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卒業パーティーを途中退席してアオライト王太子殿下に連れて行かれたのは王族の住まいの一角にある彼の執務室だった。


「それでルナ…これはどういうことかな?」


「うっ、それは…」


テーブルには国外追放された後に逃亡しようと思っていた店舗兼住まいの図面が広げられていた。


「あはっ、紅茶のおいしいお店を開くのが夢だったんです~。なんちゃって…」


繰り返しになるがアドリブには慣れていない…。

数多の女性を虜にしてきたステキな笑顔で微笑む王子様の目の奥は全然笑ってない。


「あの…ラド様は…」


「あれはセレナルド城に生涯幽閉としたよ。」


「えっ…?!」


彼の側近であるラド・スチュアート卿は攻略対象の一人だ。アオライト殿下が金髪碧眼の正当派王子様なら彼は黒髪紫目のクールな頭脳派宰相候補といったところだろうか。


「ご、ご冗談を…。」


この図面の住まいにしろ追放された後の逃亡の手はずはだいぶ彼を頼らせてもらった。


「冗談だと思うかい? まさか国外逃亡して彼とそこで暮らすつもりだったのかな?」


まだ消えない笑みを湛えたまま恐ろしいくらい静かな声で王子は言った。


(何これ…ゲームでこんなシナリオ知らない…。ていうかアオライト王子ってフェミニストで優しくて紳士的なキャラクターだったはずなのに…。笑顔が超怖いんですけど。)


「な、何をおっしゃているのやら…あの…決してラド様は…んっ」


乱暴に右手で頬ごと顔を掬い上げられて長い親指が唇を塞いだ。


「君の口から他の男の名など聞きたくないな。」


そのまま唇を(なぶ)りながらそれはそれは端麗なお顔がゆっくりと近づいてくる。


(こ、怖い…嫌だ……!!)


「…。」


「………?」


恐怖で動かない身体に目をぎゅっと閉じてしばらく固まっていると…


「…ルナ…僕のこともちゃんと見てくれ。」


「え?」


その容姿に似合わない呻くような低い声に驚いて目を開ける。

吐息がかかるほど近づいた切なげな美しい青碧の瞳に何故だか胸がキリリと痛んだ。


「あ、あの…」


王子はふっと顔を背けるとまたいつもの甘いマスクに戻った。


(い、今のは一体…)


しばらく続いた気まずい沈黙に耐えられす思わず口を開く。


「あの、殿下…私はこれからどうなるのでしょうか?」


逃亡計画もバレていたようだし、国外追放どころかもっと酷い仕打ちが待っていたらどうしよう…。


「二週間後には式を執り行う。」


今度は何の感情もないような冷たい声で王子は言った。


「式…な…何の儀式ですか?」


まさか見せしめの拷問とか…


「結婚式に決まっているだろう?」


「は?!!」


「『は?!!』じゃないよ…おかしなルナ。僕たちは既に婚約しているんだ。そんなに驚くことではないだろう? 予定が少し早まっただけだ。」


こちらの混乱は無視するかのように王子は淡々とした口調で話す。


「ですが…」


(メインヒーローのアオライト王子と悪役令嬢のファルーナが結ばれるなんてシナリオエンドは見たことも聞いたこともない…)


「…ラドはダメだよ。」


「え?」


「…いっそ彼をこの世から消したら君は諦めて私を受け入れてくれるだろうか…」


大天使と見紛う美青年の瞳に狂気の色が滲み始める。


「ま、待って下さい。何か誤解をされているようですが私達は別に…っ」


―――――――!!


次の瞬間…強く引き寄せられて気付いたら目の前が真っ暗になって柔らかいものが唇に触れた。


「なっ…なにすっ」


慌てて顔を背けて閉じ込められた腕の中から逃れようと見た目より厚い胸板を押し返す。


「私たち(・・)ね。まぁいい…ルナ…今日から君はここで暮らすんだ。既に屋敷から荷物も運ばせてある。」


「なっ…」


「驚いた顔も可愛いな。」


ちゅっと音を立ててもう一度軽く頬にキスをすると王子は名残惜しそうに腰に絡めていた手を離した。


「今日は疲れただろうからゆっくり休むといい。ではよろしく頼む。」


王子がドアの入り口に控えていた一人のメイドに視線を移す。


「ニーナっ!」


「畏まりました。」


彼女はファルーナ専属の侍女であると同時に親友でもあり逃亡先の住まいで一緒に暮らしていこうと約束していたのだ。一足先に現地に向かい始めているはずだったのだが…


ますます青ざめるファルーナと相変わらず黒く微笑むアオライト王子にニーナはわずかばかりの同情のため息をついた。


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