彼女を何度も寝取られた俺は大正義ヒロイン幼馴染ちゃんと結ばれる〜全てはヤンデレの掌の上だと俺は決して気付けない〜
生まれて初めて小説を書いてみたので拙い所は多々あると思いますが許してください(恥知らず)
「好きな人が出来たから別れて欲しいの」
目の前にいる彼女は無表情で俺こと皐月優一に別れを突きつけた。隣には金髪に染めた背の高い男が彼女の肩を抱いてニヤニヤ気持ち悪い笑みを浮かべている。彼が新しい彼氏なのだろうか。鼻ピアスは正直悪趣味すぎると思う。
1年間付き合っていた彼女である水無月薫から一方的に告げられたそんな言葉に俺が抱いた感情は怒りでも悔しさでもない。
(ああ、またか)
そんな諦観にも似たものだけだった。
「悪いけど、もう優くんの事なんて少しも好きじゃない。私たちの邪魔になるから金輪際関わらないで欲しいの」
「……そっか。じゃあ、幸せにね」
それだけ告げると、俺は踵を返してその場を後にする。こんな場所に長々と居座っても辛いだけだ。さっさと立ち去るに限る。
一瞬だけ視界の端に映った彼女が、涙を流している様に見えたのはきっと気の所為に違いない。
こうして俺はまたしても彼女を失った。
★☆★
「まーた彼女に浮気されたッ!これで3度目だよ!脳味噌何回破壊されれば気が済むんだよ!」
「あーあ、荒れちゃってるね」
家に帰ると、俺はあらゆる荷物をほっぽり出して自分のベッドにダイブした。そして側にあった枕を掴んで何度も何度も壁に叩きつけた。
「もう誰も信じられない……」
人間なんて皆んな裏切るものだ。だが、ベッドは違う。俺の全てを受け入れてくれる。あんな元カノとは大違いだ。もう俺の味方はこのベッドただ一つだけだ。
「んー、少なくとも私はゆーくんの味方だよ?」
「いや、何で居るんだお前」
平然と。あたかも当然の様に部屋に居座って漫画を読んでいるこの女は俺の幼馴染である如月渚。あまりにも堂々としているせいで違和感に気付けなかった。
彼女は長い黒髪や、整った顔立ち、上品な佇まいから男女問わず人気の高いハイスペック美少女だ。正直言ってこんな美人が俺の幼馴染なんて今でも信じられない。
「渚、悪いんだけど俺は今フラれた直後で辛いんだ。部屋から出てってくれないか?あと、どうやって侵入してきた」
「あー、やっぱりフラれたか。薫ちゃんは見た目程清楚な子じゃないからねぇ。よしよし、私が慰めてあげよう。それと私はゆーくんのお母さんから合鍵貰ってるからね。普通に家入れるよ」
「彼女でもない女に家の鍵渡すとか、いったい何考えてるんだうちの母親は」
俺を抱き締めようと両手を広げる彼女を無視してベッドの上で仰向けに寝転がる。すると自然に涙が零れ落ちてきた。
平気なフリをしていたがどうやら俺は予想以上に傷ついていたらしい。愛していた人を赤の他人に寝取られる感覚は、何度味わっても慣れるものではない。これでも最初に比べれば随分マシになった方だ。最初に浮気された時は、比喩表現なしで食べ物が喉を通らなかった。
「今回はどれだけ持ったんだっけ?一年?」
「そう、一年。今までで最高記録」
一年前、二人目の彼女をまたしても寝取られて傷心していた俺を優しく励ましてくれたのが薫だった。幼馴染の渚だけじゃなく、当時殆ど関係のない筈の彼女が励ましてくれた事が俺にはとても嬉しかった。俺が致命的な女性不信にならなかったのは彼女たちのお陰だと思う。そして、俺はそんな優しい薫に惹かれて告白。見事受け入れられて、 3度目の正直とばかりに今日の今日まで頑張ってきたのだ。
結局、2度あることは 3度あるだったが。
ふと、目を閉じればまだ相思相愛だと思い込んでいた頃の彼女との思い出が蘇ってくる。
『私のことが好き……?本当⁉︎私も皐月くんの事が好きなの。私の方こそよろしくお願いします!』
告白した日。互いに好き合っていたと分かってこれ以上なく嬉しかった。
『うーん、今の映画……。私にはちょっと分からなかったな。何で最後にインド人が踊り出したの?』
時々失敗することもあったけど、高校の時は毎週の様にデートに行っていた。
