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生贄の騎士と奪胎の巫女  作者: ゆめみ
第三章 魔の山
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30 体で払うか魂を売るか



 アスターはシオンの手を握り、真っ直ぐサルタの目を見て答えた。 


「一度はそう考えました。国防のことも、山に近い我が領のことも、魔法がもっと使えれば楽になるのにと。……しかしシオンに教えられたのです。過ぎたる力は災いを及ぼすと。私は国では魔力が多い方ですが、シオンのように複雑に組み合わせて体を浄化するなどという事は、思い付きもしませんでしたし、説明されても理解できません。制御できないもの、自分の中にあったバグの塊とやらにも振り回され、周囲を傷付けてきました。ですから私自身が魔力を欲して言った訳ではありません。」


「うん、大田さんは指導力もあるね。一応土地の深い所から吸収されているから、山からの距離は関係ないということは伝えておくよ。君の私利私欲じゃないとすると公共の利益かな?その前提の上で、アスターはこの山の動力源はどうしたらいいと思うのかな?」


「……世界の為にこの山があるのですから、全ての土地が負担すべきと考えます。……例えば接する海を通じて吸収してはどうでしょうか?」


「うーん。それは多大な時間と魔力と後始末の手間を掛けてまでやる価値のあることかな?現在この山は大陸の大体中央、元はエルフェンバインの土地で、三国の境界にある。この山の下、地中に吸収体があり、そこはこの辺りの海底より深いけど、地核よりは全然浅い。吸収体は面状に大陸の土地と同距離に広がっているから、大陸の土地からは平等に吸収されてるよ。」


「この世界は球体ですか?」


 シオンが聞いた。球体?世界が?アスターには初耳だった。


「そう。だから今もちょっとは島からも吸収してるよ。でもそれじゃあアスターは納得しないんだよね?」


「……平等であれば尚良いかと。」


「平等!何をもって平等とするか!……君は島に住むつもりなのに平等を言うんだね。島に寒茶たちが派遣されたことなんて殆どないよ。逆に大陸では引っ張りだこさ。」




 どこからも同じだけ吸収するのでは平等にはならないのか。浅い考えでサルタを怒らせてしまったようで、アスターは落ち込んだ。ヤマトでの様には上手くいかなかった。シオンに撫でられる背から元気が伝わってくる様な気がする。


「まあ確かに、安易に真ん中と決めた感はあるけどね。……東西の島には分社があるからさ、沢山は魔力が取れないんだ。行き来の基点だからね。」


 サルタも宥める様な声で言う。怒らせた相手に気を遣わせてしまったようだ。不甲斐ない。サルタからは、上からも下からも無理を言われる、騎士団の副団長の様な哀愁が漂っている気がする。




「……この世界はまだ若い。しかも色々な神力の、介入というか影響もある。その上管理し切れないからと、まだ半球しか稼働してないくらいだよ。主な土地は大陸と東西の島々の三ヶ所だけ。」


 アスターの背を撫ぜる手が止まり、シオンが身を乗り出してサルタに問う。


「三ヶ所だけ?それは知りませんでした。……今の問題は、費用対効果と平等の定義と手段ですか。山と吸収体は接していなくてもいいんですね?」


「いいや、有線だよ。」


「線が長いとロスはありますよね。」


「ロスはある。」


「改革の利点ひとつですね。――――ちなみに大陸の南から船で南下すると、どうなりますか?」


「……反対側にショートカットして、いつか大陸の北に出る。」


「四分の一じゃなくて半球なんですよね?縦割りではなく横割りで。」


「……そう。」


「つまり大陸の裏側半分に、少なくとも島のどちらかが食い込んでいるということですよね。では東の島から南に航海すると、島の北側に着く前にどこか土地にぶつかりますか?」


