異世界へ
え!?異世界!?
そして今気づいたが、ミノリは一体どこにいるのだろうか?
気になった俺は、エクリアとまた今度合う約束をし、自宅に帰るのであった。
幻影のファントムの時からすっぽりと抜けたように忘れていたことに気づいたが、一体何故忘れていたのかわからない。
俺は頭を抱えて悩んでいたが、思い出せないものは仕方ないと割り切って、今は今後のことについて考えることにした。……それにしても、今日はかなり濃密な一日だったと思う。
まだ夕方だというのにどっと疲れてしまい、早く寝たいところだ。
しかし、ミノリを探さないとならないため、まずは彼女の家に行くことにした。
幸いにも、ミノリの家は比較的近くにあり、歩いて数分の場所だったので、すぐに着くことができた。
俺は玄関の前で立ち止まると、少し緊張してきた。
こういう時はどうすればいいんだろう。
インターホンを押せばいいのか?
俺はそんなことを考えていると、不意にドアが開かれた。
そこに立っていたのは、綺麗なお姉さんである。
肩口まである髪に、切れ長の目をしており、どこか冷たい印象を受けるが、それがかえって魅力的に見える。
身長は俺より少し高く、170cmはあるだろう。
彼女は俺の顔を見ると、一瞬目を大きく見開いたが、すぐに無表情に戻った。
だが、俺は見逃さなかったぞ。
明らかに動揺していた。……あれ?でも、よく見ると、どことなく顔が似ている気がする。俺はそこでハッとすると、急いで自己紹介をした。
すると、お姉さんの表情から警戒心のようなものが消え去り、代わりに柔らかい笑みを浮かべる。
その瞬間、俺は理解した。
これは間違いなく母さんだ。
雰囲気が全く違うため、すぐには分からなかったが、今の表情を見たことで確信することができた。
やはり俺の母親らしい。
ただ、何故ミノリの家から母さんが?
そして、明らかに若く見える。一体何が?俺は混乱しつつも、とりあえず挨拶をする。
すると、ニッコリと笑いながら、こんにちわと返してくれた。
その笑顔はまさに聖母と言っても過言ではないほど美しく、俺は思わずドキッとしてしまった。……これが母親だと思うと複雑な気持ちになるが、この際置いておくことにしよう。それから、俺は早速本題に入る。
ミノリについて聞きたかったのだ。
すると、母さんは困ったような顔をして、実はねと話を切り出してくる。
どうやら、ミノリは少し前から体調を崩しており、あまり外に出ることができなくなっていたそうだ。
待て、それはおかしい。
幻影のファントムと戦ってからまだ二日くらいしか経っていない。
そのニュアンスだとまるで前から体調が悪いみたいな言い分だ。更に言えば、何故母さんがミノリの家にいるのか。
俺は疑問をぶつけると、母さんはとても申し訳なさそうな顔をしながら、答えてくれた。
それによると、元々母さんは冒険者ギルドの職員であり、今は退職しているものの、現役の頃はSランクの冒険者として名を馳せていたようだ。
俺は驚いてしまう。
まさか、こんな身近に伝説級の人がいたとは思わなかったからだ。
母さんはその強さを見込まれてか、王都にある騎士団にスカウトされたが、それを断り、辺境の地へとやってきたのだという。
だが、その道は決して楽ではなかったらしく、魔物に襲われて大怪我を負ったり、盗賊に襲われたりと、何度も危険な目に会ってきたという。
そして、ようやくたどり着いた場所がここなのだ。
それを聞いて、俺は意味がわからなくなった。
話が繋がってない。まるで世界が違う感じがする。……もしかしたら、ここは俺のいた世界とは別の世界なのかもしれない。
俺はそう思った。
そこでふと思い出す。幻影のファントムを倒した時に現れた光の粒子のことを。
もしかして、俺はあの光に触れたせいで別の世界に飛ばされたのか? いや、そうとしか考えられないな。
