クエスト
よくわかんないけど、また始まったわ
なんとか勝てたか……。
さすがに今回は本当に死ぬかと思ったよ。
いや、実際かなり危なかったと思う。
もし相手が本気で殺しに来てたら確実に殺されてただろうし、俺の攻撃だってほとんどダメージを与えられていなかった。だから、最後の攻撃はほとんど賭けみたいなものだった。それでも何とかなったのは幸運以外の何物でもないな。……ん? 待てよ? そういえば、なんであいつは急に俺を殺さないような動きをしたんだろう。
今までの戦い方を見る限りだと、明らかに殺す気満々だったはずなのに。……。いや、今はそんなことを考えている暇はないな。まずはこの場を離れないと。
俺は痛む傷を押さえながらゆっくりと立ち上がると、その場から立ち去ろうと歩き出した。……。……。……。
よし、ここまで来れば大丈夫かな。
俺は足を止めると、後ろを振り返る。
そこは鬱蒼とした森が広がるばかりで人の気配は全くなかった。……どうやら追ってくる様子もないみたいだな。完全に死んだようだな。
とりあえずは一安心だ。
俺はほっと胸を撫で下ろすと、改めて自分の体を確認した。
うわっ! 酷い有様だ。服もボロボロだし血だらけだ。
これは早く帰って治療しないとマズいな。それにしても今日だけで色々とあった気がする。
そうだ。そういえば、さっきの戦いで結構レベルが上がったんじゃないのか? 俺は急いでメニュー画面を開いて確認する。
えっと、どれどれ。おおー、凄い上がってるじゃないか!
Lv4→Lv6 力:116(+30)
耐久:86(+125)
敏捷:113(+60)
器用:158(+80)
魔力:125(+40)
スキル:身体強化 五感向上 精神耐性 魔法威力増加 隠密 成長促進 気配察知 罠解除 忍び足 状態異常無効 取得経験値10倍 必要経験値5分の1……あれ?
ちょっとおかしくないかこれ。……おかしいといえば、さっき倒した〈幻影のファントム〉もなんか変だったんだよな。普通に戦ってた時はあんな風じゃなかったはずだ。何かが引っかかる……あっ!? 俺はあることに気づいて愕然とした。
嘘だろ? ……まさかとは思うけど、あの偽物は誰かが俺のステータスを元に作り出したものなのか? いや、でもそんなことができるのか? 仮にできたとしても一体誰が……師匠……は違うか。
他に可能性があるとすれば、考えられるのは〈システムエンジニア〉の連中だけど、こんな真似をする理由が分からない。そもそも俺を殺すメリットがない。
それなら……あの冒険者か? 確か名前は……〈幻影のファントム〉と一緒でよく覚えていないが、俺が奴に絡まれていた時に助けてくれた男がいたな。……うん、おそらくはそいつだろう。くっ、まんまと騙されてしまった。
今度会ったら絶対にお礼をしてやる。
俺は心の中で固く誓うと、ふぅーと息を吐いた。……とにかく、これで俺もようやくスタートラインに立つことができたわけか。しかし、まだ先は長いな。
これからはもっと強くなるために頑張らないと。
そのためにはまず装備を整える必要があるな。
それから、しばらくはこの街を拠点にして修行を続けることにしよう。
そんなことを考えながら街へ向かって歩いているうちに、段々と気分が良くなってきた。どうやらポーションの効果が出てきたみたいだ。
俺は回復していく体にホッとすると、そのまま歩いて行ったのであった。
――その後、無事に街の中へと戻ってきたのだが、ギルドで報告をしたところ、受付嬢のお姉さんから信じられないことを言われた。なんでも、今回の依頼は失敗扱いになるらしい。
まあ、確かによく考えてみれば当たり前の話だよな。
なんせ相手を倒したはずの魔物に化けて出てくるんだぜ。
俺だって戦った後になって気づいたぐらいなんだし、他の人が気づく可能性はかなり低いだろう。
それに、もし気づいて倒そうとしていたら、今度は逆に自分が殺されかねないしな。……というか、俺も気づかなかった時点でアウトだと思う。
そういう訳で結局は報酬も受け取れず、冒険者としてのランクを上げることもできないまま、俺は失意のまま家路につくのだった。
◆ 次の日になった。
俺は昨日の一件ですっかりやる気をなくしてしまっていたのだが、それでもなんとか朝から起き出して宿を出たところだった。
というのも、いくら気落ちしているとはいえ何もせずに家でじっとしているのもどうかと思ったからだ。なので、適当に街中を見て回ることにしたのだ。
そして、特に当てもなくぶらついていると、何やら人が集まっている場所があった。気になったので近づいてみると、そこには大きな掲示板が設置されており、そこに沢山の依頼書が張り出されていた。
なるほど、ここはいわゆるクエストボードというものか。
ゲームでは割と定番の場所だが、実際に目にするのは初めてだ。
へぇー、本当にいろんなものがあるんだな。俺は物珍しさもあって、ついまじまじと見入ってしまった。
えっと、討伐系のものが多いみたいだな。他には薬草採取とか鉱石採掘なんてものもあるぞ。
他にも、素材の納品や店の手伝いなどもあるようだ。
ん? これは……。
俺は一つの依頼書を目に留めると、食い入るように見つめた。
それはゴブリンの巣の殲滅というものだった。どうやら近くの森の奥深くにある洞窟の中に巣を作ってしまったようで、近隣の村の住人達が困っているとのことだ。
報酬額を見てみると、金貨5枚とある。……よし! これに決めた。今の俺にはこの上ない好条件じゃないか。早速受付に行って手続きを済ませることにした。
――それからしばらくして、俺は村の近くにある森の中にいた。
周囲には木が生い茂っており、昼間だというのに薄暗い。
そのせいなのか、辺りからは不気味な雰囲気が立ち込めており、時折どこからか鳥の鳴き声のようなものが聞こえてくるような気がした。……うわぁ、なんか嫌だなここ。
俺はそんな風に思いつつも、目的地であるゴブリンの巣穴がある洞窟の方角を見やった。……あった、あれだな。
少し奥まったところに入り口らしき穴が見える。
俺はそれを確認してから、ゆっくりとした足取りで近寄っていった。すると、程なくしてゴツゴツとした岩肌が露出しており、明らかに自然のものではないことが分かる。……間違いなさそうだな。
俺は剣を構え直すと、慎重に中に入っていった。
内部は外から見るよりもずっと広くなっており、大人が何人も並んで歩けるほどの幅があった。……これが全部、ゴブリン共が作ったものなのかよ。
俺はそんなことを考えつつ、さらに先へと進んでいく。……しばらく歩くと、前方に二体のゴブリンの姿が現れた。
一匹は棍棒を持ち、もう一匹はナイフを持っている。
おそらくは斥候の役割をしているのだろう。