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09 ス ス キ

「……はぁ」


 早朝。


 王都へと向けた馬車がルビイたちを乗せて走っていた。


 王都へはこのラダリニア付近から、馬車で約半日ほどで着く。国境の関所を抜ければ王都は間近だ。舞踏会は夜遅くなので十分間に合う距離である。


 そんな王都へ向かう馬車の中、ルビイは複雑な心境を抱えていた。


「ルビイ、不安かい?」


 その様子を見て心配そうにシルヴァが声を掛ける。


「あ……いえ……」


「強がらなくていい。ガウェイン殿下やフランシス家からあれほど冷遇された身なのだ。その根源であった王宮に向かうのに、気が滅入らないわけがない」


「……はい。やはり、少々不安ですわ」


 シルヴァに言われ、ルビイは本音を漏らす。


「なに、安心してくれ。キミは私の婚約者なのだ。オルブライト家の一員のつもりで堂々と胸を張っていればいいさ」


「そう、ですわよね……」


 とは言ったものの、ルビイの不安感は拭えない。


 そんな彼女を案じたシルヴァは、


「ところでルビイ。いつもキミは綺麗だけど、今日の髪型はより一層キミの美しさを際立たせているね」


 と話題を逸らすべく、可愛らしくそれでいて上品に上げ結われたブロンドの髪を見てそれを褒めた。


「え? あ、ありがとうございますわ……」


 少し恥ずかしげにルビイは顔を赤らめる。


「それにやはりそのドレス、とてもよく似合っている」


「こんな素敵なドレスを頂いてしまって……嬉しいですけれど、なんだか申し訳ないといいましょうか……」


「なに、ルビイなら何を着ても美しいさ」


「そ、そんな事……」


 と、言いながら再びルビイは顔を赤らめた。


「そ、その……シルヴァ様のタキシードも、とても素敵です。よくお似合いになられておりますわ」


「ふむ。そうならば良いが……」


 上手く話題を変えられた、と喜ぶシルヴァだったが、次第に恥ずかしくもなってきた。


「シルヴァ様」


「うん?」


「その……前々からお聞きしたかったのですけれど、何故こんな私に目を掛けてくださったのですか?」


「それは……」


 その真実を伝える事は憚られた。


 何故ならそれはシルヴァの秘密に直結するからである。


 なのでシルヴァは、


「……前にも言った通り、ガウェイン殿下にお灸を据えたかったからさ」


 と、出会った当初と同じ答えを返す。


「はい。それは聞き及んでおりますが……それにしても何故こんな私にここまでお優しくしてくださるのかと……」


(それはキミの事が大好きだからだッ!)


 というのが全ての答えなのだが、当然軟弱者のシルヴァにそれを言う勇気などない。なので、


「……オルブライト商会の発展の為、さ」


 と言って、馬車の窓に目をやった。


「……シルヴァ様。ありがとうございます。貴方様には本当に感謝しかありません」


「それはこちらこそ、さ」


 馬車の中。平静を装い続けるシルヴァの脳内は当然だが、ルビイの事で頭が一杯だ。


 とにかく今日のルビイは可愛すぎた。


 ドレスアップされた衣装が彼女を何倍も美しく映えさせていて、シルヴァには「辛抱たまらん!」と言った感じなのである。


(ルビイさん可愛い……はあ……)


「わあ、可愛い!」


「ひゃああああッ!?」


 ルビイがまるでシルヴァの心を読んだかのような発言をした事に驚き、またもや情けないおたけびをあげてしまう。


「え!? ど、どうされましたシルヴァ様!?」


「……い、いや。ルビイ、何が可愛いんだ?」


「ほら、アレを見てください!」


 ルビイがそう言って馬車の窓、カーテンの隙間から指差したその先は、色とりどりに花咲かせた一面の花畑が広がっていたのである。


「ほう、これは……」


「凄いですわよね! 私、こんなに大きくてたくさんの色が織り交ぜられたお花畑を見たの、初めてですわッ!」


「私もこの街道はよく通るのだが、こうしてまじまじと見たのは初めてかもしれんな」


「うふふ。シルヴァ様って仕事一筋、って感じですものね」


「そ、そうだろうか……」


「そうですわよ? いっつも眉間にシワを寄せて……って言っても普段は仮面をしてらっしゃるので、私の予想ですけれどね」


 あはは、とルビイは楽しそうに笑う。


 それを見たシルヴァは、


「好きだ(好きだ)」


 そんな彼女の笑顔が眩しすぎて、ついに口を滑らせてしまうのである。


「えッ!?」


「……ッは!?」


 やってしまった、と思ったシルヴァは脳みそをフル回転させて、


「ス、ススキだ。ほら、アレを見たまえ。ススキだ。ススキの群生地だ。ススキだ、ススキだ」


「そ、そうですわね? でもススキなんてどこにでもありますわ……?」


「うむ。しかし凄い量のススキだ、と思ってな。ススキだ。アレは。うん。私はススキが好きだ」


「は、はあ……?」


「ススキは確かイネ科のススキ属の植物だったな。いやぁ、しかし随分と大きく育っているな。立派なススキだ。私はススキが好きだ」


「シルヴァ様はススキがお好きなんですのね?」


「うむ、好きだ。ススキだ……好きだ……ススキだ……」


 仮面が無ければ顔面真っ赤になっていたその素顔を晒してしまうところであった。


 とりあえずなんとか誤魔化せたので一安心する。ススキがあって本当によかったとシルヴァは思った。


「ぷっ、変なシルヴァ様」


 そう言ってルビイは楽しそうにまた笑った。




(ルビイさん、超ススキだ)




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