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生贄の騎士と奪胎の巫女  作者: ゆめみ
第二章 大陸
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14 大神官はアクマ神官?



 その日はそのままそこで野営する事になった。シオンとワカがそうしたいと言ったのだ。シオンの泣きっぷりを見たアスターもそれがいいと賛成した。



 冒険者の娘、ワカの話には驚いた。デヴァルグ山は三国の間にある山だ。彼女を酷い目に合わせたのは第三国の騎士だと聞いて安堵したが……アスターが消えた後の自分の隊はどうなったのだろうか。


 それに、ワカが見たという、手乗りザルのように羽が生えて飛んでいたというもの。またザルだ。先日のあれと同じものだろうか。だとすると次には禿鷹が現れてアスターをデヴァルグ山に連れて行くのだろうか。


 アスターもワカの、信じられない程何もかも上手く行かない話には、身に覚えがあった。騎士団に入って家を出てからのことだと思っていたが、成人が境だったのかもしれない。


 アスターの魔力は普通に一属性、火だ。普通じゃないのは急に伸びだした身長。不意に伸ばし始めた髪。それと疫病神の如き人間関係の悪さだった。アスターの周りの人間は互いに歪み合う。アスターに対しても普通ではない対応をしてくる人間が多かった。


 求めていないのに数人の女が異常な押しで寄ってくる。でかいだけで麗しくもない、大して地位も高くないし、気の利いたところもないアスターに。ヤマト国と違って紫は特別でもない。初めはからかわれているのだと思った。しかし笑い事では済まない、女性同士の取っ組み合いの喧嘩にも発展してしまった。


 相談しようにも両親は摑まらない。実家に住んでいた時には円満な家庭だと思っていた我が家は、夫婦仲が壊れ、弟と従兄弟には疎まれて敵視されていた。使用人も古参のものがどんどん辞めていった。


 仕事に勤しもうにも同僚には体格を羨まれ、上からは貴族の身分を妬まれ、隊長職に就いたのもさほど年若の頃ではないが、不相応だと蔑まれた。


 これらが自分にだけ向けられた事ならばアスターも不徳の致すところだと考えただろう。初めはむしろそう思っていた。だがそうではなく……周りの人間が不幸になったり、悪人になったり、不相応に金銭を得て身を持ち崩したり、とにかくおかしくなっていくのに気付いたのだ。


 自分は災いを齎すものだ。そのことに気が付いたら居ても立ってもいられなくなり、丁度我が国に巡礼に来ていた大神官様の警護中、思い余ってもらしてしまった。「お側に寄るには相応しくありません」と。すると大神官様は相談の時間を取って下さったのだ。



 大神官様は名前をベリス・ペレンニス様といった。そしてアスターの話を聞いてこんな話をしてくれた。



「いにしえの知識人の言うことには、“厄”というものがあるのです。これは良くない巡り合わせの事であり、君が災いを齎している訳ではありません。まして君のせいでもありません。


……ただ、そうですね。良くない流れの中心に君がいるのかもしれませんね。だから影響もするし影響も受ける。君のことは今、私がしかと聞きましたので、主神様にご報告しましょう。


その機会がない者も、真摯に祈れば伝わります。しかし遍く照らす鳥神の夫婦神は日夜お忙しい。御使いとして羽を持つ、別のものが訴えを聞きに訪れることもある様です。その際はその御使いに訴えればよいのです。必ずや憂いが晴れることでしょう。


君の周りに厄に悩む者がいれば、今の話をしてあげなさい。訴えは身近な神官にでも構いませんが、真摯な程声大きく伝わるでしょう。」


 その数日後、アスターは生贄として召喚されてしまったのだった。しかし、その後良くない巡り合わせは起きていない様だ。ヤマトの人々の心ばえが素晴らしかったのか、転移により厄が剥がれたのか……。理由は分からないが、特にその後真摯に祈った記憶はない。


 ……というかアスターは主神様に対面したのではなかったか。あの光の中にいらしたのがそうであったのでは?では御自ら厄を払って下さったのかもしれない。


 だとするとあの日飛んできたザル。あれがきっと大神官様が仰る御使いに違いないが。……ワカの言うテンシも天の御使い、天使ということなのかもしれない。――――では何の為に?厄の無くなったはずのアスターの所に、何の為にザルは現れたのか?