大学に入学してからは、違う大学ということもあり遊ぶ機会も少なくなってしまっていた。きっとこの頃にはもう……。
『あははっ!私の方がはやーい!』
一緒に海に行った日。思えばこの頃が一番楽しかった。でもそれは全部幻想だったんだ。
『もう優くんの事なんて少しも好きじゃないの』
結局彼女も俺から離れていった。
「俺の何が悪かったんだろ……」
時間がある時はいつも考えてしまう。最初の彼女も、二人目の彼女も、そして薫も。此処までフラれ続けるのはきっと俺自身に何か原因があるはずなのだ。
「多分、ゆーくんは映画の趣味以外悪くないよ。悪いのは全部浮気した女の方。ゆーくんっていう彼氏がいるのに他の男と関係を持ったアイツらが悪いんだよ」
渚はそう言って慰めてくれるが、 3度も同じ事が起こるなんてそうそうない。俺に原因があると考えるのが自然だろう。
「本当にそうか?此処まで連続して起こるなんて、俺に原因がある様にしか感じないんだが……」
突然、わしゃわしゃと髪を撫でられる。渚が俺の頭を撫でたのだ。
「今は嫌な事があって全部悪い方に考えが寄ってるだけ。むしろゆーくんは被害者なんだよ?」
俺を慰めながら渚は頭を撫で続ける。コイツ頭撫でるの上手いな。意外な特技発見だ。
「ゆーくんは何も悪くない。悪いのは全部あの女なんだから……」
その時、ピコンッ!とLINEに連絡が入る。薫からだ。しかしその連絡が入ったスマホは俺が確認する前に、渚に奪われてしまった。
「えっ?何コレ?マジで最悪。こんなのゆーくんに見せられない」
「あっ、ちょっと待て渚!勝手に操作するな!」
LINEを見て突然キレた渚は勝手に俺のスマホを操作しようとする。なんとか奪い返したが、俺はそこに送られてきたモノを見て思考が停止してしまった。
「なんだよ……コレ」
「……俗に言うハメ撮り写真ってやつだね」
薫から送られてきた大量の写真。それは全て薫とあの金髪の男の情事を写したものだった。
「うぇっ……」
生理的嫌悪から思わず胃の内容物を戻しそうになってしまう。渚が居なければところ構わず吐いていたかもしれない。
渚は無言で俺のスマホを操作し、全ての写真を消去して薫のLINEをブロックした。本来俺がやるべき仕事をやらせてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
暫く無言の時間が続く。互いに何も喋らない。いや、こんな状況では何を話せば良いかも分からない。
「ねぇ、ゆーくん。私達、付き合ってみない?」
渚の一言が沈黙を切り裂いた。それはあまりにも唐突で理解できないものだった。
「なんの冗談だよ。笑えないぞ」
「本気だよ。私は本気でゆーくんと恋人関係になりたいんだ」
じっと覗き込んできた彼女を直視出来ずに目を逸らしてしまう。
「悪い……。今はフラれたばかりでそんな気分じゃないんだ。それに俺は渚のことを恋愛対象として見られない。むしろ姉弟みたいに思ってるから……」
「そっか……。じゃあ、恋愛感情を持ってなくても良いから付き合ってくれないかな?」
「は?」
何を言っているのか分からなかった。
「ゆーくんは私のこと好きじゃないのかもしれない。けどね、私は本当にゆーくんの事が好きなんだ」
だからね、と彼女は続ける。
「ゆーくんを苦しめたあの女が許せない。……やり返そうよ。もうお前なんかよりこーんな可愛い彼女が出来たんだって見せつけてみない?今更後悔してももう遅いってね」
「やり……返す……?」
考えてもみなかった事だ。たしかに寝取られた負け犬で終わるより、お前なんてもうどうでも良い、と元カノに見せつけた方がなんか気分が良い。ハメ撮り写真まで送られてきたんだ。少しくらいやり返したってバチは当たらない。
けど……。
「渚はそれで良いのか?その……俺なんかで……」
「いいよ。私はゆーくんだから付き合いたいって思ったんだ。ゆーくんじゃなきゃ嫌なの。俺なんか、なんてもう言わないで」
「俺は渚に恋愛感情抱いてないんだぞ?やっぱ、そういうのって不誠実じゃないかな?」
「ふふっ、変なとこで真面目だね。大丈夫、心配しないで。私がゆーくんを惚れさせて見せるからさ!」
