央太 腹を決める
よろしくお願いします。
「何故ダメなんですか!」
「うわ、ビックリした。そらダメだろう。俺行きたくないし。そもそも一般市民である俺が国を治めたり、他の大陸との争いなんてできるわけないだろう? 虐殺なんで以ての外だ」
「この世界に絶望しているのでしょう?」
「いや、そんなことは無い」
「女性不信だとか?」
「やめろ、言うな。しかしよく知ってるな」
「それはあなた様の事は何でも」
ソフィアは少し赤くなって下を向いた。かわいい。が……ちょっと待て。
「何でも知っているとはどういうことだ? 俺の日常をのぞき見ていたのか?」
「それはもちろん隅から隅まで、情報収集はとっても大事な事ですから」
「な、なんてことを……」
俺はこの眼の前に立つ女の首にもう少しで手を掛ける所だった。
「……行かない」
「あ、怒っちゃいました? でも仕方がないでしょう。アップップ―が魔王なんて流石に笑えませんよ。事前調査は必要でしょう?」
「アップップ―の意味はよく分からんが、その重要性に関しては確かにそう思う。しかしそれをされた方はたまったもんじゃないわ!」
「それについては謝罪致しますが、何故行きたくないのですか? それ程こちらの世界に未練があるのですか? 他の転生者のように拉致した方が良かったですか? あ、言い忘れてましたけど魔神様ギフトありますよ?」
そう言うとソフィアは俺に次のような説明をした。
「高ステータスは言わずもがな。魔族ではタイマンで勝てる者はおそらく居ないでしょう。正直魔王ステータス高すぎて今更ギフト扱いするものは無いんですよね。普通は魔王様から私どもにギフトやら加護を与えるんですから。特別なものは『知識』ですね。あなたが知りえなかったものが全て知識として与えられます。あと私もよく分からないのですが、魔王の系譜? と言うものもあるそうです」
「それは便利そうだな。だが本当にそんな事ができるのか? あと魔王の系譜ってなんだ?」
「魔王の系譜の方はよく分かりませんが……歴代魔王様の……ナニカ的な?」
「何でそこ疑問形なんだよ……」
確かに知識は有り難い。しかし知識はあっても異世界で通用するかどうかは怪しいがな。生態系は根本的に違うだろうし、技術的な案件はおそらくほとんど魔法でできるだろう。どちらかと言うと向こうの世界の理に触れたいぜ、どうせならな。
「あとこちらの世界から魔大陸へモノを送る事が出来るようですね」
「なんだと? マジかよ。それならいっそのこと爆弾でも戦車でも運び込んだら楽そうだな」
「持ち込めるのはせいぜい30cm四方位が限界のようですね」
「……ちっさ」
「向こうから遅れるのは出版物位のものなんですよ? それを考えたら魔神様も結構な無茶をして下さっていると思いますが?」
「それもそうだな。スマン便利なのは間違いないな。それに拳銃とか小さい爆弾は可能かも」
「危険物の類は持ち込み不可ですよ?」
「なんでだよ」
「それこそ世界のバランスが崩れてしまいます。それに兵器に頼らずとも人間共を生きたまま焼く事など、私たち魔族からすれば造作もない事ですわ」
「物騒な事を言うな」
「てっきり人間共を焼き尽くすために必要なのかと」
「いや、そういう訳ではない。言ったろ? 人を殺めたりするのは嫌なんだよ。何というか保身の為の……言葉のアヤみたいなもんだ。すまなかった、忘れてくれ」
「かしこまりました」
俺はそんな物騒なことを思いつく人間だったのだろうか? 先ほども言っていたが既に精神に影響が出始めたりとか……してないよな?
「それでどんなものなら取り寄せ可能なんだ?」
「ええと、色々と世界間の制約が厳しいとか? ある程度はこの世界のものを向こうで購入する事は可能です。生物……生命体はダメのようですね」
「物を買えるのか? どうやって?」
「そのパソコンというものを持って行けばいいんですよ。後はお金がある限り購入可能です。魔王様も先ほど言われておりましたが、意外と便利そうに見えても制約がつくものですので」
「なるほど、便利そうではあるがやはり金次第か。どこの世界に行ってもやはり金か」
「そう言う事です。魔王様に関しても申し訳ないですがこの縛りは変わりません」
「ふむ。だが俺の場合、多少金はある。しかもパソコンを持って行けるとなると電子取引は可能かもしれんな」
聞けば恐らく大丈夫との事。でないと金が無くなれば購入できないと言う点において矛盾が生じるからな。つまりこの世界で俺という存在は消えてなくなるが、電子の世界では俺は生きていると言う事だ。国民年金やら税金関係やら疑問が残る部分もあるが世界の矛盾回避という恩恵で問題ないらしい。まあ転生できる不思議が成り立つんだ。深く考えない事とする。
「どうですか?」
「最後に俺がそっちの世界に行って何をすればよいのか、具体的に聞かせて欲しい。生死に関わることを重点においてくれ」
「それは央太様がこれまで読んできた伝記と同じです。それ以上もそれ以下もありません。そのような感じです」
「えらく端折られた気がするが……そう言うもんかも知れないな」
「……それでは?」
「待ってくれ、正直俺なんかで本当に王になれるのか自信がない」
「王足り得る者は自然に王になります。貴方は選ばれし者、その資格は既に満たされているのです。こちらの世界の著名人も言っているではないですか。人は初めから英雄ではないと」
魔神様はいったいこの娘にどれほどの知識を詰め込んだんだ?
