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生贄の騎士と奪胎の巫女  作者: ゆめみ
第三章 魔の山
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31 細工は流流



「シオン!!何と、何ということを!!お前にそんなことをさせるくらいなら、俺が悪魔に魂を売る!シオンは巫女姫のまま、ヤマト国で幸せに暮らしてくれ!」


「いいえアスター様!私たちはずっと一緒。一つであると約束したではありませんか。私だけヤマトに帰るなどできません。」


「ならば共に!」


 そういってアスターは、シオンの面を外し額に口付け抱きしめた。




「歓迎しましょう!新しい仲間を私は歓迎しますよ。」


 そういって大神官がなぜか客間フロアへのドアから開けたままの応接室のドアまでズンズンと突き進んで来た。が、声は確かに大神官ベリス・ペレンニス様であったが、頭が犬だった。




 アスターは自分のラブシーンを棚に上げ、全員を困惑させている大神官に非難の目を向けた。


「ああ、良いところを邪魔してしまったのですね、すみません。羽沼くんまだカット掛けてなかったの?余韻もいいけど良いところで切らないと、役者さんも困惑するよ。」


「我々はあなたに困惑しているのです。」


 責任をなすり付けられた羽沼が反論し、カイが詰め寄る。


「キリヒト、なぜお主がここにおる!しかも化けの皮が剥がれているぞ。」




 化けの皮?犬の被り面ではないのか?いよいよ収集がつかなくなってきた所で、アスターの腕の中のシオンが大きい声を上げた。


「あの〜すいません。霧人さん?大神官様ですか?悪の手先なのですか?」


「嫌だなシオン殿。私は善なる存在ですよ。そこにいるサルタ君とは縁あって友人になりましてね。ここの社員も兼務しているのですよ。」


「あーうん。……川で溺れてるとこを助けてもらってね。それから霧人さんがフォローしてくれてるんだ。」


「カイもお知り合いなんですね。」


「ああ、クリサンセマムにいた時ちょっとの。ところでシオン、体で払うとはどういうことじゃ?」


「……要するに、バグ塊が私の中にあるうちに、バグ魔力を貰って空間魔法でお引越ししちゃえばいいかなと。それでもって、吸収体の回収と山の移動は一瞬で出来ても、空を飛ばすのは無理なので、プロジェクターみたいなのが出来ないかなと。省エネ工法で費用対効果もトントンになりませんか?」


「ドアも作ってくれるんだよね?うーん。……返事の前に移動先を教えてよ。」


「先程の平等の定義がクリアできて、かつ、供給魔力の吸収率は、吸収体までの距離にもよるので、その兼ね合いで丁度いい位置を計算すると、多分……東の島の北東の方になるんじゃないかと……」


 急にガタッと立ち上がったサルタは、何も言わずに応接室を出て行ってしまった。最早驚きもしない一同に、羽沼が言った。


「昼食にしましょうか。」






 今日のお昼はテンプラソバだった。アスターが上手に箸を使って、しかもすすって食べていると、ハヌマが悔しそうな顔をしていた。サル頭なのに不思議と分かった。ちなみにキリヒト以外全員上手だった。どうやってか、シモイとコホリは面のまま食べていた。



 食後に小猿たちを撫でながら、シオンが聞いた。


「大神官様、霧人様と申し上げた方が宜しいですか?」


「ここでは霧人かな。あなたは五十鈴?ヤマト姫がいいかな?」


「呼び名が多いと混乱しますので……シオンか巫女姫で統一してください。まあ姫ではないのですけれどね。――霧人様は霧の魔法はお得意ですか?」


「霧人は当て字だから関係ないけど、川が持ち場だったから水魔法は得意ですよ。」


「では大規模な霧をお願いできますか?光魔法は私として、跡地に木を生やすのがカイ、アスター様と下井さんは勇者一行役で。私の役は……小堀さん?」


「……やめましょう。光魔法はサルタ君にやらせますよ。広範囲を光で照らせばいいのですよね。彼はそういうの得意なんですよ。シオン殿はご自分の役をどうぞ。」


「……じゃあ寒さんと猿田さんで映像を照射しながら飛んで行くとして。小堀さんには山設置予定地を整えてもらうなどどうでしょう。周りを飛ぶ悪魔は……イカロスちゃんたち、お友達を沢山連れて東の島まで遠足に行きませんか?霧で太陽を遮れば羽も溶けないでしょう。」


