5 真実
ようやく見えるようになったパーティ会場は、犬、犬、犬、犬だらけでした。
私が使った禁断の武器は、一時的に変化の術を解く魔道具です。
私は、チワワの横で震えているポメラニアンをつまみ上げると言いました。
「オランド様、王家の名を騙っていたのが誰か、真実が明らかになりましたわね。」
オランド様と私は12歳の時に婚約しました。
そのぐらいの子供ですと、貴族でも遊びに夢中になるうち、犬の姿に戻ってしまう子も少なくありません。
実際、私はのんびりした領地で育ちましたので、子犬の姿でころころと遊びまわっていたものです。
しかし、オランド様は、いつ会っても変化した姿で、犬に戻った姿を見たことはありませんでした。以前の私は、そんな彼を、さすが王族は違うと尊敬しておりました。
もっとも、前世の小説と現在の世界で得た知識とを照らし合わせると、一点、疑問がありました。
オランド様は王子、つまり王家の当主である王の息子ですから、変化前の姿はセントバーナード犬のはずです。
しかし、小説の中ではオランド様が犬の姿になって小さな隙間を通り抜けたり、荷馬車に乗り込んで荷物の陰に隠れて移動したりと、セントバーナード犬のような大型犬では不可能な行動をとっていたのです。
私は家族に、オランド殿下は、セントバーナード犬よりも小型の犬かもしれないことを伝え、相談しました。
家族は、信じられないと驚いていましたが、ドロス家の情報網を使い調べてくれました。
オランド様はめったに変化を解きませんので調査に時間がかかりました。
そして、『王子がヒロインに、お前になら俺の本当の姿を見せることができるとか言って散々ひっぱっていたにもかかわらず、うっかり街歩き中にさらわれたヒロインを初恋の怪盗が助けに来て、逃げる途中でうっかり怪盗のマスクが破れ、それでも怪盗の正体に気が付かない鈍感ヒロインに対して、怪盗がマスクを剥ぐとやっぱり王子でしたって、ご都合主義が過ぎて笑うしかねぇわ。』というシーンでオランド様は正体を現しました。
オランド様を見張っていた者は、近づけなかったが体の大きさからオランド様はほぼ確実にセントバーナード犬ではないと報告しました。
この時点で家族一同悩みました。
オランド様が王の子ではないということは、つまり、王家簒奪をたくらむ者がいるということです。その可能性があるというだけであっても、建国以来王家に忠誠を誓っている伝統貴族たる私たちが王に報告しないわけにはいきません。
もっとも、オランド様が超小型のセントバーナード犬である可能性もわずかながらあり、王様がすべてを知っている可能性もあります。
下手に密告して、王家の秘密を知っていると目をつけられても困ります。
そこで、お母様、お兄様は何も知らなかったこととし、私がヒロインとオランド様の姿を遠くから見ていたところ、オランド様が正体を現したが、セントバーナード犬よりも小型だったような気がしたのでお父様に相談した、お父様は不敬覚悟で進言したということにして、王様に報告しました。
王様はオランド様が自分の子供ではないことに、何となく気づいていたようです。
しかし、オランド様を育ててきたことから情が捨てきれなかったようで、オランド様を守るために一計を案じました。
実は私、祖母が王家出身であるため、低いながらも王位継承権を持っています。
そこで、オランド様と私を結婚させ、結婚後は私に王位を承継させ、対外的にはオランド様を王とする、私が当主であれば神の加護のおかげで私たちの子供はセントバーナード犬になることから、オランド様を守りつつ王国も続けることができると考えたのです。
王家にとってはいいことずくめですが、私にとっては、愛していない男と結婚させられ、対外的な権威を持たない王になって、仕事ばかり押し付けられることに何のメリットもありません。
王としても、オランド様の正体に関する情報がはっきりしたものでなかったことから、将来事実がわかった時にどうとでも転ぶようにしておきたかったのかもしれません。
そこで、私は王に願い出て、オランド様が王族でないことがはっきりした場合は、変化の術を解く魔道具を使うことの許しを得ました。
先程、オランド様は真実でないこと(私がヒロインをいじめたということ)を真実であるとして神様に誓いました。
それでもオランド様に雷が落ちなかったことから、私はオランド様が王の子ではないと確信しました。
のみならず、オランド様は自分の正体がばれないよう、慎重に変化の魔法をかけていましたので、魔道具が効かない可能性もありました。
しかし、偽りの誓いによりオランド様に対する加護が失われていたことから、オランド様の魔法は魔道具であっさりと解けてしまいました。
次回、ざまあ回。