そして、ミノリが俺をこの世界に連れてきた張本人ということになる。
だが、俺の母とミノリの接点がまだわからない。俺はそのことを聞くと、母さんは少し恥ずかしげにしながら、教えてくれる。
なんと、母さんとミノリは昔からの友人同士だったのだ。
母さんは元々冒険者で各地を転々と旅をしていたのだが、ある時偶然立ち寄った村でミノリと出会ったという。
それを聞いて、俺はそもそもミノリがここに来た時間と俺の来た時間が同一ではないことに気がついた。
そして、この世界の母さんは俺の母さんではなく、そしてミノリはもう年齢がかなり経ってる可能性が高い。俺は色々と考え込んでしまったが、結局結論は出なかった。
今は考えても仕方ないだろう。
それよりも、今はこの世界をもっと知る必要がある。まずは情報を集めなければ。
あと、ミノリに会わなければ。
ミノリに会わせてくれとお願いした。
すると、母さんは渋るような態度を取る。……どうやら、ミノリは今体調が悪く、面会謝絶の状態らしい。……だが、そんなことは関係ない。俺は強引に部屋まで案内してもらった。
母さんは心配そうな顔を浮かべながらも、俺の後に続いてくる。俺は扉を開けると、そこにはベッドの上で横になっている少女の姿があった。
間違いない、ミノリだ。
彼女は驚いたように目を見開くと、体を起こそうとするが、上手く力が入らないようで、途中でめてしまう。
俺は彼女の側によると、そっと手を握る。すると、あることに気づいた。
俺と同じくらいの年だ。……つまり、彼女は見た目通りの年齢ではないということだろう。俺は一体何歳なんだ? 俺はそんなことを考えつつ、彼女を安心させるように声をかける。
すると、ミノリは弱々しく微笑みを浮かべながら、ありがとうございますと感謝の言葉を述べてきた。
その声を聞くだけで、胸の奥が締め付けられるような感覚に陥る。
それだけではない。握っている手が氷のように冷たい。俺は自分の体温を分け与えるかのように優しく握り続ける。
すると、ミノリの顔色が少しずつ良くなってきた気がする。
良かった……。俺はホッとする。
そして、改めて彼女を見て、俺は驚く。
あぁ、このミノリは俺の知るミノリではないことに。目の前にいるミノリは幻影のファントムによって姿を変えられた姿なのだ。
何故なら、今のミノリの髪の色は黒。幻影のファントムと戦った時に見た色は銀色だ。それに、服装だって違う。
そこからわかったことは俺だけが違う世界に飛ばされたことに。
恐らく、幻影のファントムが何かしらの手段を使って、ミノリの姿を変貌させたに違いない。
それから、俺は母さんの方を見る。
母さんは俺が何を言いたいのか察してくれたようで、コクリとうなずいてくれた。
どうやら、母さんには理解できたようだ。
俺が違う世界から来てることに。そこでふと思う。
何故母さんはこの世界の事情に詳しいんだろう? 俺の質問に対して母さんは苦笑いしながら答えてくれた。……実は母さんは俺が生まれる前に異世界に飛ばされてしまったことがあるのだという。だから、この世界にもついて詳しいのだというのだ。
なんとも不思議な話だが、俺にとっては好都合な話でしかない。
俺が元の世界に帰るためには、この世界の知識が必要なのだから。
そこでふと思った。……もし、このまま俺が元の世界に戻らなかったらどうなるのかを。
その可能性は低いとは思うが、絶対にないと断言することはできない。
もしかしたら、この世界の方が住みやすいかもしれない。……いや、それは言い訳に過ぎないな。
俺はきっと怖いんだ。
この世界で生きることが怖くて仕方がない。
俺の居場所がどこにもないんじゃないかと思ってしまうから。
だから、帰りたいと願う。でも、帰る方法がわからない。
もしかしたら、永遠にこの世界で暮らすことになるかもしれないのだ。……それが嫌で仕方なくて、心の中ではずっと逃げ道を探している。