったからだ。
そしてしばらくすると、人混みにまぎれ二人の男女が言われるがままに現れる。
「……お父様、お母様」
ルビイは寂しそうな目で両親を見た。
「ルフィーリア……」
ルビイの父と母も、複雑な面持ちでルビイを見上げる。
そしてシルヴァリオがスゥッと意を決するようにひと呼吸すると、
「単刀直入に聞く。カタリナが言った、ルフィーリアが行なったという虐めは全くのデタラメであると、本当に気づけなかったのか? それともわかった上であえてその嘘に乗ったのか?」
と、エメルドを問い詰めた。
「き、気づけませんでした……」
「ほう? では貴公の目は実の親とは思えぬほどの節穴ぶりだな? それかそんな事すらも見抜けぬほど、相当の能無しなのだな」
シルヴァリオはきつくきつく、エメルドを貶める。ルビイがこれまで言われてきたような言葉を彼女の親たちに返すかのように。
更に続けて、
「ハッキリ言わせてもらう。実の娘の言葉を真正面から聞きもせず、何が真実か、何が虚偽かすら見抜けずに彼女の親を名乗る資格などないッ! ルビイを勘当? むしろルビイの方から貴方がたを見限ったのだッ! 愚か者どもめッ!」
シルヴァリオはその表情を険しくさせて、エメルドとディアをきつく責め立てた。
「これまでの経緯は全てルビイと、他の情報提供者から聞き及んでいる! エメルド卿、そなたはルビイの魔石師としての本質を見抜けないどころか、フランシス家から居場所を奪う様な言動や態度を取り続けてきた。結果として厄介者払いかのようにルビイを追い出した。それに間違いはないな!?」
エメルドはシルヴァリオと視線を合わせようとはせずに目を伏せ、
「……う、ぐ……。ま、間違いは……ありません」
渋々と自分の非を認める。
「ディア殿。そなたも実の娘の言葉ではなくエメルド卿の言葉に従った! それが貴女の本心ではないとはいえ、その事実に間違いはないな!?」
「……はい、殿下。私は……愛する娘を見放しました」
ディアは涙を浮かべて素直に頷く。
「本来ならばそなたらにも何かしらの罰を与えてやりたいくらいだが、これはあくまで私個人による感情的な物言いだ! だからエメルド卿たちへの罰はこの大衆への恥辱というだけに留めるものとするッ!」
シルヴァリオのその言葉を聞き、エメルドがおずおずと口を開いた。
「シ、シルヴァリオ殿下。その……私としても浅はかな行動、言動を取った事については深く反省致します。そこでルフィーリアとの勘当を取りやめようと考えるのですが……」
しかしそのエメルドの提案にシルヴァリオは首を縦に振らず、
「エメルド卿、そのような勝手は貴方だけの都合で決めて良いはずもない。それは私の隣にいるルビイ本人に訊ねてみては?」
シルヴァリオが厳しくそう言うと、エメルドはその通りにルビイの方へと向き直し、
「ル、ルフィーリア、その、すまなかった。お前の事を勘違いしていたのだ。この愚かな父を許してはもらえぬだろうか……?」
「ルフィーリア……本当にごめんなさい……」
エメルドとディアは頭を下げてルビイにそう懇願し、
「お父様、お母様。もう頭を上げてくださいませ。謝罪を頂ければ私はもうそれだけで充分ですわ」
ルビイは柔らかな口調でそう答える。
「そ、そうか。それではルフィーリア、また私たちを親だと言って……」
「いいえ、それは違いますわ」
エメルドの言葉に今度はきっぱりと否定し、
「お父様、私は言いました。謝罪さえもらえればそれだけで充分だ、と。つまりそれ以上はもう何もいらないのです。そう、フランシス家などという愚かな家系の名なども」
「ル、ルフィーリアッ!?」
「これまでありがとうございました。そして今後は赤の他人として、接しさせてもらいますわ、エメルド様、ディア様」
ルビイは礼儀正しく頭を下げて、その態度と言葉で両親への報復としたのである。
ルビイも本当は心の中で両親を許そうかと激しく葛藤した。
だが、やはりどうあってもフランシス家の浅ましい考え方が好きになれなかった。
なので、過去と決別する為にも、ルビイは決めたのだ。
自分は生まれ変わるのだ、と。
「そういう事だ、エメルド卿。ルビイの事は今後、ルビイ・オルブライトと呼べ。そして私と正式に結婚し、私が王位を継いだのならば、その後はルビイ・ニルヴァーナ王妃と敬意をもって接するように」
シルヴァリオの言葉にエメルドとディアはがっくりと肩を落とした。
「……ルビイ、よく頑張ったな」
シルヴァリオはルビイの顔を見て、笑顔でそう言うと、
「はいッ……」
と、笑顔で少しだけその瞳に涙を浮かべ、ルビイはそう答えたのだった。
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