1、
「おい、『無能』。お前がこんな所に来てていいのか? 他にやることがあるんじゃねぇのか?」
『ドガッ』
「うっ」
「「「ぎゃはははは!」」」
「ドルン、そこら辺にしておけ。やり過ぎると後々面倒だ」
「あぁ、そうだな、悪い」
ドルンと呼ばれた男が謝ったのは蹴った俺に対してではなく、おそらく注意されたことに対する反応だろうということは用意に想像できる。
「まっ、せいぜい『無能』らしく頑張れや」
対して、俺―シュレッド・ジルコニア―は何も言い返すことなく黙ってうつむく。
経験上、ここはなにもしないのが最善とわかる。
案の定、男たちは笑いながら去っていった。
「………くっ」
蹴られた所を押さえながら、ゆっくりと立ち上がる。
恐らく、内出血くらいはしているだろう。
まあ、いつものことだが。
しかし、痛いものはいくらなれても痛い。
俺がいるこの《魔法科学校》は、その文字通り魔法に関することを広く学べる学校だ。
例えば、一番人気なのはやはり戦闘科。
この世界に点在するダンジョンや魔物の討伐、冒険者などを目指す科だ。
他にも、生活科、技術開発科、魔法研究科など、さまざまな科があり、生徒たちは入学時に希望する科に入り、卒業まで自分の得意分野を伸ばしていく。
その中で戦闘科が一番人気なのはやはり、魔法で戦って活躍したいとの願望を抱く人が圧倒的に多いからだろう。
何を隠そう、俺もそのうちの一人である。
ところが、入学したとたん、『無能』扱いである。
これには、深い訳がある。
最も、訳がなく『無能』扱いなどされないから当然なのだが。
それは、入学式の当日まで遡る。
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入学式当日。
「えー、皆さん、ご入学おめでとうございます。私、校長のエルファンと申します。本校は、その名の通り、皆さんの魔法の上達に特化した学校となっており、最終的には、冒険者を始め、世界で活躍する魔法師の育成に力をいれています。さて、この世界には魔法というものが存在しています。そのちからは大きく、時に私たちの生活を便利にし、時に私たちを脅かします。その力を正しく使い、より良い世界をつくるために魔法を使えるようになる、皆さんはこれを目指してもらいます。また、──」
定番の校長の長い話を聞き流しながら、俺はこれから始まるであろう、楽しい学園生活に胸を膨らませていた。
適性鑑定までは――――
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適性鑑定。それは、自分の魔法の適性を知るための儀式である。これで新入生達は自分の進む道を決めたりするのだ。もちろん、適正のより高い、自分にあった道に進んだ方が活躍できる可能性も高くなる。
ところで、魔法には適性がある。適性がある順にss、s、a、b、c……とあり、一番下はfとされている。適性が高いほど、つまりランクがssに近いほど、強力な魔法を使えたり、魔力の消費がおさえられたり、魔法の成長が早かったり……とさまざまな恩恵がある。
普通の人ならばsやssはなくとも、aランクの適性は2、3持っているくらいだ。ssはもとより、sがひとつでもあり、それが攻撃系の魔法なら上位の冒険者になれる。ちなみに、古代の『勇者』は複数の適性がssだったらしい。
さて、鑑定の儀が始まった。儀式では出席番号順に鑑定石に手をかざすことで鑑定石の魔力の波長と対象者の魔力の波長の関係から鑑定する。なお、全ての工程を石がやってくれるので、全自動だ。僕の出席番号は11だから、すぐ自分の番だ。
と、不意に「おおーーっ」と歓声があがった。出席番号8番、ドルコス・ファニアの鑑定だ。どうやら、ランクsが2つあったようだ。sはひとつでも将来が有望なのに、2つとなればかなりの期待ができると言える。
さて、僕の番だ。徐に石の方へ歩いていく。そして、手をかざす。その瞬間、石がぼおぉぉーーっと青白い光を放った。なんというか、それは「幻想的」としか言い表せないほどの美しさだった。そして、気になる鑑定結果は……
***********鑑定結果***********
種族:人属
名前:シュレッド・ジルコニア
レベル:1
強さ
体力:27
攻撃力:23
防御力:19
魔法攻撃:21
魔法耐性:20
機動力:22
素質
基本魔法:D
中ランク魔法:D
高ランク魔法:E
魔法適正:D
魔力素数:B
総合:D +
スキル
料理LV1 家事LV1
固有スキル
万能記憶
**********鑑定終了************
「…………は??」
思わず声が出た。流石にこれは、信じられない。いくらなんでも……。
「……こ、これはどういうことだね?」
校長が訪ねてくるが、そんなの僕もわからない。むしろ、こっちが教えて欲しい。ちなみに鑑定結果は全職員が見れるようになっている。
「こ、こんなの……っ、だ、誰かが悪戯でこの鑑定石に何か仕込みをしたんじゃあないんですか!?」
「そんなの、あり得ないだろう。一体、誰がなんのために? 第一、一人前まではちゃんとできていたじゃないか」
ある教師らしき人物が発言するとそれに倣うかのように他の大人も「そうだそうだ!」「理由がないだろう、理由が!」と一斉にヤジを飛ばしてくる。
「だいたい、『記憶』ってなんなんだよ! もう少しマシなのはなかったのかぁ!?」
「まあまあ、皆さん落ち着いて。とりあえず、君は一旦席に戻りなさい。で、次の人は前に」
校長は場を鎮めると、式の進行を再開した。
僕は、仕方なく席に戻った。座ると、出席番号が前の人から、「何があったんだよ?」と聞かれたが、スルーした。今はそれどころじゃない。
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その後、式が終わり、僕は、僕のあだ名は『無能』になっていた。この世の中は、テストの暗記だけでは生きていけない。「『万能』記憶」にかけたあだ名だ。
いかがでしたか? 面白かったと思ったあなたはこれからも読んでいただけると嬉しいです。うーんと思ったあなたは、今後に期待して続きに目をとうしてみてください! よろしくお願いします。
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