男前な台詞と共にニヒヒっと渚は笑う。その姿は様になっていて思わず見惚れてしまった。
心は決まった。本当に渚には昔から迷惑かけてばかりだ。これじゃ、一生頭が上がらない。
「その……不純な動機だけど、俺と付き合ってくれますか?」
「はい!喜んで!これからよろしくね、ゆーくん!」
2度あることは3度ある。これまで 3回も彼女を寝取られてきた俺は、今日、打算ありきとはいえ人生で4人目の彼女が出来た。
渚とは昔からの付き合いで気心しれた仲で、その上趣味がよく合った。だから付き合いに心配は何一つしていない。
だが、ただ一つだけ心配な事がある。それはまたフラれるかもしれないという事だ。
また浮気されるかもしれない。また寝取られるかもしれない。 3回も植え付けられたそんなトラウマが頭の中を駆け回る。
すると、渚は見透かした様に俺の頭を優しく抱き締めた。
「大丈夫だよ。私は絶対ゆーくんを裏切らない」
「薫も同じ事言ってた。その前の彼女も。でも結局みんな離れていったんだ」
「ううん、違う。私はその2人とは全く違う」
そう言うと、渚は顔を上げて俺の目をじっと見つめる。頭を彼女の手で固定されているせいで今度は目を逸らせない。
「私は、ゆーくんの事、本気で愛してる。今までの女と違って心の底から愛してるし、その幸せを願ってる。ゆーくんの好きなところ一億個以上あげられるし、ゆーくんの為なら死んだって良い。だから私は、絶対に、ゆーくんの為だけに全てを尽くすよ」
じっとりとした泥沼の様な視線が纏わりつく様に俺を捉えて離さない。今までこんな渚を見た事がなかったから新鮮ではあるが、少し怖い。
「なーんて、ちょっと重かったかな?」
あっからけんと笑う彼女はいつもの渚だ。さっきまでの感覚も気のせいだったに違いない。いつもの渚に戻ってくれて少しホッとしている自分に少し嫌気がさす。
「これからは仮とはいえ恋人同士なんだし、多少重い方がいいさ」
「そう?じゃあ2人で沈んじゃう?」
「溺れるのはやだなぁ」
ケラケラ笑う彼女からは先程の粘着質な雰囲気を感じない。やっぱり気のせいだったのだ。
「ねぇ、キスしよ?」
「え?」
スッと。俺の返事を待たずに渚は自身の唇を俺の唇に押しつける。そして閉じていた口を強引にこじ開けて舌を口内へとねじ込んだ。
俺の唾液は全て彼女に吸い取られ、逆に彼女の唾液を流し込まれた。同時進行で口内を蹂躙する渚の舌が淫靡な音は、2人きりの部屋にやけに大きく響いている。
5分近くも俺を貪り続けた渚はようやく唇を離し、互いの間で滴り落ちる銀色の糸を一滴残らず舐めとると、蠱惑的に、妖艶に笑って俺の耳元で囁いた。
「このまま最後までシちゃう?」
俺ももう子供じゃないし、彼女のその言葉がどういった意味なのかも理解できる。あんなに激しく求められたらこっちもそんな気分に成ってしまう。
でも、それはダメだ。
「悪いけど、俺はまだ渚のことちゃんと恋人として見れてない。そんな半端な気持ちじゃダメなんだよ。だから……その……ごめん」
「いや、私の方こそ先走り過ぎちゃった。ごめんね。じゃあ、私帰るから。また明日ね!」
渚は特に気にした風もなく笑顔を浮かべると、にこやかな表情のまま手を振って部屋から出て行った。
俺は今まで 3人の女の子と付き合ったけど、誰とも最後まで行くことはなかった。今日彼女に誘われたが、俺はまだ渚とそんな関係になりたいと思えない。
渚は大切な人だ。だが、まだ恋人としては見れていない。今でこそ渚は俺のことを好いてくれるが、将来的には別の男を好きになってしまうかもしれない。今までの 3人の様に。情けない話だが、そうなればもう立ち直れない自信がある。というか、死んでしまう気がする。
早く俺も渚のことを好きにならないと見限られてしまうかもしれない。
「それは絶対ヤダ。今度こそは……今度こそは絶対フラれない様にしなきゃ……」
そして、俺は渚に捨てられない様に頑張ろうと心に誓うのであった。
★☆★
渚は家に帰るとすぐに自宅のベッドにダイブするとすぐに顔を手で覆ってプルプルと震え始めた。