 夜になり、大神官様のお話とあの日見たザルの話、ワカの時のように禿鷹が現れる懸念を皆に話した。三人ともしばらく考え込んでいたが、始めにシオンが口を開いた。


「その大神官様の言う、いにしえの知識人は日本出身者ですよね。厄を払いたければ沢山お布施をしろ、と言っている様にも聞こえますが……。」


 ワカも頷きながらも首を傾げて顎に手をやる。


「私みたいな経験をした人間から話を聞いて知ってるのかもですけど、普通神官が神の御使いって言ったら天使ですよね?この世界の神様が鳥だっていうならまんま鳥とかなら分かるけど。……それが何で猿?しかも禿鷹に岩山に連れて行かれて獣頭に矢で射られるなんて、天使って言うより悪魔ですよね。」


「何故猿か。悪魔……猿の手?イギリスの……」


 シオンが考え込み、ワカが何かに気付く。


「……悪魔の手先?悪魔神官……いや、大神官だから。ハ!ぐっお!んん……アスターさん!その大神官は赤い石の付いた杖を持っていませんでしたか?」


「木の杖は持っていた。石は付いていたかどうか……。赤といえば、赤いマントを付けておられたと思う。」


 カイも渋い顔をしながら続ける。


「ワカが見た禿鷹や獣頭が最近言われる魔獣や魔物なのかもしれない。ヤマトの民に風評被害を齎した張本人たちかもしれないぞ。」


 あの善良そうな大神官様がお布施のためにあの様な話をしたのだろうか。確かに他の者にも伝える様にとは言われはしたが……。大神官様もしくは身近な神官に声大きく訴えれば、主神様、は忙しいので主には御使いが憂いを晴らす。御使いは悪魔で魔獣や魔物を呼ぶ。つまり神殿の神官は悪魔の手先だったということか?


「神殿の神官が悪魔の手先であれば、時間を越えたかどうかの確認に大神官様の名前を出すのは止め、国王の名前だけの確認にした方がいいでしょうか。」


 悪魔の宣伝活動に加担しそうになった自分に、忸怩たる思いを抱えながらアスターがカイに問う。


「アスター、気にするな。まだ何も分かって居らぬのだ。そのベリス・ペレンニスとやらも本当に主神に仕えているのやもしれぬぞ。……して、国王の名はなんというのじゃ?」


「デンドランセマ・グランディフローラム・クリサンセマム様です。」


「……やはり。長い名前じゃのう。」




 アスターとカイのやり取りを見ていたワカがシオンに言った。


「戦闘民族が、ショタエルフに窘められるの図……良い。」


「髪切ってもあのお方に見えるの??緑じゃないよ?小顔で首太だからかな?ていうかあのお方、戦闘民族だったっけ?」


「シオンさんは湯屋ごっこですか?」


「ごっこ違う!ヤマト国は基本和服なのよ。まあ、これは男装だけどね。」


「なんと!戦闘民族✕湯屋男子!そこはポニテじゃなくておかっぱでしょう。あ……刀あるし湯屋じゃなくて、佐々木小次郎ですか?いや……牛若丸!弁慶と牛若丸だ!うわ〜まんま。いい!見ていたい!ずっとお供します〜お連れください!」


「貴様……腐女子か。」


「テヘペロ!」




「あやつらは楽しそうじゃの。」


「そうですね……。話の内容が分かりますか?」


「あの分野は未研究じゃ。ニホン文化は奥が深い。」




 その時、和やかな空気に緊張が走った。空に幾影かが視認されたのだ。あれは恐らく御使いこと悪魔の眷属であろう。










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こちらもお時間がありましたらよろしくお願いします。



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