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3 断罪が始まった。

「ドロス辺境伯が娘、リイン・ドロス!貴様がこのミミをいじめたことはわかっている。そんな心の 醜い女は将来の王妃である私の妻としてふさわしくない。よって、貴様との婚約を破棄する。」

 卒業パーティで、オランド様が大声で宣言しました。

 参加者は、何事かと私たちに注目しています。

 私は、ため息を一つ押し殺すと、礼をとり、申し上げました。


「婚約破棄について、申し上げます。」

「許す、言え。」


「まず、婚約破棄につき、王家からの申し入れか否かを確認させてくださいませ。」

「そのようなことは、今関係がないであろう。」

「いいえ、この婚約は、王家よりお申込みいただきドロス辺境伯家がお請けしたもの、破棄 を申し入れられるからには、王家からでなければ筋が通りません。」

「はっ、破棄されたくなくて必死よの。もちろん、王家からだ。あと、申し入れではなく、命令だ。」


「王家からの命令ということでございますね。承りました。当主に報告します。

 ただし、いじめ云々については、全くの事実無根でございます。

 事実でないことでそのように王家の御不興を賜るとは、非常に困惑しております。この点につきましても、当家より、おって奏上させていただきます。」


 私がすらすらと返すと、オランド様はたじろいでいました。

 彼は、いきなり怒鳴りつければ、私が驚いて反論もできずにいるうちに押し切れると考え、わざわざこのように人が集まる卒業パーティで婚約破棄を言い出したのでしょう。発想が卑怯だと思います。

 また、オランド様は王家として命令をする権限は有していませんが、こう言えば私は従わざるを得ず、そうなれば後からどうにでもなるだろうと思ったのでしょう。

 あらかじめ、こうなることを想定して、用意しておいてよかったと思います。



 思い返せば、オランド様とヒロインとの密会目撃後、私はできるだけヒロインには近づかないように注意しつつ、ヒロインのことを調べておりました。


 ヒロインは、新興貴族の一人、イーフル男爵の娘ミミ・イーフル、愛人の娘だったようで幼い時から平民として暮らしていましたが、母が死んだためイーフル男爵家を頼り、養女として迎えられたようです。

 ただ、やはり平民暮らしが長いためか感情コントロールができていないようで、よく犬の姿に戻って過ごしていました。そして、周りからは公の場では変化したままでいるのが貴族のマナーですよと注意されても改めなかったようです。

 マナー違反とはいえ、目に涙をためてぶるぶる震えているチワワにきつく指導するのはなかなか心に負担がかかります。しかも庇護欲をそそる姿は、かわいいと一部の学生から支持されていたようでした。


 また、ミミはオランド様に気に入られ、いちゃいちゃしている姿がよく目撃されておりました。

 最近では、ミミは、自分が将来の王妃になるのだと言いふらすようになり、何か気に入らないことがあった時は、王家の威光を匂わせて自分の思い通りにしたこともあるようです。


 ドロス辺境伯家は、そのような事態を王陛下に奏上し、婚約については辞退させていただきたいと何度も申し入れておりました。当主の子は必ずその家に伝わる犬種で生まれてくる以上、妃の家柄にこだわる必要はありません。

 しかし、王家は難色を示し、婚約解消の手続きは進んでいませんでした。どうも王妃様がオランド様の地位の安定を望んで難色を示していることや、王妃様が男爵家の出身だったたため、次は伝統貴族と婚姻することが政治バランスを保つ上で好ましいと陛下が考えていることが理由だったようです。

 このため、陛下や王妃様から、よくオランド様を諭すので、少し結論を待ってほしいと言われておりました。

 とはいえ、私の心はもうオランド様から離れておりました。卒業パーティという公衆の前であのような態度をとった以上、婚約解消の手続が進むだろうと思うと、私はうれしくなっておりました。



「では、私はドロス家当主への報告がありますので、失礼させていただきます。皆様、私事で、皆様の卒業パーティを騒がせてしまい、申し訳ありませんでした。」

 私はそそくさと退出しようとしました。

「まって!」ミミの声がしました。なんということでしょう、あまりに小さいので気が付いていませんでしたが、ミミはチワワの姿でオランド殿下の腕にしがみつき、抱えられていました。さすがに、あまりのはしたなさに参列者たちがどよめきます。

「私、謝ってくれたらいいです。許します。私、みんなとお友達になりたいし、リインさんもちょっと怒っていただけで、悪い人じゃないと思うんです。」ミミは、オランド殿下に抱えられたまま、ぷるぷると震えながら、目をうるませています。

「ああ、ミミ、お前はなんてかわいくて優しいんだ。」オランド様は、ミミを胸元に寄せて抱きしめつつ、うめきました。

「リイン・ドロス、こんなかわいらしい犬をいじめるなんて、お前の罪は万死に値する。今ここで謝れば、ミミがこう言っているから見逃してやるが、さもなくば、どうなるかわかっておろうな。」オランド様は、こういって私を脅しました。

ここで、私が脅しに屈して謝罪すれば、私が罪を自白したと言い張り、王の許可なく婚約破棄を申し入れた咎をうやむやにできると思っているのでしょう。こんな汚いやり方をする人が王になれば、将来、国が乱れてしまいます。禁断の武器を使うべき時が来たかもしれないわね、と私は息を吸い込みました。


 次回、最終兵器を使用。

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