3、
という流れで決闘である。この国では、厳正なルールのもと決闘が公認されている。もちろん、立会人がついたり、あくまでもルールに従っての形だが、しかし、それは強者のためのものに等しく、弱者にはそもそも配慮されていない。
「ち、ちょっとまってよ! さすがにいくらなんでも決闘は…」
「あ? なんだよ? もしかして、あれか? 戦う前に逃げる気か?」
「いや、そうじゃないけどさ、」
「おいおい、勘弁してくれよ? 逃げられたら俺が勝てねぇじゃねぇかよぉ?」
クラスでは笑いの渦が起こる。
と、そこに。
ガラガラ、と教室の前の扉が開いた。
「あっ、先生…」
「おいおい、おまえら、どうしたどうした。」
さあぁぁぁっと今日の空気が冷たくなる。いくら決闘が合法といえど、危険行為に変わりはない。それに、決闘を挑む正式な理由もない。
先生が学校の生徒である以上、教師の許可は必須だが、先生がゴーサインを出すようにはとても見えない。
これはチャンスと感じ、早速交渉に入る。
「先生、僕が決闘する理由なんてなんにもないんですよ! 先生なら反対してくれますよね!? お願いします!」
「お? どういうことだ? お前、戦う気なのか? して、だれと?」
「……、俺、です」
ドランが答える。
「ほぉ、そうかぁ、お前らが……」
先生はなぜか小考する。
「ちょ、先生!? いま考えることあります? 許可なんてしないですよね!?」
ところが、その先生はこちらを見やり、にゃっと笑ってこう言った。
「いいんじゃないか、やってみろ。それに、ほら、なんなら私が立ち会ってやろうか?」
「「「「――っ、え??」」」」
何人かの声がハモる。
「っ、はぁ!? なんでですか、先生!?」
「あ? いいじゃないか、そんぐらい」
「そ、そんぐらいって……」
一方、ドラン陣営、つまりクラスのほぼ全員は喝采だった。
「い、いよぉーし!!」
「よ、よかったっすねドランさん!」
「ああ、よし、そうと決まればおまえら、これからとっくるするぞ。3分後に中庭集合な!!」
「「「おぉー!!」」」
ドカドカと大きな足音をたてて教室から駆け出していくドランを見つつ、僕は先生に食いつく。
「ちょっ、先生! なんでですか! なんでオーケーしたんですか!? あいつと、ドランと僕が戦ったら僕が吹っ飛ばされるに決まってるじゃないですか! あいつはこの選び抜かれた学校の一年のなかでトップクラスの実力者ですよ! それに比べて、僕は……」
僕がいいよどむと先生は
「僕は、なんなんだ?」
「っ、僕は、学年でワーストの強さですよ!? そんな、僕が負けるのも火を見るよりも明らかなのに、どうして許可したんですか!?」
「はっ、お前はアイツをトップクラスというが、私から見ればまだまだだぞ?」
先生は僕の抗議を鼻で笑った。
「そりゃ、この王国で屈指の強さを誇る先生にいわせたらそうなんでしょうけども! ここは精鋭の集まる近衛騎士団じゃないんですよ? 学校ですよ、学校!」
「それがどうした。ここだって各地域の天才、神童たちが集まる学校なんだろ? それに、どっちも弱肉強食の社会ということには変わらないだろ」
「っ、それは……」
反論されて言葉につまる。確かにここは各地域から数名しか入学できない、王国内最難関とも言われる学校である。
それに、強いものしか生き残れないのがこの国であり、社会でもある。
「……、で、でも……」
「あ? なんだ、お前。もしかして戦うのが怖いのか?」
「そりゃ怖いですよ! 決闘では何が起こるか分からないって先生もいってたじゃないですか! それに、相手はあのドランですよ!? 絶対に吹っ飛ばされるだけじゃすまない……」
「ふん、なにをいじけている、そんなんじゃ、勝てる試合も落とすぞ。それに、今日決まったのだから本番までは少なくとも後二週間ある。それだけあれば相当腕が上がるだろ」
確かに、決闘は発議から本番まで二週間以上開けなければいけないという決まりもある。それは一時の感情で争われても困るという考えがある。
しかし、二週間だけである。
「じゃあ、どうすればいいんですか!? たった二週間で、この絶望的な差を埋めるにはなにをすればいいっていうんですか!?」
「ふむ、そうだな……」
先生は顎に手を当て考える。
その姿には、確かに七剣聖の一角をになう、圧倒的な風格が感じられる。
そして、おもむろに口を開いた。
「お前、どんなことをしてでも勝ちたいか?」
「な、どんなことでもって……、不正ですか!?」
「あぁいや、今のは私の聞き方が悪かった。改めて聞こう。お前、どんな努力をしてでも勝ちたいと思うか?それこそ、血を吐くような努力だったとしても」
「っ、まあそりゃ勝たなきゃ僕の未来はないですし……」
「ふっ、そうか。なら、お前、闘技場にこい。五分後だ」
「んな、ちょっとまってください、」
先生は僕の言葉を最後まで聞かず教室を出ていってしまった。
「あちょ、先生! ……あー、もう!」
ただ、ドアを出る瞬間、こちらをチラッと振り向いたように見えたのは気のせいだろうか。
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五分後。僕はやはりどうしようもなくてしぶしぶながらいつも使っている木刀をもって闘技場のど真ん中に立っていた。
しかし、そこに先生の姿は見えなかった。
「……やっぱりいないじゃん。まぁ、知ってたけどね」
そう。僕は最弱。そして、嫌われもの。誰かが手を貸してくれるなんて思ってはいけない。
「何が知ってたんだ?」
「なっ!?」
驚いて振り向くと、闘技場の扉の前に先生が立っていた。……ジャージで。
「あっ、いや、なんでもないです、っていうか何ですかその格好は!? さっきまでちゃんとスーツ着てたじゃないですか!」
「は? なにをいってる。これから動くんだからスーツじゃおかしいだろ」
「は、はぁ」
「おいおい、なにを気の抜けた顔をしている。やる気はあんのか?」
「あ、やりますやります」
「そうか。じゃあやるぞ。ほら、早く準備しろ」
「はっ、はい。ん? なにやるんですか?」
「そんなの私との1vs1に決まってるだろ」
「えっ、」
「ん? 嫌なのか」
「あ、いや、そんなことは――」
「ならやるぞ。ほら、かかってこい」
そういうと先生は壁に立て掛けられていた竹刀を手に取り、数回振ると僕に向かってびしっと付き出した。
その姿からは、いつもの雰囲気は抜け、覇気が体を包んでいた。心なしか体も一回りほど大きく見える。
「はいっ!」
そして僕も先生に向かって構えると駆け出していった。
「うおぉぉぉ!」
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あっという間に倒されると、先生は余裕そうな顔で
「おいおい、そんなもんかよ」
「くっ、うぁぁぁぁ!!」
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どれほどたっただろうか。何回負けただろうか。
何回やっても負け続ける。
だけど、負けたくなかった。
だから、何度も何度も繰り返し走った。
「うっ、あぁぁぁぁ!、」
「はっ!」
そうやってたどり着いた更なる一戦。
「はあっ!」
「うぐっ」
何とか先生の反撃を防いだと思った瞬間、つばぜり合いの向こうで先生と目が合った。
そして。
先生がふっと、いや、にやっと嗤った瞬間、体が回り始めた。
そして、意識を失った。少なくとも僕はそう感じた。