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生贄の騎士と奪胎の巫女  作者: ゆめみ
第二章 大陸
18/42

18 王都入場と宴の始まり



「何故俺は拘束されたんだ?」


「拘束ではありません。保護です、隊長。」


「俺に保護は必要ない。開放してくれ。」


「大神官様より直々に保護命令が出ています。」


「……俺が転移されてからどれくらいの日数が経っているんだ?」


「凡そ一年です。」


「……一年間、門に元俺の隊が張っていた訳じゃないだろう?大神官様もずっと同じ国にいる訳がない。なぜ今俺は、ここで拘束されたんだ?」


「隊長は今でも隊長です。隊長がここを通るのが分かったのはご実家から近々帰ってくるとの連絡があったからです。()()ご実家がちゃんと連絡をくれたのは、大神官様が連絡があり次第至急伝える様にとご命令されたからです。」


「父は王都にいるのか?」


「ご家族三人と従兄弟殿もタウンハウスにご在宅です。」


「そうか……。手間をかけたな。すまなかった。大神殿に行くから解放してくれ。」


「行き先は王宮です。今は馬車待ちです。そこで一遍にお会いできますよ。……ところでご結婚されたんですよね?あの女嫌いの隊長が!異国の方だとか?今回は連れていらっしゃらなかったのですか?」


「……それも後で一遍に説明する。それより一年で何か変わった事は無かったか?」


「朗報です!王女様は隣国の王子とご結婚されました。助かりましたね。」


「ああ。……うちの家督はどうなった?」


「そのまま隊長が後継のままですよ。それも大神官様がストップをかけましたので。弟君に奪われずに済みましたね。」


「家督は弟に譲るつもりだ。隊は誰が率いている?」


「僭越ながら僕が代理として。」


「そうか、長らく代理をさせてすまなかったな。直、正式に隊長になるだろう。」


「――――あんたはそれでいいのかよ?」


「ふっ。やっといつもの調子が出てきたな、サバティエリ。……隊長職以外は元よりそのつもりだったからいいに決まっている。」


「王女と結婚して、家督を継いで、騎士団長にでもなれたんじゃないのかよ。」


「俺はお前の言うとおりの女嫌いだった。それに領地経営は弟の方が向いてる。騎士団長は……いつか成れたらよかったな。」


「なんだよ……。つまんねーの。……あ、馬車は最初からそこに止めてあるんで、そっちのドアからどうぞ。」





 アスターが対応している間、フードを被ったまま従者の振りで立っていたシオンとカイを伴い、王家の紋章が入った馬車に乗り込むと滑らかに動き出した。



 防音魔法を施すと、シオンが話し出した。


「やっぱり拘束されてしまいましたね。……それよりあの方!アスター様に構って欲しい系の自称ライバルですか?ずいぶんと可愛らしい方ですわね。」


「悪い奴じゃないんだ。……二人とも巻き込んですまない。手紙はもっと後に出せば良かった。」


「いいんですよ、夫婦ですから。でもカイも王宮行きですか。……念の為全員、旅の汚れを浄化します。ところで王宮では魔法は使えますか?」


「謁見の間では使えない。基本的には余り使わない方がいいと思う。」


「私は猶予があれば正装して、もしものパターン2で行きます。カイは、服はまあいいとして……実はこの国で指名手配されてるとかじゃないですか?ここまで来たら隠しっこなしですよ。」


「……王は知り合いだ。」


「わービックリ!……以上ですか?」


「お前、ばあちゃんの髪飾りを持って来てるか?あれを必ず付けろ。」


「……了解です。以上ですか?」


「……俺が何を話しても狼狽えないでくれ。王宮には来るつもりじゃなかったんだ。」


 シオンはカイの手を両手で握り、カイに視線を合わせるようにして言った。


「了解です!もう無いですね。……カイ、付いて来てくれて感謝しています。あなたがいなければここまで来られなかったでしょう。私たちの事はいいですから、あなたが生きやすいように振る舞ってください。魔族を連行したと、突き出してくれても構いません。」


