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生贄の騎士と奪胎の巫女  作者: ゆめみ
第一章 東の島
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6 異世界の「ちょ、待てよ!」




 手をつなぎ歩くアスターとシオンに、町の人々は頭を下げたり、端に寄りこちらに目線をくれながら話している。立ち話をしたシオンの知人によると、アスターは神によって大陸から招かれた人間ということになっているらしい。


 どうりで見も知らぬ人々から、王侯のように恭しい扱いを受ける訳だ。さすがに跪く者はいなかったが、ほぼ全員に簡易ではあるが礼をされた。どうにも落ち着かない。




 町並みを見ながら港まで歩いた所で、男がシオンの腕を掴んだ。この国の人々はアスターよりもまず頭一つ分は小さいので、近寄って来るのは見えていた。この通りにシオンの知人が多いので接近を許してしまったが、アスターはつないだ手を引きシオンの前に出て、剣に手を掛けた。


「ちょ、待てよ!物騒だな~。シオン、誰だよこの塗り壁並みにデカイやつは!?」


「私の旦那様。」


「えっ?マジかよ?!いつだ?いつ結婚したんだ?」


 男は興奮した様子で、大声でシオンに詰め寄ったので、掴んだ腕を離させた。例え知人であろうと、シオンに触れることは許せない。


「今日です。私たち、幸せです。」


 なぜか指を揃えて左手の甲を相手に見せ、シオンらしくない高く甘い声で男に宣言した。指に何か巻いている様だ。


「マジか……なんで……漁から戻ったら神主さんに申し込みに行こうと思ってたのに……」


「「…………」」


 うなだれた男はそれ以上何も言わず、トボトボと去って行った。――戻る様子がないことを確認してから、アスターはシオンの掴まれた腕をさすってやった。


「痛くなかったか?」


「ええ。あれは幼なじみなので、非道は行いませんよ。――それよりも周囲が騒がしくなってきましたので場所を移しましょう。」


 町の人々がこちらを見て、何か話し掛けたそうにしている。今度はシオンがアスターの手を引いて、早足で港から住宅地まで戻った。走っている訳ではないのに、何故か非常に歩きが早かった。





 

 港町の中でも外れの方にある、小さい小屋にたどり着いた。シオンの息は切れていない。そういえば自分が今日は鍛練を怠っていたことに気が付き、アスターは気を引き締めた。



 板戸をドンドン叩き、シオンは言った。


「賢者さま~!結婚祝いもらいに来たよ~!」


 シオンは……友人には随分と……気安い、物言いをするということにアスターは少し動揺した。


「早くしないと開けちゃうよ~。開けたら今日は何があるのかな~。」


 ――さすがに無礼すぎるシオンを止めなくてはと、後ろから戸を叩く手を掴んだ。


「先方が忙しいのであれば、出直そう。勝手に開けるのはいけないことだ。」


 宥めるようにアスターが言うと、シオンはこちらを向いてペロッと舌を出した。――この仕種は何だろうか。奇しくもアスターが掴んだ手をそのままに、シオンがこちらを向いたので、手を掴んだまま抱き寄せるような形になっている。


 ……催促、されているのだろうか。シオンの意図を量るようにじっと見つめると、下を向いてしまった。待たせ過ぎたか。恥をかかせるなと昨日も言われたではないか。どうして思い切らなかったのだろう。慌てて手に力を入れ、額に口づけた。





「人ん家の前で何やってんの?」


 扉の中から出て来た人物を見たアスターは、目を見開いた。


「西の島の民……」


「……シオン。誰こいつ?」


「私の旦那様。私たち、結婚しました。」


 そういうとまたシオンはまた、指を揃えて立てて手の甲を相手に向けた。何の意味があるのだろうか。


「そのポーズはなんだ?」


「結婚の証の指輪を見せ付けるポーズ。」


 そこにはない装飾品を見せ付けるようにして得意げにするシオンに、アスターは胸が痛くなった。


「っ!そうだったのか……。すまないシオン。……仕事を見つけて必ず贈ると約束する。」


「いえ、いいんです、そういうつもりじゃなくて!この島の一種の日本アルアル遊びというか。日本についての雑学を沢山知っているのがお洒落みたいな風潮があるので、みんな会話や行動に日本アルアルを差し込んでいくんです。」