「ふ、ふふ……。あーっはははっ!」
テレビの悪役の様に笑いながらベッド上をバタバタと転がる渚。側に置いていた枕をギュッと抱きしめた彼女は興奮を隠さない。
「やっと、やっとだよ。やっと、ゆーくんが私の物になってくれた!」
がばっと体を起こした渚は机の引き出しから十冊以上も『アルバム』を引き出して眺め始める。
それだけなら普通の光景。だが、彼女の見ている『アルバム』は普通ではなかった。
「初めて出会った時のゆーくん、幼稚園の時のゆーくん、小学校の頃のゆーくん、一緒に遊んだ時のゆーくん、中学校の時のゆーくん、高校の時のゆーくん、デートに行くゆーくん、祭りに行くゆーくん、頑張ってるゆーくん、勉強するゆーくん、服を選んでるゆーくん、ご飯を食べてるゆーくん、筋トレしてるゆーくん、くしゃみするゆーくん、風邪をひいてるゆーくん、ゆーくん、ゆーくん、ゆーくん……。こーんなにいっぱい見てるんだから、私の元に来てくれるのは当然だよねぇ」
渚の持つ『アルバム』には彼女自身の姿は殆ど写っていない。ただひたすらに優一だけが写されていた。その夥しい程の写真の半分は、目線がカメラに合っていないことから隠し撮りした物であることが察せられる。
渚はそれらのアルバムを大切に仕舞うと、一部が破かれた写真を3枚取り出した。
「ほーんと、馬鹿ばっかり。折角私がゆーくんと引き合わせてあげたっていうのに……」
そこに写されていたのは 3人の女性だった。誰かとのツーショットを強引に引き裂かれた様な写真に写っている彼女たちは、その顔の部分に赤字でバツ印をつけられて服装でしか誰なのか判別できない様になっていた。
「1人目は私が適当に用意したイケメンに簡単に靡くし」
そう言うと、彼女は手に持った写真を1枚ハサミで粉々に切り刻む。
「2人目は彼女の友達使ってヤク中になるように仕向けたんだっけ?アタマおかしくなっちゃっててかわいそー」
続けて渚は2つ目の写真に火を付ける。メラメラと燃え尽きていく様子をうっとり観察しながら彼女は笑顔を絶やさない。完全に写真が燃え尽きたことを確認すると 3枚目の写真に手を伸ばした。
「それに比べて、薫は良い子だね。イケメンも彼氏がいるからって断るし、友達の誘いよりもゆーくんのことちゃんと優先したし。一番良い線行ってたよ」
前の2つと比べて渚は随分丁寧に写真を手に持つ。そして写真の中の薫を慈しむように優しく指で撫でた。
「でもダメ」
ぐしゃり、と。渚は先程まで優しく撫でていた写真を笑顔のままで握り潰した。
「ゆーくんを幸せに出来るのは私なの!お前じゃないんだよ」
笑顔を絶やさず渚は狂気を露わにする。そのままの表情で、彼女は机の上にばら撒かれた残骸を集めてゴミ箱に放り込んだ。
「流石の薫も無理矢理襲われて、その時の写真で脅されたら言いなりにならざるを得なかったね。ざーんねん」
ケラケラと渚は腹を抱えて1人部屋で笑う。優一に今までの人生で一度たりとも見せた事がない表情で。
そう、全ては如月渚が仕組んだこと。
女の子と優一を引っ付けて、それを引き剥がすマッチポンプ。彼女がそんな事を繰り返したのは、ただ一つの目的を達成する為だ。
皐月優一を手に入れて、2度と離れないように自身に縛り付ける。
たったそれだけの為に渚は 3人もの女性の人生を滅茶苦茶にしたのだ。
彼女は最初からこれほど歪んでいた訳ではない。彼女も最初はただの女の子だったのだ。
彼女が歪んだ理由は、優一が最初の彼女と付き合い始めたことにある。
当時の渚は、幼馴染の優一と付き合って結婚して一生を添い遂げるのだとなんの根拠もなく確信していた。そして優一も同じ想いを抱いているとも。
家族絡みで付き合いがあった上、何度も2人で遊んで食事も共にしたとなればそう考えるのは何らおかしくない。
そんな絶対の自信は、優一が彼の最初の彼女となる女の子の告白を受け入れたことで容易く瓦解した。
渚も含めた数人で遊びに行った帰りに告白されたのだという。渚は混乱した。もう実質婚約していると思い込んでいた相手が、自分以外の女と付き合い始めたのだ。訳がわからない。
