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襲来

「さて、今日も頑張りますか!」

 私はいつものエプロンを付けるとシェアハウスの工房へと向かった。王都に到着してからクラウスさん達全員は騎士隊舎へと帰って行き、今はこの広い家でたった一人で暮らしている。とは言え、ロジーもスノーもいるし別館には賑やかな子供たちも暮らしているので、寂しさはほとんど無い。

 それに、毎日のように私の様子を見に代わる代わる皆が来てくれるからね。


 子供達の事に関しては、直ぐには動けないから暫く待っていて欲しいと説明を受けたので、子供たちと共にハーブのお世話をしながらその時を待った。

 それでも、フェルンバッハ隊長は必ず約束は守るからドンと構えて待っておけ、と頼もしい言葉を残してくれた。

 そしてその言葉通り、二日後には第一騎士隊と特務部隊との合同捜索チームが立ち上げられ、子供達が攫われてきた村の捜索が始まった。

 どうか無事に見つかりますように、そう祈って彼らの出発を見送ったのだった。


 王都での生活で私達は一つ決めたことがあった。それは、自分達の食い扶持は自分達で稼ぐ事。

 ルーナ達小さな子供達も一緒になってハーブの収穫をし、それを私とジャンクとリリアナ、ロジー、スノーで加工をし販売するのだ。

 何だかこうして皆で工房にいると、バースの村を思い出す。みんな今日も元気に工房にいるんだろうな。元気なみんなの姿が目に浮かび、寂しさよりも逆に元気を貰える。

 

 そして、今日は数日間作り続けた商品を販売する日だ。ブローディアで大人気となった【ハーバルアロマ ミュゼ】の評判はここ王都まで届いており、わざわざ遠いブローディアへ商品を仕入れに行く商人がいるほど有名になっていた。

 おかげで販売前から噂が広がり、開店をまだかまだかと待つ人が増え続けた。

 お店は商業街の一角を有料でお借りすることにした。お店の外に【ハーバルアロマ ミュゼ】の看板を出せば、いつかの露店を思い出す。この看板は、ジェフが作ってくれたものをそのまま貰い受けた物だ。


「魔女様、こっち準備出来ました」

 リリアナが長い耳をピクピクと動かしながらニッコリと微笑む。

「うん。良いわね!」

「こっちも準備OKだぜ!」

 ジャンクも人化し、準備万端のようだ。

「二人とも準備はいい?」

 そう声をかければ、大きく頷いて返事をくれた。


「さぁ、【ハーバルアロマ ミュゼ】開店よ!」

 開店の為に扉を開ければ、長い行列が続いていた。

「皆様、お待たせ致したした。これより開店です、どうぞごゆっくりご覧になってください」

 そう声をかけ、すぐに店内へと戻った。

 

「これがあの有名な魔女様のハーブティーなのね!」

 ご婦人はカウンターの後ろの棚に並べられた大きなガラス瓶を見て、目を輝かせている。

「ようこそミュゼへ。本日はハーブティーをお求めですか?」

「ええ! ずっと評判だったハーブティーを飲んでみたかったのよ〜」

「ありがとうございます。どのようなハーブティーがよろしいでしょうか?」

「噂に聞いたんだけどね、お肌にとってもいいハーブティーがあるらしいじゃない?」

「それでしたらローズヒップブレンドですね。とてもお肌にいいハーブティーなんですよ。こちらのハーブティーはローズヒップの他にハイビスカスと言うお花も入っていて、見た目も鮮やかな赤いティーとなっております」