「……太田さんを信じてはいるけど、ここの所員としてアルバイトでもいいから契約し、守秘義務にサインしないと教えられない。」


「うーん現時点でそれはちょっと……。では東の島から西の島への最短航路はどちらの方角ですか?」


「……契約なしでは……最初の人類が航路を発見するまでは明かしたくないな。」




 シオンの提案も手詰まりになってしまった。そこでふとアスターは朝食の席でシオンに聞いたことを思い出した。


「――――では、バグ塊が吸収した魔力はどこにいきますか?」


「山でレコードを起動すれば山に集まる。」


 その魔力を活用する事は出来ないだろうか。折角シオンが悪いものを良いものに変えてくれたのだ。捨ててしまってはモッタイない。アスターがシオンを見詰めながらいい案がないか考えていると、シオンの目が輝いた。


「バグの人数は人口に比例しますか?」


「今回みたいな事故が起きなければ比例する。でもバグの魔力だけじゃ山の動力としては足りないよ。」


「――――ではロスをなくす為に、吸収体をこの山の表面とした場合に、内部に不具合が起きますか?」


「内部は平気。飛んで来る寒茶たちはちょっと大変かも。それもあって今までは地中からしか吸収してなかったけど、空気中からも吸収できる。」


「自動化出来れば寒茶さんたちの負担も減りますよね。以前お話したドアを繋げば、山から飛び立たなくてもよくなります。……ちなみに海水に面した吸収体は、どこの魔力を吸うことになるのですか?」


「海に面した土地から滲み出た魔力かな。海に拡散してロスはあるけど、生物からは吸わない。空と大地からだけだ。」


「滲み出る魔力量は、土地の外周つまり土地の広さに比例し、土地の広さは、概ね人口に比例し、バグ発生率に比例し、バグから吸収する魔力に比例し、山の恩恵を受ける人数に比例する。合ってます?」


「例外はあるけど、間違ってはないな。」


「大陸は、多く魔力を供給して、多く山の動力・人件費を使用するけど、税金たるバグ魔力を、山の力を使用した割合で払ってる。島は、少し供給し少し使用し、使用した割合で税金を払ってる。ただし島は分社に上納分の魔力を差し引く。これで平等の定義はいいのではないでしょうか?」


「うん。使う割合が払う割合と比例してるんだよね。でも今だってまあそうだよね?長い有線を無くす分は、海に拡散で帳消しだよ。それでどうやって海から吸収するの?費用対効果と手段を考えて。」



 そこで黙っていたカイが口を開いた。


「――――ハヌマ殿らが悪魔ぶるせいで東の島の民が、魔法が得意な種族としての魔族から、人を拐い非道を働く悪魔として差別排斥され、生きにくい思いをしておりまする。要らぬ苦労を掛けたと、本来しなくてもよい厄払いをして回るのならば、明らかにあなた方のせいで不利益を被っている者たちにも、慈悲をかけてはくださりませぬか。」


「うん、賢者カイロン。それはあなたの言うとおりだ。手間を惜しんだ我々の不手際だね。アスターに一つ。東の島の民にも一つ借りがあるな。だがレコードが上手くいっても蛇取りは続けねば追いつかないよ。バグ持ち誰もが音楽を奉納するわけじゃないし、五分程度加護を浴びただけじゃ、一度ですっきり厄が落ちる訳でもない。」




 ずっと考え込んでいたシオンが口を開いた。


「悪魔ぶりたい方々には、存分にぶってもらいましょうか。細かい台本は一緒に考えましょう……。人を拐う悪魔たちは討伐ではなく大陸から追い出します。山の跡地はエルフェンバイン王国が取り戻しましたが、固く痩せた土地は木々が生い茂るだけで、国防上三国とも山があった時と変わりません。山は何処へ行ったのでしょうか?なんと大陸中の人々が見守る中、東の国の更に沖合いに飛んで行きました。」


「いいね!その台本、スペクタクル大巨編だね。だけどどうやって山を飛ばすの?それに費用対効果の件が解決してないよ?幾ら茶番好きでも流されないからね!」


 サルタに詰め寄られたシオンは静かに立ち上がり、棚に置かれた一つの黒猫の面を手に取った。そして窓の絵に向かって行き、こちらに背を向け面を付け、振り向きざまにこう言った。


「体で払います!」







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こちらもお時間がありましたらよろしくお願いします。



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