声
「…ねぇ?聴こえる?」
風に乗って誰かの声が聴こえた気がした…。
あの声は誰の声だったっけ?
とてもとても優しくて少し低い声。
耳に心地よくて聴いていたら眠ってしまう声。
…そう。君の声だ。
どうして忘れていたんだろう?
あんなに君の声が大好きで毎日毎日そばで聴いていたのに…。
待って!行かないでよ!
僕を置いていかないで…!
伸ばした手が空を切る。
掴みたかったはずの君の華奢な手は、僕の目の前で消えてしまった。
それは、サラサラと落ちては指の隙間から抜けていく砂時計の砂のようで…。
なんで?
どうして君の手が掴めなかったんだ?
うっすらと目を開けた。
見慣れない天井が見えた。
…ここは何処だ?
彼女が目にいっぱい涙を溜めて僕の顔を覗き込んでいるのが見えた時、それで僕は全てを理解した。
「…あぁ、君が助けてくれたのか。ありがとう。」
ようやく絞り出した声で僕はそう呟いた。