 私がそう説明すると、そのご婦人は喜んで購入してくれた。

「入れ方や注意点を書いた説明書きも入れておくのでよく読んで下さいね。それと、こちら購入された方にお配りしていますミニブーケです。よろしかったらどうぞ」

 そしていつも通り、購入者への感謝のミニブーケを手渡すのを忘れない。

 ご婦人はミニブーケを受け取ると「見たことない花だけどとっても綺麗ね。ありがとう」と言って帰って行った。


 お客様は途切れることなくどんどんとやってくる。五人で接客しているが、外の列が途切れるまでかなりの時間がかかりそうだ。

 それから……

「ここに恋のおまじないの練り香水が置いてあるって噂で聞いたんですけど、ありますか?」

「どんな手荒れにも効く魔法の塗り薬があると聞いたのだけれど」

「塗れば美しい髪が手に入る魔法のヘアオイルがあると聞いたわ」

「私は甘味が欲しいわ! 何でもすっごく安く甘味が買えるって噂よね?」

 と、次から次へとお客様がやってきて、どんどんと商品が売れていった。


 そして昼過ぎ……ほとんどの商品は完売してしまった。

「申し訳ございません。本日はどの商品も完売でございます。また次週、お店を開きますので次の来店をお待ちしております」

 外に並んでいたお客様へそう告げれば、残念そうに帰って行かれた。

 お店を閉め、中の片付けをする前に皆で休憩を取る。テーブルにはフワフワの紅茶のシフォンケーキとミントティーを用意した。シフォンケーキにはココミルクで作ったクリームがたっぷりと乗っている。

「みんなお疲れ様〜、特にジャンクとリリアナは慣れない事で大変だったでしょう? よく頑張ってくれたわ〜。さぁ、休憩しましょう」

 五人でテーブルに付き、ちょっと一息。


「思った以上に繁盛したわね。全然人手が足りなかったわ」

 一日持つだろうと予測していた商品はあっという間に売り切れ、お店はガランとしている。

「人の噂って凄いんだね、まだまだ並んでる人いたもんなー」

 ロジーもあまりの勢いの良さに驚いている。

「ブローディアにいた頃も繁盛していたそうですもんね。私、魔女様のお手伝いができて楽しかったです」

「俺はあんなに沢山の人間見たの初めてだから緊張した」

「うんうん。二人ともありがとうね! 暫くはまた工房にこもることになりそうだけど、次もお手伝いお願いね」


 慌ただしい販売を終え、店を片付けて鍵を返却すれば、あとは帰るだけ。ついでだから、リリアナとジャンクを連れ日用品の買い出しをしながら家に戻った。

「ただいま〜」

 三人で箱庭に戻れば「魔女様お帰り〜!」とルーナが迎えてくれた。ルーナはその小さい体にシリーをおんぶして箱庭内をお散歩していたところだった。

 それから買い出しをした日用品を次々にアイテムボックスから取り出し、リリアナとジャンクに手伝ってもらいながら補充をしていく。


「二人ともありがとうね。今日はもうゆっくり休んで? 疲れたでしょ?」

 そう言って二人を労っていると、ルーナがシリーをおんぶしたままダイニングへと入ってきた。

「魔女さま〜、お客様ですよ。今日はいつもの騎士様じゃなくて知らない人っぽいんだけど……」

 ルーナは耳がいいので、いつもクラウスさん達が来る前に私に教えに来てくれるのだ。

「知らない人?」

「うん。足音がね、違うの」

 誰かしら? ここに来れるって事は騎士関係の方かしら? もしかして子供達の帰る場所が見つかったのかしら? そんな事を考えていると、カランカランとドアの呼び鈴が鳴った。


