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生贄の騎士と奪胎の巫女  作者: ゆめみ
第二章 大陸
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17 嫉妬心・独占欲、代償は……魂?



 翌朝、出発の時。四人はそれぞれに宿代を払った。ワカと合流した際にそう決めたのだ。荷物も三人混ざっていたのを分けてあった。そこで思い出したかのようにワカがアスターに、討伐の分け前を払った。配分は決めていない。そもそも報酬として幾らギルドから支払われているのかも知らないのだ。



 そこからは大きい町、小さい町、村と点々と宿泊しながら先に進んだ。サルは出たり出なかったりだが、飛ぶのは必ず夜だった。今の所禿鷹は来ていない。


 何日かすると、パタンが読めてきた。冒険者ギルドに寄るとその夜にはサルが出るのだ。その事に気付いた時から、アスターはシオンから離れなくなった。カイもシオンもそれを咎めなかったが、ワカは不満げだった。


 シオンを守ることしか考えていないと、既に告げて了承を得てあるのだから問題ないはずだ。そうアスターが言うと、ワカは更に不満げにした。


 サルが出ることが分かっても、ワカの金銭的な理由からギルド通いを止めることはできない。旅費をこちらで持つことは出来なくもないが、これ以上の依存を許してはいけないような気がする。この8年の女難で得た経験則だった。




 そうするうちに、冒険者ギルドへ寄ったのにサルが現れない夜があった。その日のことをよく検討したところ、ギルドで報酬を受け取った後、雑草に紛れて咲く薬草をワカが詰んだことが分かった。それはいつか見つけた時の為にと受注しておいたもので、乾燥させてからの方が引き取り価格に上乗せがあるので、納品せずにそのまま宿に戻った為だった。


「つまり未精算のクエストがあるとサルがこないということかの。討伐や採取はその時点でカードにカウントされるが、精算する迄は情報に差異が出る、為か……のう?」


 さすがのカイも事態を把握しきれてはいないようだ。


「う〜ん。パスモで地元の改札を通って、駅ナカで買い物したりご飯食べたりして帰って来たら改札から出られない。一度精算が必要……みたいな?」


 ワカのよくわからない話に、シオンがこれまたわからない話を続ける。


「採取してからの時間でも計測してるのでしょうかね?前回のギルド精算、討伐、精算、採取……。ナビみたいに到着予定時刻が予測されていた……とか?でも分かれ道でどの方向に進むかなんてGPSでもない限り……。尾行?」


「仕組みは分からぬが、ワカの牢屋にサルが来た時と、ワカと会う前にアスターが見張りの時に来たのを除き、いずれもワカを目指してサルが来とったということじゃの。……いや、ワカのギルドカードを目印に、サルが飛んで来とったということになるのかのう。」


「ギルドカードって、現在地測定機能があるんですか?あるとしても何故猿がそれを利用できるのでしょう?」


「うむ……。そのようなギルドカードの機能は、聞いたこともないが……。あまり探ると深淵を覗くことになるやもしれぬ。」


「……藪蛇になると?」


「そうじゃ。現状その薬草を納品しなければ、サルに追われずに済むのであれば、それに越したことはない。」





 サルが来なくなってもアスターはシオンから離れなかった。王都のすぐそばまで来たからだ。今のアスターは騎士服を荷物にしまい、ワフクに防具を着けて冒険者風の服装をしている。紫の髪は貴族には珍しくはないがそれ程多くもない。だが190センチ以上の身長の者もそれ程多くない。二つの条件を合わせると、ほぼ特定されてしまうだろう。短く切った髪も少し伸びてきた。


 猿の懸念ではない、王宮の人間に対しての懸念についてはワカには話していない。そのせいだろう。ついに癇癪を起こした。



「どうしてまだアスターさんがシオンさんを独占してるの?私、気付いてましたよ。私が猿を呼んでるんじゃないかって疑ってたでしょ?でもわざとじゃないしもう解決しましたよね?そろそろシオンさんを返して下さいよ。」


