6話
”コレだ”と小太りのエルフは言う。
河野は犯人を絶対に見逃さないと言わんばかりの形相でフェリクスのPCを瞬きせず凝視する。
ネカフェ店内の映像に映る送信元PCの部屋にいるのは青いニット帽に黒いマスクをした男だった。
「この映像の時間帯、事件当日の早朝4時頃だけど本当にこの男が犯人なのか?」
「元から更に元を辿ったら時間指定メールであることが分かった。何故そこまで念密なのかは分からん。アドレスはフリーメールのアカウントで大して手がかりになる情報が無い。入店履歴からコイツのネカフェ会員証を調べたが実在しない人物だ。おそらく身元証明証を改ざんしてると思われる」
次はこの写真を撮った犯人の姿の確認である。
「この白いハイエースだ。おそらく車内から盗撮している。角度と距離から推測すると、この車しかない」
「ナンバーは?」
「そこも確認してる。品川ナンバーだ。ちなみにこの車、レンタカーであることがわかった。借りたヤツの名前はキムラ コウヘイ39歳、種族は人間、職業は派遣社員だ」
「どこで働いてるんだ?」
「町田テクノパークの精密機械を取り扱っている製造工場だ。コイツが写真を撮って送った犯人に違いない」
河野は溜息をつき落ち着いた口調で話す。
「なぜ迷惑メールを送ったのか、理由を直接彼から聞きたい。しかも僕の社内に。本当はブン殴ってやりたいがそれでは話が収まらん。ここまで調べてくれてありがとう。あとは自分で決着つけるよ」
最後にダイモンユキヒトの情報である。
「この大学生はSNSをチェックした限りだと、特にこれといってヤリサーと思われるサークルや新興宗教、マルチ商法などには加入してない。ごく普通の魔族の青年で写真の男とは全く別物だ。他の従業員も含めて全て確認したが誰一人この男と似てるヤツはいない」
河野は心の中で”ホッ”と一息つくが”ではこの男は誰だ?”と疑念が強く残る。
「妻の職場にいる人物では無いと分かっただけ少し安心したが、この件より先に迷惑メールを送った犯人が優先だ。ついでの案件も調べてくれてありがとな」
「……もう少し、手伝ってやるか?」
河野は”え?”と反応した。
「せっかく築き上げた家族だろ」
「どうした急に?」
「1回、捕まって、俺は今も同じことしている。でもお前に久々にあってこのままクズで良いのか悩んだんだ。どうせならこの技術を理不尽な目に遭っている人を救う方向に使おうと思う。だから…手伝わせてくれないか?チョコは要らない。払った分は俺が出すから、そのチョコは捨ててくれ」
河野はフェリクスから意外な言葉が出たことに驚く。
「わかった。コレでもうクスリとはお別れだな」
「ああ。この件を機に変わるよ」
フェリクスが更生の一歩を踏み出し、河野は話を本題に戻す。
「まず犯人と思われる”キムラ”という男と接触するにはどうしたら良いかだ」
「コイツにコイツ自身が送ってきた迷惑メールの内容をそのまま添付して送り、軽く脅して話し合いを設ける場を持ち掛けるのはどうだ?」
「たしかに良い案だ。それにプラスしてLINEとSMSにも送れば確実だ。それと盗聴用イヤホンマイクだ。これを使ってこちらでも録音する。俺が誘導するよ」
「ありがとう。時間と場所は深夜0時以降の公園で頼む」
“OK”とフェリクスに応え、河野は実家に預けた娘の迎えに行き、妻の帰りを待つ。
ようやく犯人と顔を合わせる事ができると思う反面、心のどこかで何かが今の自分の行動を思い止める気持ちが薄っすらと感じたが"大した事ない"と気にせず、この事件に終止符を打たせる事に一心を向ける。
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深夜0時過ぎ。
娘と妻は寝静まった。
河野諭は静かに身支度をし、そして更に静かに玄関のドアを閉め、犯人が待つ公園に向かう。
フェリクスのメール作戦により"キムラ"という男を上手く誘導できた結果が23時頃にLINEで届いた。
自宅から目的地まで約1時間かかるため、待ち合わせ時間を1時30分に調整してもらった。
時間的に終電にも間に合わないため自転車に乗り、人通りの少ない深夜の道を颯爽と駆け抜け、目的地に向かう。