「まあそうなんだが。英雄とは人族ではないのか?」
「勘違いされては困ります。種族が違うだけでそれほど違いはございませんわ」
「すまないそうなんだな。だが……さっき拉致の方が良かったのかと聞いたな? 魔神様は最悪俺を殺して転生させる事も出来るが、あえてお前を寄こしてくれたと言う事なのか?」
「そこまでは……」
これは……明言は避けているが恐らくそうなのだろうば。言いたくはないが魔神様が俺を殺せないわけがない。神たちは実際に転生者をその手にかけてるんだからな。つまり今俺ができる選択肢は二つしかないと言う事だ。魔神様に殺されて放り込まれるか、それとも事実を受け入れ自ら渦中へ飛び込むか。そう考えると魔神様はまだ良心的なのか? しかしなぜ俺が……最初はこんな与太話をと考えていたのにおかしなもんだぜ。
「……この世界では既に天涯孤独の身。それでも行きたくはないが、行かない選択肢ってのはないんだろうな。そうだな……できれば精神耐性やら言語やらその辺りの調整を頼みたい。先ほどの映像を見た時グロくて死にそうだった」
「それは……承諾された……と言う事でしょうか?」
「……ああ。そういう事だ。ただし俺は殺戮者ではない。人族を滅ぼすつもりもなければ無駄に殺生を行うつもりもない。国を守るという点において頑張る。これでも良いのか?」
「ありがとうございます!! 魔大陸が滅ぶ事がなければ問題ございません。何卒魔王様の叡智を」
「お前もう俺の事を魔王って呼んでるよな、いいのかそれで。でも耐性は頼みたい。叡智は期待するな」
「その辺りの耐性や忌避感は向こうの世界に行った時に調整されます。ご安心を。叡智は期待してます」
しっかり自己主張しやがるな。叡智などないわ! まあしかしだ、もうどうしようもない。妙に腹を括ってしまった自分がいる事に驚きだぜ。
「助かるよ。あとパソコンが持っていけるんだ。他にも多少は持ち込み出来るんだろう? ちょっと買いたい物もあるから出発は明日でも良いか?」
「ええ、問題ありませんわ」
「なら良い。それでは……最後の夜を過ごさせてもらうよ。ありがとう、それでは明日頼むよ」
「え?」
「なんだよ?」
「私にここを出てどこに行けと言うのでしょうか? 野宿ですか? 野ざらしですか?」
「お前、泊まるところないの? じゃあ、ホテルにでも行ったらどうだ」
「そんな……酷い」
「酷いってお前……じゃあどうすんだよ? え? ここで寝るのか?」
「私はシャーロット家の娘です。野ざらしになるくらいならここの方が幾分マシです」
俺の部屋は野ざらしより幾分マシなレベルかよ。これでも苦労して買ったマンションなんだぞ。
「ううむ、仕方ないな。じゃあ俺のベッドを使うがいいさ。俺はリビングのソファででも寝るとする」
「いえ、そこは魔王様と一緒で結構です」
「それはいかんだろう。仮にも男と女が一緒に寝るなどと。それに俺は……」
「存じ上げております、魔王様が女性不信なのは。もちろんそれで構いません。それに逆に問題ないのではありませんか?」
「……上手く言いくるめられている気がするが、問題は無い……か。知らんからなどうなっても」
「もちろんでございます」
そして当然ベッドの上に二人が並ぶとそう言う雰囲気になる。どうして俺はさっき会ったばかりの女性と同じベッドで寝ているのだ。ここまでの事情を頭で理解しようとするが気が散って考えがまとまらない。
「手を出しても構いませんよ?」
「心配するな、死んでも出さん」
「変わった魔王様ですわ」
「変わっていようが出さんものは出さん。上手く言えないが……とにかく今日は絶対に出さん」
「うふふ。分かりましたわ」
そうして色々とあり得ない状況の中、俺は眠ったのだった。眠るまでに少し時間が空いたがな。彼女はその大変美しく官能的であるが俺は耐えた。目から血が出るところだった。サキュバスの魔力は効かないらしいが、そんなもの無くても関係ないのではないかという位にな。
次の日、俺は色々と身の回りの買い物を済ませ、魔大陸へと転移したのだった。
お読み頂きありがとうございます。
引き続きよろしくお願いします。
PVと評価が伸びないのでちょっと悲しい(´・ω・)
頑張ります。