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生贄の騎士と奪胎の巫女  作者: ゆめみ
第三章 魔の山
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廿六 遠大微小な悪の計画



「夫より授かりしもの?」


「そう、そのはらにあるものだ。」


「あ……」


「痛みはせぬ。失うのみだ。」


「……ま、まさか!私のお腹には彼の!?」


「そうだ。その胎よりいだしてわれの糧としてやろうぞ!」


「羽沼さん!」


「無駄だ。助けは我にこそある。さあ委ねよ。」


「ワカみたいに……弓で射て……アスクレピオスのように取り出すのですか?」


「まさに蛇使いのように!我こそが蛇を使って役立てる存在であるぞ!」


「――――――あの。」


「何だ。」


「……まだ続けます?」


「もう終わり?」


「……もうちょっと付き合った方がいいですか?」


「もうちょっとだけ。」


「……いや〜!やめて!そんなことさせないわ。」


「観念しろ。それこそが我が探し求めたる宝。決して無駄にはせぬ。さあ!渡すのだ!!」


「はいカット〜!!巫女姫殿、演技力が素晴らしかったです。何処で気付きました?」


「……生きるだけスキルは上がるものよ、羽沼さん。で、何処で気付くも何も冗談に決まってますよ、ねえ?……え?逆に冗談じゃない可能性もありましたか??」


 社にいて、あんな神様みたいな格好をした悪人なんていないと決め付けてましたけど……。


「まあ、はい。大神官も私もみんなまとめて悪で、提案というのが胎のものよこせ、だったらありえましたね。」


 羽沼さんに、いきなりはないから安心しろと言われていたので、私はすっかり安心していました。


「ありえたの……。危なかった!!」


「実際、提案はそれです。奪い取りはしませんが。――――ではそろそろ下の応接室に行きましょう。」


「あ、待って。僕も。」





 羽沼さんが二礼二拍手すると隠し扉が開き、くぐるとそこには転移陣がありました。羊面さんと禿鷹の寒茶さんも一緒に乗ります。寒茶さんだけは体も禿鷹ですが、鳥の足で上手に歩いています。……ちょっと縮んだ??


「Go down!」


 羽沼さんが言い、真っ白な光に包まれたかと思うと、浮遊感の後、暗闇になりました。「チン」という小さい鐘のような短い音がして、扉が開き光が溢れます。そこにあったのは、オフィスでした。






 「とりあえずこちらへ」と羽沼さんに奥の応接室まで案内してもらいます。私はソファの上座を勧められ、誕生日席に猿田彦様?が、狩衣を脱ぎ捨てスウェットになって座ると、私の向かいに羽沼さんも座りました。


 私が座ると羊さんが全員分(寒茶さん以外)のお茶を置き、持ってきたパイプ椅子に座りました。彼の身長は3メートル位ありそうですが、椅子の強度は充分のようです。


「寒茶はもう知ってるのかな?外せない用事があって、失礼させてもらってるよ。では改めて、僕は猿田です。先程は茶番に付き合ってくれてありがとう。羽沼も知ってる?じゃあもう一人。かれは小堀こほり。今はいないけど、あと下井っていうのもいるよ。ここは五人でやってます。」


「ご丁寧にどうも。シオン・ジャポネ・ヤマト。先程、婚姻届にサインしましたけれど、私の名前はそのままですね。前世は大田五十鈴です。よろしくお願いします。」


「大田さんか!いいね!親近感湧いちゃうよ。――――では本題に。さっきの茶番だけど、内容は嘘じゃないんだよ。どういう事かわかるかな?」


「……アスター様の厄災が、私に移動したということですか?」


「ご夫婦だからね。詳細は省くけど、アスターから大田さんのお腹に移動したんだ。」


「……そもそもなんですが、厄とは何ですか?」


「う〜ん、口外しないでね。ぶっちゃけていうとバグだよ。」


「バグってプログラムの?」


「あ、分かる人?僕も専門じゃないんだけどさ。さっきの、生きるだけスキルは上がるものってやつ、慧眼だね。今は僕、バグを取って解析してるんだ。取っても取っても無くならないけどね。」


「それでデバッグ山?それが真理?」


 黙っていた羽沼さんが頷きながら答えました。


「そうです。先程は驚きました。見抜かれていたのかと。……単に‘ル’が苦手だっただけだとは気付きませんでした。」


「むう。……それでバグを矢で射て取るのですか?」


「そう。ちょっと概念的な話になるけどね。うーん。合ってるか自信無いけど……。普段さ、ものを食べるよね?こっちじゃ成分とか栄養分とか気にせず食べても体になる。だけど僕らはそれがタンパク質でできてて、それがアミノ酸でできてて、それがOHNSの元素でできていると知ってる。元素は本当は中性子の個数によって原子ごとに分けられるけど、陽子の数が同じなら、包括して同じ元素にしちゃう。」