「?……。だからさっきの町でも……」


「そう。近年の新作だったので大騒ぎだったでしょ?あれは何だ?ってなって、みんなこぞって年寄りに聞きに行くんです。世代交流の切っ掛けですね。でもこの仕草は婚約者があるものか新婚者しかできないので、最初に突き止めて流行らせようとした人もガッカリしているでしょう。」


「……それは年寄りがニホンにいた時代から流行っていたのか?」


 興味深そうに、家主が質問をはさむ。


「……どうやら島で老人だからといって、日本で私より前の時代の人間だったとは限らないみたい。……まあ誰も知らなければ神社に答え合わせに来るでしょう。――――だから結婚祝いおくれ!」


「しゃーない、入れよ。」





 何か腑に落ちないものを感じながら、アスターはシオンの後に続き、扉をくぐった。すると、中には足の踏み場も無いような書物の山が広がっていた。



「それで……何が欲しいんだよ?」


 問われたシオンは家主に顔が触れ合うほど近付き、耳元に何が囁いた。


「ああ、分かった。――――おい、お前!殺気がダダ漏れだぞ。……シオンも結婚したなら旦那を怒らせるようなことするんじゃない。」


「あら、こりゃ失敬。カイにはどうにも男を感じないもので。」


 確かに家主のカイは町の人々より更に小柄で、膝に届くほどの銀髪も美しく、顔も非常に整っている。が、アスターは一目見た時から、何故か女性とは思っていなかった。


「そういやそちらさんは、最初から恋敵を見るような目で俺を見ていたな……。筋がいい。」


「カイが可憐な美少女に見られないなんて珍しい。――でもまあ、そうね。幼なじみであっても、そろそろ既婚者の落ち着きを持って、他者に丁寧な対応をしなくてはなりませんね。」


「そうだ。賢者に敬意を払え。」


「ふんっ。……賢者様、こちらは我が夫、アスター・サーシス・フィリペンデュラ、二十四歳。大陸から転移させられて来たクリサンセマムの騎士様です。――どうです?詳しい話が聞きたいでしょう?」


「ああ、是非聞きたい。知っての通り、俺は西の島の民、カイロン・ケルコバートという。見た目通りの年齢ではない。宜しく頼む。」


 賢者で見た目通りの年ではないというカイロンに、アスターは左膝を立てて跪き、右手の平を胸にあてた。


「アスターです。お見知り置きを。」


「その挨拶!右手の手の平は開くのですか?握って心臓は捧げない?左手は横に伸ばさないの?ボーアンドスクレープの場合、右手はお腹ですよ。スクレープって右足は床を擦るんですか??」


 急に興奮し出したシオンに続き、カイロンも勢いよく質問してくる。


「剣を外して右側に置いたりはしないのか?左膝を立てるのは右利きだからだろ?やはり急に相手に切り掛かれないようになんだよな?」


「え?あ……剣は外しません。膝は……全てそう指導されたからです。」


「うーん。日本の公家の作法、建膝も、左膝を立てて、右足は正座状態ですよ。武士も刀は室内でははずして右手に持つとか。」


「類似性はあるな。意味から考えれば当然だが。」


「それにしても指導するなら由来までちゃんと伝えて欲しいですね。ん~……不確か過ぎて書き残せません。」


「すまない……。」


 どうして自分は疑問も持たず、今まで言われるままこなしていたのだろう……。アスターは自分の生き方を指摘された様な気分になった。


「お前が悪いのではないさ。」


 カイが落ち着きを取り戻した声で、肩をすくめてそう言ってくれた。


「――ねえ、カイ。そうやって偉そうに喋ってれば舐められないんじゃない?じじいらしく喋れば、少なくとも美少女には見えなくなるでしょう?」


「うっせーばばあ。お前もヤマトナデシコらしく喋れよ。」


「撫子ねえ。ふーん。撫でたくなる程、可愛いらしいってね。」


 アスターは堪え難い疎外感から、思わず妻を後ろから抱きしめて言った。


「シオンは可愛いよ。」


「わっ、うっ……」



「――お前も年貢の収め時だな。俺も……わしも。そろそろ年相応に、しようかの。」









『引き篭り王子と祈らない聖女』の賢者様も友情出演です。むしろこっちがメイン。

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こちらもお時間がありましたらよろしくお願いします。



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