4、
「……、ん、こ、こは……?」
目を開けると、そこは薄暗い場所だった。
よく目をこらしてみると薄暗いが森のなかだということが把握できた。
おかしい。僕はさっきまで確かに先生に稽古をつけてもらっていたはずなのに。
一瞬、先生が力加減を間違えて本気で僕をぶん殴って、その反動でこうなったのかとも思ったけど、その割には頭も、体も動かしてみても痛いところはない。
徐々に訳が分からなくなってくると共に嫌な汗が全身から吹き出してきた。
もしかして僕はもう既に死んでいるのではないか。
間違ってせんせいか誰かに殺されたのではないのか。
……いやいや、まさか。
さすがにいくらなんでもないだろ。
ほら、死ぬ直前に見るという走馬灯とやらも見た記憶がないし。
「……ふぅ」
よぉし、落ち着け、僕。
大丈夫だ、きっとしんじゃいない。
パチパチ。
ほっぺたを叩いてみてもちゃんと痛みを感じる。
「……よし」
とりあえずここでぐずぐずしていても埒が明かないと思い、辺りを探検してみようと腰を浮かす。
その時
『ギャァギャァ』
僕のいる辺りがちょうど少しだけ森が開けていて空が見える。
その隙間から、とんでもなくばかでかい鳥が飛んでいるのが見えた。いや、鳥というより、むしろ怪鳥というのが正しいか。
「んなっ!?」
そう。その鳥は僕が勉強した限り数年前の[大戦]で絶滅しているはずの、少なくともそう習った鳥だった。
「……アーケル」
アーケル。それがその怪鳥の呼び名だった。からだの割に小さい頭と身体中をおおう真っ黒な羽毛が外見における最大の特徴だ。闇夜に紛れ上空からの奇襲と集団での攻撃を得意として、卓越した飛行技術で相手を圧倒する、と昔買った魔物大全に書いてあった。
さて、この大陸はおおよそ2つに分けることができる。西半分が魔物領域。それにたいして東半分が人類領域である。
人類がおおよそ支配している東側はそのほとんどが開拓されているのに対し、西側半分はいまだに深い森がおおっている。
特に、森の最深部には伝説級の魔物がいるだとか、新種の溜まり場があるだとか、妖精がすんでいるだとか、様々な噂が飛び交っている。それらは都市伝説の域をでないものの、盛んに研究されているテーマでもある。
その森は、徐々に東側に進んでいた。このままでは人類側の土地がなくなると思った各国の統治者たちは十年とすこし前に会議をおこし、一挙大攻勢に打って出ることを結論付けた。
結果として人類側は土地を取り返したものの、損害も大きく、立て直しに時間がかかり、また少しずつ押されている現状である。
さっきまでいたはずの王国は東側の、比較的西側から遠いところにある。
だから強い魔物が出現するのは希であった。
しかし、ここは森の様子から見るに、西側だろうと思った。
しかも、ほとんど研究が進んでいないため現在地が分からないどころか地図すらまともなものが出来ていない。
つまり、いま僕はどこにいるのかは全く検討がつかないということだ。
しかし、嘆いていても仕方がない。授業でも開けた場所は危ないと習った。特に、あまり夜目の効かない人類にとっては開いた場所は一方的に狙われるため危険きわまりない。
とにもかくにも移動することにした。
日が出ていないため、どちらが東なのか分からない。それどころか鬱蒼とした森で月の光さえも届かない。
この視界の効かないなかで移動は困難だと判断し、とりあえず今日休める場所を探すことにした。
手探りで進んでいくと少し背の低い木が密集して外からは中の様子が見えなくなっている場所を見つけた。
キョロキョロと回りを見渡す。そして回りに生き物の気配がないことを確認するとそろそろと茂みの中に入っていった。
中は空洞になっていて、僅かながらも空間が開けていた。しかし、僕は本日二度目の冷や汗にみまわれていた。
「あ」
そこは、巣になっていた。比喩ではなく、その言葉の通りの。
空洞の中央には藁のような乾燥した草が円形に積まれ、その中央に3つの卵があった。
基本的に、自分の巣に自分以外の生き物が入って歓迎するという習性は聞いたことがない。しかし、ざんねんながらいま僕は完全に侵入者になってしまっている。
さて、自分の巣に、あなただったら自分の家に見知らぬ人が入っていたらどうするだろうか。とりあえず問答無用で追い出すだろう。とっさのことであればつい手が出てしまうかもしれない、という人もいるだろう。
つまりそういうことである。
辺りが暗いせいで卵の模様が判別できない。つまり、どんな生き物のものか分からない。
いまからでもここを離れようかとも思ったけど、しかし野生の生き物は総じて鼻がいい。きっとすぐに追いかけてくるだろう。
と。
ガサゴソッ
「――っつ!!」
僕は身を固くしてその時を待つ。
「あっ」
僕の目の前に姿を現したのはパラノドン。草食のおとなしい動物だ。
ちなみに、魔物と動物は別だ。
魔物は狂暴な性格と魔法が特徴だが動物はおとなしいものも多く、魔法はほとんどの種が使えない。
「ふうぅぅぅぅう――」
ひとまず、身の危険は去ったと考えるべきだろうか。
ペロッとパラノドンに舐められた。攻撃してこないので少なくとも敵対視はされていなさそうだ。
しかし、これからどうしようか。ここならひとまずの身の危険は回避できる。しかし、ずっとここにとどまるわけにはいかない。
「ふぅ、」
僕が再び息を吐いたとき、辺りを緊張感が包み、親のパラノドンが体を固くしたのが伝わった。
そして。
「ぐがあぁぁぁぁぁぁあぁっぁ」
辺りに身震いするような咆哮がこだました。
来週テストなので少し間が開きます。
ご了承下さい。そして、気長にお待ちいただけると幸いです。