「はい……。何とか、分かります。」


「タンパク質を知らなくても食べられるけど、知ってるとより効率的に栄養摂取という目的が果たせる。水素を知らなくても筋肉は作れる。でも知っていると……究極的には、爆弾を作って沢山の筋肉を、消し飛ばすことだってできる。知ってるか知らないか。知っているとして、どのラインで包括するか、どのラベルを貼るかが本質に係る。」


「……はい。」



「ヤマトの人が自由に魔法が使えて、大陸の人がそうじゃないのもここが問題。よく言うドライヤー魔法だってそうだよね、余談だけどさ。だからって、大陸の人にヤマト流の使い方を、いきなり教えるのは危険だと思う。熱風っていう概念がないと、火で風を炙る、サーカスの火炎放射みたいになりかねないよね。」


「そうですね。」


「教わるんじゃなくて自分でイメージ出来なくちゃ、咄嗟の判断が命取りになるよ。やっぱりアニメのシーンとかですんなり、映像として思い浮かべられる強みが、君たちの前世の記憶だろうね。」


「無属性魔法もそうですか?」


「そうだね。アスターたちが色付きのボタンを押してゲームをしているのに対して、太田さんはコマンド入力でゲームしてる様な感じだね。ボタンを二つ一度に押せれば複合魔法は出せる。一方コマンドをスペルミスなしに入力出来るようになるのは大変だ。でも自由度は断然上だよね。」


「コマンドの入力方法が想像することなんですね。」



「そうだね。じゃ、閑話休題。――――魔法をタンパク質くらいまででラベリングしてるのが大田さんだとすると、僕は世界を元素まで細かく見られるってかんじかな。例えば人間は一人として見えるけど、目を切り替えると細胞の一つ、遺伝子情報のAGTCの一つ一つ、それを構成する元素の一つ一つまで見えるってこと。」


「顕微鏡みたいですね。」


「未知のものは視認出来ないんだけどね。貼るラベルを持っていないものは認識できない。――――で、逆にズームアウトすると世界にとって、人間は細胞の一つだ。存在としての情報だけでなく、細胞がどう動いたか。その行動としての情報も世界には存在する。南に一歩歩いたとか頭を掻いたとかね。」


「果てしないですね……。茶番をしたくなるお気持ちをお察します。」


「ありがとう。でもまだ続くよ。行動は一歩だけじゃないし、現在だけじゃない。過去の記録もあるよね。そして人は一人じゃない。世界には人だけじゃない。生物も無機物も、光や風にだって。全てのものに情報がある。それぞれ、見ようと思えば原子レベルにまでね。それがまあ、アニメ風に言うと……アカシックレコードっていうのかな。それに記録されていて、見る目があれば、何でも見えるんだ。」


「お茶、一口どうぞ。」


「ありがとう。――――美味い!……で、ね。無生物が移動するのは外的要因。生物が行動するのは本能とか意思とかだよね。脳も物体で、電気信号と内分泌によって制御されているわけだから、その流れは記録できる。もうちょっとズームアウトすると意思や気持ちとして記録できる。――――ところで大田さんは、天気予報ってどうやってするか知ってる?」


「過去の記録を元に、この雲の形ならこの場所で雨が降る、みたいな統計学ですか?」


「そう、話が早い!占いもそうだって言うよね。人の感情も行動もね、全ての外的要因まで含めると、統計学的に予測できるんだ。――――本来はね、世界はあるがままに!……でいいと思うんだけど、この世界はさ、神様同士の関係性も影響しててね。外的干渉が多いんだ。分かりやすい例で言うと、転移者・転生者が多いよね。」


「そうですね。特に日本人が多いですよね。」


「輪廻の概念がない人は来ないから。いくら神様付き合いの為でも、転生転移それ自体が馴染まない人は移動させないってことかな。」


「宗教観の問題でしょうかね。」


「うん。まあ転生転移の概念があるかどうかだね。日本人ばっかりに思えるかもしれないけど、他からも来てるよ。欧米人は見ため的に馴染んじゃって目立たないっていうのもあるかもしれないけどね。更に、色んな事情で色んな神々の交流も盛んだ。休暇だったりワーキングホリデーだったり禊だったりね。」


「神々……も、もしかして!猿田彦様、本物ですか??」


「の〜こめんと!僕は猿田だよ。……そういうわけで、大人の事情ならぬ神の事情で、この世界に本来と違う影響を与えてる罪悪感が上にもあるのかな。その対応の為に派遣されてきたのが僕って訳ですよ。わかるかな?」


「お話が壮大過ぎて、聞くので精一杯です。」


 シオンはお茶を飲みすぎたため、一度トイレに行くことにした。







プログラムも化学も専門外ですので、フィクションとしてふわっと捉えてください。

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こちらもお時間がありましたらよろしくお願いします。



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