 この女は何を言っているのだろう。シオンは俺の物に決まってる。アスターの怒りを感じたのか、シオンが先に口を開く。


「私はアスター様のものです。」


「どうして私を仲間に入れてくれないの?いつもこそこそ三人で相談して。二人の分のお金も、結局シオンさんが出してるんでしょ?一緒にヤマトまで行くって約束したよね?私ちゃんとお金も払ってるし、薬草売るのも我慢してるよ?いつになったら仲間にしてくれるの?」


「シオンとアスターは夫婦じゃ。わしは契約で同行しているに過ぎぬ。じゃからわしの旅費は二人が払う。お主が自分の分を払うのは当たり前だ。お主は家族じゃないし、契約もしていない。二人の好意で同行させてもらっているだけじゃというのがなぜわからん。」


「だって一緒に行くって仲間にするってことでしょ?カイさんとのこと言っても、二人ともベッタリのままだし。……じゃあどうしたら私も家族になれるの?」


 子供のようにわめき出したワカに、シオンがあの淑女の微笑みで詰め寄った。


「あなたとは家族にはなれません。友人や旅の同行者にはなれても、家族にはなれません。それがご希望でしたら一緒にヤマト国に行っても叶えられません。日本人同士だからと言って、いつもの通りに契約しなかったことが失敗でした。聞いたことありませんか?東の島の民との契約は決して破ってはならないと。今からきっちりルールを決めて、私と契約しますか?」


「え?悪魔の契約のこと?悪魔とか魔族って誤解じゃないの??」


「契約の件は誤解じゃありません。ヤマトの商人が大陸の商人に足元見られるので、瑕疵担保責任や追奪担保責任など小難しい契約書をきっちり交わして権利を守っているんですよ。もちろんそれは商人だけじゃありません。アスター様は我が父と、私を大切にする契約を交わしました。ですからあなたがヤキモチを焼かせるようなことを言っても、粗雑に扱う訳がないのです。」


「そんな契約……愛じゃないじゃん。」


「よその夫婦の仲違いを促すような人に言われたくありません。愛は愛。契約は安心です。それに前世の結婚だって契約ですよ。不貞をはたらけば慰謝料が請求されます。同じ事でしょう?請求が現金でないという違いだけです。」


「現金じゃない?……悪魔の契約……魂?」


「魂を取る魔法はまだ未習得ですが、反した契約の種類によっては命を頂く事もあるでしょうね。」


「命……」


「はあ〜。一番怒らせたらいけない者を怒らせたな、ワカよ。お主は次の町で、旅費でも稼ぎながら一人で待っとれ。王都の前で一番大きい町じゃ。毎日冒険者ギルドに顔を出して伝言を待て。わしらが王都から帰る時には必ず顔を出すが、三日待っても連絡が付かなければお主は置いていく。自力でヤマトへ来ようと大陸で生きようと干渉はせぬ。よいな。これは決定じゃ。」


「はい……。」


 そして次の町に入った所でワカとは分かれた。





「あれでよかったかの?せっかくシオンとニホンの話ができる相手を追い払ってしまったが。」


「良いのですよ。私に付け入るためにアスター様と仲違いさせようとするなんて絶対に許しません。ましてや親友をダシに使うなんて!」


「お、お〜う、心の友よ、じゃな。」


「……ちなみに、二人は結婚しようと思ったことはないのか?」


 ここぞとばかりにアスターはずっと聞きたかった質問を二人にする。


「アスター様……。弟や兄と結婚できますか?オムツとか……散々生き恥を晒した相手に愛を囁けますか?」


「種族とか関係なしに妹というより娘に近いかのう。とても無理じゃな。家族にはなれても夫婦にはなれん。」


「そうか!」


「……何を頬を染めとるんじゃ。今日から一部屋なんじゃから我慢せいよ。」


「も、もちろん。」


「それに、カイは……そろそろ王宮の人間に拘束される可能性も考えて、ワカを逃してくれたのでしょう?」


「まあ、あれに王宮は無理じゃからな。作法のさの字もなっとらん。」


「……必ず全員が拘束されると決まった訳ではありません。俺が王都の実家に行き、父親に会えればそれで終わりです。」


「まあ用心に越したことはありませんしね。」







 サルが来ることもなく、その町で一晩を過ごして、三人で王都に入った。そして王都の大門を入った所で即、三人とも拘束された。









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こちらもお時間がありましたらよろしくお願いします。



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