渚が問いただしたところ優一は答えた。
『告白されたから断りきれなくて……。あと、俺と渚は幼馴染で親友だろ?なんか今更恋愛感情は感じられないんだよなぁ』
渚はショックで寝込んだ。嫌なところで男女間の友情を成立させるなよ、と。
しばらくの休養の末、なんとか立ち直った渚は考えた。どうすれば優一を手に入れられるのかを。
2人を別れさせるのは簡単だ。だが、それでは優一が此方に来ない。
だから、彼女はじっくりやる事にしたのだ。
如月渚は好きな人を手に入れる為なら手段を厭わないし、金に糸目をつけない。幸運な事に彼女の家は金に困る事がなかった為好きに使えたのだ。
まず、最初の彼女は適当に金で雇った顔が良いだけの男で簡単に陥落した。
渚の愛する優一とは比べる事すら烏滸がましいレベルの下賤な男であったが、優一を奪う様な泥棒猫には丁度良い相手だった。今頃、あの女は顔だけの男に色々なものを奪い尽くされて道端に捨てられているだろう。
渚は彼女を憐れまない。全ては人の物を横取りしようとしたあの女の自業自得だ。
次に、渚は浮気されて打ちのめされている優一を慰めた。二番目の彼女となる女と共に。
渚は彼女が優一に好意を抱いていた事を知っていた。だから引き合わせたのだ。彼女を傷心した優一の心に入り込ませて2人を付き合わせる為に。
渚の目論見通り優一の心は癒されて2人は付き合う様になった。それこそが渚の罠だとも知らずに。
そして2人は渚が仕組んだきっかけであっさりと引き裂かれてしまった。
2度目の浮気は優一を相当追い詰めた。目を離したら死んでしまうかの様な精神の不安定さを優一に付与する事が出来たのだ。
その間も渚は素知らぬ顔で彼を慰め続けた。精神が弱った彼に他の女のネガキャンを吹き込みながら。その甲斐もあって、彼女の望み通り傷は深くなり、渚以外の女を優一は不信感を抱くようになったのだ。
これで優一は渚に依存する筈だった。この時点で渚は間違いなく勝利を掴んでいたはずなのだ。
なのに、今度は何故か何処の馬の骨とも知らぬ女が横から優一を掻っ攫っていた。
意味がわからなかった。耳を疑った。
聞くところによれば、優一から告白したそうだ。
そんな馬鹿な、と愕然とする。確実に心を折った筈だ。二度と渚以外の女と触れ合えない筈だ。なのに何故まだ他の女に手を伸ばせる?
最初の女と同じように、顔だけは良い男をあてがった。失敗。
次の女の様に知人を利用して、ヤク中にしようとした。失敗。
何故か渚の罠が悉く躱されてしまう。まるで世界が2人を祝福しているかの様に。
認められない。そんな事認めない。決して認めてやるものか。
渚は、渚以外の女と優一が幸せになる事を決して認めない。例えそれが世界に祝福されたものであったとしてもだ。
そして遂に渚が雇った男が、薫に酒を飲ませて泥酔させた後、無理矢理襲い手籠にする事に成功したのだ。その後の顛末は語るまでも無い。そのネタで脅された薫はもはや男に逆らう事は出来ずに優一と別れさせられてしまった。
その後の薫がどんな扱いをされるかなんて想像に難くない。
多少の事故はあれど、これで優一は完全に渚の物になった。もう彼女が一生彼を離す事はないだろう。
「あっ、そうだ。写真送っとかなきゃ」
ふと思い出したかの様に渚はスマホを立ち上げる。そして薫とのチャットルームを立ち上げると、そこに一枚の写真と少しのメッセージを貼り付けた。
それは渚と優一がキスしている写真。先程の出来事をサラッと隠し撮りした物だ。
『薫ちゃん、ありがとね』
『あなたが手酷くフッてくれたおかげでゆーくんと付き合えたよ!』
『ねぇねぇ、今どんな気持ち?』
『辛い?苦しい?』
『でもそれは人の物に手を出したからだよ』
『全部薫ちゃんの自業自得』
『ざまぁみろ』
★☆★
優一は知らない。彼の幼馴染が身勝手な想いで優一の彼女を悉く破滅させて来たことを。そしてこれからも決して知る事はない。
知らない事は幸福なのだ。
ヤンデレが好きという方、哀れな作者に評価を恵んでやろうという寛大な心の持ち主の方、それ以外の方、評価、ブクマ、感想をよろしくお願いします。