央太 魔王となり厨二となる
よろしくお願いします。
本日二話目です。
ここからの方はお戻り下さい。
メイドに連れられて客室に入ってきた俺。メイドたちは奥の方で飲み物の準備だろうか、食器をテーブルにセットしてくれたりしている。ありがとう。一人がガウンを俺に着せようかと持ってきたが、きっと黒翼が邪魔だったのだろう、一通り俺の体を見た後に近くのカウンターの上に置いてくれた。なんかその視線が熱っぽかった気がするが今は気にしない。
なんせ俺は今鏡の前に立っており絶賛驚愕中だからな。アゴが外れそうだぜ。誰だコイツは。本当に俺なのか。しかしおかしなもので一旦黒翼があると認識すると動かし方もわかるし能力もわかってしまう。俺はどうなっちまったんだ。この頭の角も、よく見ると生えてた尻尾もな。
完全に人間ではなくなっとるやんけ。あのアマ先に言えや!
だがこれを受け入れている自分がいると言うこの不思議さよ。色々頭が整理されてくるのだ。魔王の系譜って言ってたっけか。それも関係しているのだろうか? 兎に角そういう魔王の矜持や世界のルール、魔大陸の歴史、そして歴代の魔王の在り方。色々なモノが全身を支配していく、いや満たされていく感じだ。
一方ではその事を理解しながらも何かおかしな気分になってくる自分もいる。全身に漲る力、溢れ出るオーラ、正真正銘魔王みたいなこの異形とも呼べる姿を前に本能が、血が騒ぐようだ。
俺は何気に両翼をバサッと広げるとゆっくりと体を包むように前へと閉じた。そして片手で顔を覆うようにして指の隙間から鏡に映る自分を睨みつける。
「フン、まさかそれが全力ではあるまいな?」
何と言うかすごい魔王らしい声だ。俺こんな声が出せたんだな。カッコいいぜ。なんと言うか腹の底にまで響く感じだ。ピコンと頭の片隅で『魔王の畏怖が発動中』と聞こえたが気のせいか? そしてまたバサッと広げるとその手を前方へとゆっくりと突き出し3本の指を立て拳銃のような形にする。
うひょー、分かるか? なんかゴゴゴゴゴゴとかズズズズズとかズアァァみたいな効果音が響き渡りそうな圧倒的な存在感と臨場感だ。これも魔王の畏怖と言う力の一つなのか……と、そんなことを考えながらも俺はその手をやや下げ気味に鏡の俺自身を指さしながら言った
「クックック、知らなかったのか? 魔王からは逃げられ」
「あの魔王様」
「アッハイッ」
「紅茶の準備が出来ました。お口に合うと良いのですが……あの申し訳ございません。何か邪魔を?」
「あ、ああ。ありがとう。いや、なんでもない。何も邪魔などしていないぞ。むしろお礼を言いたいくらいだ。よくぞ声をかけてくれた」
俺は足早にテーブルへ向かうと席に座った。いや座ろうとしたら翼が邪魔だった。今までみたアニメや漫画ではこういった時はどうしていたっけ? たしかデビルな人は自分の意識で出し入れできてたよな? そう思いながら意識下で思うだけで翼は収納? されてしまった。
「魔王様、翼が消えてしまいましたわ」
「あ、ああ。折角の紅茶だ。座ってゆっくりと味わいたいのでね」
「大変うれしいですわ」
そう言いながら向こうに置いてあったガウンを持ってきてくれるメイド。なかなか気が利くじゃないか。袖を通しながらそんなことを思い、彼女に聞いてみた。
「それで君は何という名前なんだ?」
「わ、私ですか? はい、アリスと申します」
「アリス?」
「どうかされましたか?」
「いや、最近読んだ書物に君と同じ名前を持つメイドがいたのでね」
「まあ!」
「いや、別に意味も他意もないんだ。気にしないでくれ」
「畏まりました」
そうだな。折角メイドもいる事だしこの大陸の事や神聖大陸の事。文化や歴史を聞いてみるのも良いかもしれないな。まだ夜と言ってもそんなに遅くはないからな。
「アリス、今日はもうソフィアと会う事はないのかな? と言うかこのまま休んでも良いのか?」
「ハイ魔王様。本日はもうお休みになられて結構です。お腹が空いたりしてませんでしょうか? ソフィア様についてはお聞きしておりませんのでなんとも」
「ああそこは問題ない。君さえよければこの国の事や神聖大陸について知っていることを聞かせてくれないか?」
「あまり詳しくはないですけど私で良ければお手伝いさせて頂きます」
「すまないな。できれば軽く食べるものがあったら嬉しい」
「かしこまりました」
サンドイッチを食べながらアリスからしばらく話を聞いているとソフィアが入ってきた。
「お疲れ様でございました魔王様」
「ん? ああ、疲れたと言えば疲れたが大丈夫さ。それより聞きたいのは俺の名前とこの姿だよ。知ってたな? 知ってたよね?」
質問に一瞬目を逸らしたかと思ったが、ソフィアは俺の目を見て言った。
「おそらくは……これが魔王の系譜!?」
「こら」
「冗談ですわ。でも、あながち冗談とも言えませんわね。凄まじい力が入れられるのだから、元のショボイ器では身体が耐えれないとは思ってたいたのですが……ここまでとは。素敵ですわ!」
「お前ってチョイチョイ言葉で抉ってくるよな」
ショボイいうなや。
「いえ、前のお姿も素敵でしたわ」
「フォローになってないがありがとう」
「ディアブロ様も素敵なお名前ですわ」
「ボキャブラリーの少なさが悲しいがな」
「知識によれば……前の世界では古くから伝わる歴代魔王の総称ですか。素晴らしいですわ。あと……厨ニさん?と言う方達が好みだったかしら?」
「コラ」
お前、ホントわざと言ってんだろ?
「そういう魔王様もそのお姿は驚きはされましたでしょうけど、気に入らないと言う事もないのではありませんか?」
「うーん、まあな。おかしなもので受け入れている自分がいるのだ」
「唯一無二の魔王様ですもの。より相応しくなっておられるかと。本心から美しいお姿と思いますわ。もしかしてポーズや決め台詞も考えているんじゃありませんこと?」
「そんな事するわけがないだろう、くだらない」
「本当かしら?」
と言って、ソフィアは俺の後ろに立つアリスをチョンチョンと指さした。釣られて見てみるとそこには片手で顔を隠しながら三本の指を立ててこちらに構えるアリスが立っていたのだった。
お前、しっかり聞こえてたんだな! クッソ恥ずかしいわ!
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