「はぁ〜い。今、行きます」

 リリアナとジャンクをダイニングに残してエントランスへ向かい、扉を開くとそこには見た事の無い身なりの良さそうな男性が立っていた。

「こんにちは」

 男性はそう言ってにこやかに挨拶をしてきた。

「えっと……こんにちは? 失礼ですが、どなた様でしょうか?」

 私は目の前の男性をじっと見てみたが、やはり見覚えがなかった。


「この度は御招待ありがとう。いつでも来ていいよと聞いたから来てみたんだ。はじめまして、女神」

 ……はじめはこの人が何を言っているのか分からなかった。が、一瞬にしてこの男性が誰なのかが頭に浮かんでしまった。私を女神と呼び、私に招待されたと言うこの男性を。


「お、お、」

「お?」

「王太子殿下!!」

「そう! この度は招待してくれてありがとう! やっと君に会うことが出来て嬉しいよ! 」

「あ、え? な、何で!?」

「何でって、君がいつでも来ていいよってクラウスに言付けただろう? だから来てみたんだよ」

「で、でも! なぜお一人なんですか? クラウスさんは!? ディランさんは!?」

 ま、まさか……

「もしかして、誰にも何も言わずにここに来たとか……」

「当たりー! いや〜女神は察しが良くて助かるよ〜。あ、どうせすぐ俺がいないことが分かれば二人はここに来るだろうから、それまで君の庭でお茶会なんてどうかな? ここの庭は凄いね! ディランに聞いていたけど王城の花園より立派だよ」


 待て待て待て〜い! 何この状況? 目の前にはこの国の次期国王、王太子殿下ですって? いやいや、驚いてる場合じゃないわ、落ち着け私! さっき殿下が言っていた通り、二人ならきっとすぐ気が付いてここまで飛んできてくれるだろう。うん、大丈夫。いつも通り、いつも通り……よしっ!

「よ、ようこそいらっしゃいました。それではお二人が殿下をお迎えに上がるまで、私自慢のローズガーデンでお茶会と致しましょう」

 

 私の異変に気づき、その耳を立て一部始終を聞いていたリリアナが、ティーセットを持って私の元へやってきた。

「魔女様、先にテーブルセットしておきますね」

 リリアナはそう言って、ローズガーデンへと向かっていった。……なんて気の利く子なの!! ありがとうリリアナ!!


「へぇ、可愛らしい亜人だね。友人かい?」

「ええ。殿下もご存知だと思いますが、私がここへ来る途中に奴隷狩りから救出した子の一人です」

「そっか、それじゃああの小さい子をおんぶした狼の亜人の子も?」

「ええ。あの子たちの帰る場所が見つかるまでは私が責任をもって面倒を見ると決めていますので。さぁ、ではこちらへどうぞ、ご案内致します」


 私は殿下をローズガーデンへ案内しながら、一人悶々と脳内で呟いた。

 言葉遣いは大丈夫かしら? 王族との話し方なんて分かんないわよ〜。あぁ、早く来てクラウスさん!


「どうぞお入りください」

 私は殿下をローズガーデンの中央に位置する東屋へ案内すると、殿下に対して正式にご挨拶をした。

「改めましてご挨拶申し上げます。魔女、リリーです。この度は私の事情を汲んで頂き、このような土地まで準備頂きありがとうございました。おかげさまで私も子供達も健やかに過ごすことが出来ています」

 挨拶とともに深いカーテシーを殿下に向けた。

「うん。君たちは俺の客人だからね。不自由なく過ごすことが出来ていれば、俺も嬉しいよ。今日はね、正式な形の謁見でもないから普通に話してくれると嬉しいな。俺もね、毎日王太子モードは疲れるから非公式の場合はいつもこの話し方だからね」

 殿下は茶目っ気たっぷりにウインクを飛ばす。

「で、ですが……」

「いいのいいの。あ、それよりさ、君の事リリーって呼んでもいいかな?」

「えぇ、それはご自由に……」

 そう答えれば、満足そうに笑みを向けられる。

 あぁ、これが王族なんだ。改めて殿下を見てみれば、その顔は自信に溢れ、特別なオーラを纏っている。これが王族の持つカリスマ的オーラなのだと一瞬見とれてしまう。


「さぁ、お茶会を始めよう。リリー自慢のハーブティーをご馳走してくれるかい?」

 殿下はそう言って東屋へ入った。


 頑張れ私! クラウスさんが来るまで精一杯おもてなしするのよ! そう心を固め殿下とのお茶会をスタートさせた。

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