 そこでカイも参加する。


「どうせなら大陸中の人間の髪色をした悪魔を飛ばせば良い。黒髪差別も少しは和らぐじゃろ。」


 カイは本当に島の差別問題に真剣に取り組んでいるようだ。アスターは頭が下がる思いがした。


「羽は着脱式なの?形も変えられる?ヤマトには動物用の温泉もありますよ。魔法でカラーリングすればシャンプーは要りませんけれどね。」


「シオン、お主も凱旋する時にはコスプレとやらをしてはどうじゃ?」


「コスプレ。常時しているようなものですが、どちらのスタンスで?和装?洋装?魔法少女でイメージアップ、魔法の印象を良くしますか?上級者魔法は見せる?見せない?」


 うーんと全員で考え込んだが、コスプレ……。魔法少女は魔女ではなくシオンのような魔法を使う少女のことだろう。東の島の印象を良くするなら、謁見の間の時のように和装の良さを伝えるか。それとも自分たちと変わらないと安心させるべきか。


 顔立ち髪色は既に東風。であれば衣装は大陸風か。突飛な魔法は道具使ってそのせいにすればいいかもしれない。そうアスターが意見をいうと、シオンは一つ頷いて、今度はハヌマに質問した。


「いつも衣装はどのように用意してくださっているのですか?」


「それは……あなたが着たいと思ったものが具現化しています。断じて私ではありません。」


「……じゃあデザイン画を書いたら出てきますか?途中で消えたりしませんか?」


「出てきます。手順を踏まなくては消失はしません。」


「うーん。衣装と魔法のステッキかあ。椿はどんなの持って……」


「ツバキ?」


「あ、うん。……あ、椿の花とかいいかな。でも桜も捨てがたいです。真っ赤は悪い魔女っぽいですか?淡いピンクの方がいいですか?」


「ピンクはいいですね。シオン殿、東の国からとして記念植樹などされてはどうですか?」


 キリヒトが笑顔で応じた。


「名案です!カイが成長させてくれれば直ぐに花が見られますね。うーん。私は戦わない設定で、動きづらくてもいいんですよね?じゃあむしろ、アスター様は戦国武将ぽくしますか。二人で和洋折衷な感じで……」


 そう言うとシオンは目を伏せて椅子に背をもたれ、手に持った茶の水面を見たまま動かなくなった。サルタの悪い癖がうつったのだろうか。




 その後復活したサルタによって、引っ越しが決定された。二人は「花弁が散るエフェクトが」とか「天狗面で悪魔をやるのはちょっと良心が」とか、よく分からない相談を延々としていた。アスターはカイやシモイと打ち合わせをした。サルタ曰く「台本を完璧に入れてこそアドリブが活きるのだ」と。アスターには覚える事が沢山あった。






 あまり日が空くと王が騎士を派遣してきそうなので、決行は明後日。その前にシオンが今日、深夜からバグ魔力の回収の為に大陸中の上空を飛んでいく。シオンは寝ていても、自動でバグが回収されるから、ハヌマとサムチャが交代でシオンを運ぶ。低空飛行の目くらましの為に、シオンはおかしな黒尽くめの衣装を来た。


「シオン…その服は?」


「忍者です。黒子でもよかったのですけれどね。」


 そう言って先ずはハヌマと出て行った。既に明後日以降の衣装の用意も終わったらしい。


 それにしても、先程のツバキとは……。少しシオンの様子がおかしかった。その後、サルタの様になってしまったし……。ツバキとは本当に花の名前なのだろうか。




 部屋で仮眠し明け方オフィスに戻ると、完全に日が昇った時間にシオンとサムチャが戻った。彼は鳥だが透視能力があるので、暗くとも大丈夫なのだそうだ。シオンは快眠したらしい。「羽毛最高」だそうだ。鳥でもあまり密着しないで欲しい。


 朝食前、バグ魔力が拡散しないうちに吸収体の回収を行う。ソウジキのコードを巻き取る要領なので、中心を回転させるだけらしい。他のイメージは思い浮かばないそうだ。吸収体は異空間収納した。



「これだけ長さがあれば細く伸ばして海底ケーブルみたいに島々を繋げそう。」


 シオンがそういうとまたサルタが動かなくなった。アスターたちには片付ける荷物はないので、事務所の片付けを手伝う。各部屋の荷物が異空間ダンボール箱一つずつに収まった。


 いよいよ明日はスペクタクルの本番だ。







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こちらもお時間がありましたらよろしくお願いします。



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