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よろしくお願いします。

 朝が来て、夜が来る。そしてその繰り返し。


 既にこの世界にきて何か月か経っている。毎日が忙しくのんびり城下町を歩くなんて事はできていない。ゆっくりスキルを試す暇もない。別段困ってないから焦って買う物も無いという事もある。あと問題が一つ。電気があると聞いていたのだが魔法の電撃の事だった。


 よく考えればこの手の話の中でオール電化の家なんて出てきた事はないのだ。ウッカリしていたな。という事で早めに手回し充電器かソーラー充電器位を買わないといけないな、なんて考えている。本当にクソ忙しい。俺自身が慣れてないのもあるからだろうが、そのせいで俺はこの充電器の件を後回しにした事を後悔する事になる。


 このソフィアの領地でお世話になりながら俺は各地から集まってくる領主との面会、そして神聖大陸の現状を聞いたりしている。夜は来賓達と食事とパーティー。皆、最初は少々デカい態度で入ってくるのだが、最後には頭を垂れて帰るのがパターンだ。この魔王の畏怖なるものが強すぎる事が原因と思われる。雰囲気も声質も、その場の空気さえも一変するかの如く。勇ましく入ってきた領主たちは立っている事も出来ず跪き頭を垂れ、臣下の礼とともに俺の言葉を待つ。


 領主が偉そうにできる会議室と言えば良いのか? 要するに謁見の場みたいな場所だ。やたらに広いこの場所で俺は今日も座りながら今日の面会者を待っている所だ。お、丁度来たようだな。


「リカルド! わざわざ呼びつけやがって魔王が降臨しただと!? それを信じろと言うのか? ハッ! それなら魔王様には神聖大陸へ行って直ぐに人間共を滅ぼしてもらわないとな! ん? 今日は珍しくその椅子に座って踏ん反り返ってないのだな。ワハハ、いい心掛けだ」

「リザードマンの王、エリトカよ控えよ! 魔王様の御前である!」

「あ? ボケたかリカルド魔王様なぞどこ……に。あ、ああああいつからそこに!?」

「余なら先ほどからお前の目の前に座っていただろう?」

「い、いえ、いや、あ、ああ」


 俺は気配遮断を解くとわざとらしくそんな事をいう。なんて嫌な奴だ。そして一気に魔王の畏怖を解放する。魔王の翼が大きく左右へ展開すると、ゆっくりとやや前傾の形へと変わりやがて一つバサッと打ち付けるような動作入れると元の形状へと戻っていく。瞬く間に部屋中を魔王の畏怖が支配し、全員が跪き臣下の礼を取っているのだが、このエリトカと言う奴にだけは威圧を上乗せしている。


「貴様は何をしに来たのだ?」

「まままま、魔王様に是非お目通りさせて頂きご挨拶を」

「貴様の挨拶などいらん、帰れ」

「なにとぞなにとぞ……」


 場を凍り付かせるような静寂。魔王の覇気をその身に受けているエリトカの体はブルブルと震えている。全身から汗が噴き出しているだろうな。鱗から汗が出るのかは知らんが。

 

「しかし戯けた事を抜かして居ったな? トカゲ如きが余に意見を申すというのか?」

「申し訳ございませぬ! 申し訳ございませぬ! あれは本心ではございませぬ! 魔王様に意見など滅相もございませぬ。魔王様、何とぞご容赦を! なにとぞ!」

「誰が発言を許可したのだ?」

「ヒュッ……」


 そう言うとエリトカは目を見開いたまま固まってしまった。息をするのも忘れているようだ。


「しかし余は心が広い。そうだな、貴様の種族を滅ぼすのは貴様の言葉を聞いてからにしても良いか……? 貴様の最後の言葉にならなければよいがな」

「……」

「ふん、よく覚えたではないか。よし、発言を許す」

「私はリザードマンを中心とした両性型魔族を仕切っております、リザードマンのエリトカと申します。先ほどの失態は本来この命を以て償う事、しかし願わくば魔王ディアブロ様の一柱として神聖大陸と戦うチャンスを与えて頂きたく!」


 ふむ、中々良い返事だ。これまでの魔族もそうだが皆ちゃんとしてるんだよな。何と言うか常識があると言うか。ラノベの常識とはやっぱりちょっと違うのかも知れんな。あと他の種族と言うか領地の奴らにしてもちゃんと王がいるんだよ。居ないんじゃないのかよ? 会う奴みんな王だったぞ? よく分からん。この辺は後でもう一度ソフィアに聞いてみよう。しかし魔王の畏怖が発動中の俺はフレンドリーに話す事が出来ないのだ。