「そんなことする訳ねーだろ!娘を売る親がどこにいる!?……悪い様にはしないから、まずはアスター、お前が上手いことやれ。無理そうなら俺が出る。向こうがエサに食いついたらシオンが転がしてやれ!」


「Yes,sir.」

「了解した!」




 そこで時間切れになった。王宮に着いたのだ。馬車を降りて中に入ろうとすると、シオンとカイが止められた。頭から足まですっぽりローブで覆われているのだから警備の者としては止めて当然だ。


「二人は私の連れです。身なりを整える間も与えられず連行されたのだ。咎めるのならば一度帰宅し出直したい。」


「いえ、直ぐにお連れする様に言われていますので。……せめてローブを脱いではもらえませんか?」


「二人は他国の者だ。このような所で顔を晒す習慣はない。何度も言うが咎めるならば帰宅する。それに身支度を整える時間と場所もお借りしたい。」


「それはご準備してあります。こちらへどうぞ。」




 何とか乗り切り客間へ案内される。侍女や侍従が湯浴みや着替えを手伝おうとするので、他国の者は他人に肌を晒す習慣がないと言って追い払った。



 先程シオンに三人一遍に浄化をかけてもらったので、荷物まで綺麗になってしまった。シオンは寝室で、アスターたちは居間で着替える。カイは緑の長衣だが、またローブを着込んだので代わり映えがしない。アスターは一年振りに騎士服に身を包む。まだ除籍になっていなかったとは驚きだった。



 アスターたちが自分たちで入れた茶を飲んで一息ついたところで寝室のドアが開き、現れたシオンを見て息を呑んだ。



 以前に見た巫女装束と違い、ハカマが濃い紫だった。それに白いコソデの上から薄い紫のキモノを何枚か羽織っている。ここでの、パートナーの髪の色のドレスを着る習慣を知ってくれているのだろうか。普段は少年のような装いのシオンが、化粧もしていた。そして普段は括られている髪が解かれ、背に流れている。カールのかかった豊かな黒髪はそのままに、前髪だけ膨らませて銀の髪飾りで止めてある。手には豪華な絵の書いてある木でできたオウギと、そこから垂れる色んな色の紐がある。


「色々とイレギュラーだけれど、まあ仕方がありません!旅先なので略装で申し訳ないって言ってくださいね。あ、私は顔を隠して喋らないので宜しくお願いします!そのクダリの説明は覚えていらっしゃいます?」


「ああ、問題ない。」


「土足の床に裾を引きずるのは嫌だけど……状態保存を掛けてあるからまあいいってことにしましょう。カイは杖どうする?」


「もらおうか。」


 異空間バックから容量以上の物が出てくるのは、何度見ても驚く。




 三人で色々と打ち合わせをしていると、ついに戸が叩かれた。荷物を纏めてシオンのバックに入れ、他人が開けられないようにした。シオンは、広げたオオギと髪とで出来るだけ顔を隠す。カイはまたフードを深く被った。アスターは去年より短くなった髪を整える。


「入れ。」


 入って来た侍従と侍女は、シオンを見て、よく躾けられた城の使用人としてはあり得ない顔をした。アスターと従僕二人とでも思っていたのだろう。見慣れぬ、しかも黒髪の、しかし明らかに高貴な女性が居たのだから。


「時間か?」


「はい……あの、そちらの方々は?」


「妻だ。ヤマト国の重鎮の令嬢を頂いた。そちらは妻の親代わり、偉大な魔術師だ。」


「そ、そうですか。ご案内致します。」



 こんな時、義父上ならこう言うだろう。「鬼が出るか蛇が出るか」


 義母上ならきっとこう言う。「千載一遇のチャンス!」


 リンドウならこう言うに違いない。「さあ、パーティの始まりだ!」









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こちらもお時間がありましたらよろしくお願いします。



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