「貴様にチャンスをやるだと?」

「お願いします、魔王様の部下にして下さい! このエリトカ生涯の忠誠を誓い、この体、いや髪の毛一本に至るまで全て魔王ディアブロ様に捧げます!」


 リザードマンにも毛が生えているのか……。俺はそんな事を考えていたのだが、エリトカは身を正して改めて臣下の礼を取り直した。


「ふん、今死ねと言えば死ぬのか貴様は」

「それが魔王様のご命令とあらば」

「今から一人で神聖大陸へ攻め込めと言えば行くのか貴様は」

「それが魔王様のご命令とあらば」

「助けに行くとは限らんぞ? しかも一人だ、まず死ぬであろうな」

「一番槍は戦闘において最高の誉れでございます。例え僅かな塵ほどでも魔王様のお役に立てたのなら……このエリトカ、誇りを胸に見事に散って見せましょう」


 魔王とはこれほどまでなのか。このような滅茶苦茶な命令にもお前たちは従うと言うのか? この何の経験もなかったただの引き籠りだった俺に? 俺は本当に彼らを導くことができるのだろうか。オートマティックに全ての知識や系譜を得た所で俺は戦った経験どころか政治の経験も何もないのだ。だが俺の中のもう一人の俺が騒ぐ。俺ならできると。俺にしかできないと。(みなぎ)ってくる、(たぎ)ってくるのだ。魔王の系譜……これはなんなのだ。


「面白い奴だ」

「はは」

「余に生涯の忠誠を誓うと言ったな。その言葉に偽りはないか」

「至極真にございます。忠誠の証に我が魂に楔を打ち込んで下され」

「クククク、よくぞ申したエリトカよ」


 そうして俺は仰々しく左手を上げるとゆっくりとエリトカの前方へと下ろしてくる。何故か知ってんだよ、楔の打ち込み方ってのをよ。この若干痛い芝居がかった仕草も言葉遣いも直んないんだよね。うーむ魔王の系譜絡みは半自動っぽいな。そうしている間に魂への楔の打ち込みってやつは終了した。


「エリトカよ、しかと忠誠を受け取った。ならば余もそれ相応の誠意を見せねばなるまい。貴様にはこのディアブロの一柱としての役割を認めよう」


 その言葉と共にエリトカの頭上にキラキラと粒のようなものが舞い落ちる。


「こ、これは」

「誠意を見せると言ったであろう? まずは貴様にはこのディアブロの庇護を与える事とする」

「何と恐れ多い……このエリトカ歓喜に打ち震えております」

「領地に戻り庇護の元しっかりと領地を繁栄させるのだ。そして有事の際には」

「魔王様の仰せのままに。有事の際には一番に駆けつけましょうぞ!」

「ふむ、では一番槍は貴様と言う事になるな」

「な、なんと……。このエリトカ……果報者であります」


 そんなに感動しなくてもいいから。忠誠心を利用した感じで俺は何だか嫌な気分になってるぞ。一番槍の話はエリトカだけとは言え、これまで来た全員にこんな調子だからな。何かしら餌で釣ってる感が否めない。俺は戦争回避が目的なのに煽る事ばっかり言ってるような気がする。


「領地を纏め、力と技を磨き、民の生活を守り、技術と文化を発展させるのだ」

「ははあ!」

「そして他の領地の王達とも連携を取り余の居城を築城せよ」

「魔王様、いえ、大魔王様に相応しい城を献上致しましょうぞ!」


 大魔王……。お前も言っちゃうわけね。他の皆も言ってたわ。


「早くできるに越した事はないが、つまらぬ城に住む気もない」

「すべて心得てございます、ご安心を」

「うむ」


 なにが「うむ」だよ偉そうに。と思うのだが俺が言ってるのでどうしようもない。まあ、そうしてお開きとなるわけだが、大体こう言うイベントを挟みながら日常は過ぎてゆく。魔族たちは皆本当にちゃんとしてるんだよ。俺みたいな即席魔王に魂の楔ってやつまでして忠誠を見せてくれたりする。本当に魔大陸は平和なんだなと思える話も多くあった。


 おかしいのは俺の発言と考え方なんだよ。どこの独裁者だよ俺は! 神聖大陸が攻めてくるのって俺のせいじゃないよな?



お読み頂きありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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