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ゆりかごの歌

「ルーナ、あなたも眠りなさい」

 そう言って毛布をかけてあげるが、ルーナはシリーを抱っこした手を離さずギュッと抱きしめている。

「ルーナ、ルーナが眠らないとシリーもきっと眠れないわよ。ほら、シリーは私が抱っこしてあげるからルーナお姉ちゃんも眠らないとね」

 優しく背中をトントンと叩けば「うん」と返事をし、シリーを私に預けてくれた。

「ほら、ルーナもこっちにおいで」

 ポンポンと自分の膝を叩いて膝枕をする様に促すと、素直にコロンと寝転がった。


「リリーお姉ちゃん、あのね、お歌、お歌歌って?」

 ルーナは甘えるようにねだってきた。

「良いわよ……」

 私はシリーを抱っこしながら子守唄を歌う……私が知ってる唯一の子守唄を……


ゆりかごの うたを

カナリヤが うたうよ

ねんねこねんねこ ねんねこよ


ゆりかごの 上に

びわのみが ゆれるよ

ねんねこねんねこ ねんねこよ


ゆりかごの つなを

木ねずみが ゆするよ

ねんねこねんねこ ねんねこよ


ゆりかごの ゆめに

きいろい月が かかるよ

ねんねこねんねこ ねんねこよ


 外で見張りをしていたクラウスは馬車の中から聞こえる歌声につい誘われて中を覗いた。

 すると、赤子を抱き子供達に囲まれたリリーが歌を歌っている。歌声と共に子供達はキラキラ輝く魔力に包まれ、傷付いた体が癒されていく。リリーは歌いながら回復の魔法を使っていた。


 この日、クラウスは改めて思った。聖母のような微笑みを湛え、子供達を慈しむ姿はまさに女神だと。


 翌朝。

 目が覚めてみれば子供達はまだ目を覚ましていなかった。捕らえられてからずっと緊張状態が続き眠れていなかったのだろう。

 ルーナもぐっすりと眠っていて目を覚ます気配はない。

「リリー、おはよう」

 開けっぱなしの馬車の扉からクラウスさんが顔を出し、そっと声をかけてきた。

「おはよう、クラウスさん。もしかして一晩中起きてたの?」

「いや、途中で神獣殿と精霊殿が見張りを代わってくれてな。私もさっき目を覚ました所だ」

「そう、それなら良かったわ」


 私は子供達を起こさないようにそっと馬車から抜け出した。

「リリー、昨日子供達に歌を歌っていたな。聞いたことない歌だったが、もしかして故郷の歌か?」

 やだ……聞いてたの⁉︎ 歌はそんなに上手な方ではないので少しばかり恥ずかしくなる。

「うん。子守唄って言って子供を寝かしつける時に歌ってあげるのよ。他にも色々あるんだけど、私が知ってるのはこれだけ」

「そうか、リリーらしい優しい歌だったな。子供達もリリーの歌に癒されただろう」

 そうかな……そうだと良いな。


「さて、今日はこれから箱庭へ戻るとしよう。子供達をどうするかは他のみんなが戻ってから相談しよう」

「そうね。みんな無事よね?」

「もちろんだ。アイツらを信じてくれ」

 そうね、みんなは王国が誇る特務部隊だ。みんなを信じて私たちも進もう。


 子供達を起こすのは可哀想なので、寝かせたまま移動することにした。御者台にはスノーが座り、馬を操る。私はみんなが起きた時、不安にならないように馬車内に留まった。クラウスさんは馬に跨りながら辺りを警戒している。

 少し進んだ所で、昨日真っ先に私を信じて身を任せてくれた、あの兎の亜人の子が目を覚ました。

 目を覚ますと一瞬ビクッと体を跳ねさせたが、私の姿を見ると直ぐに落ち着きを取り戻したようだった。


 兎の子は名前をリリアナと言った。私はリリアナから話を聞き、彼女がどこの村から攫われて来たかなどを聞いた。そして、次々と起きてきた子達にも話を聞き、分かる範囲でメモを取った。

 

 何度かの休憩を挟み、私達は夕方になる前に箱庭へと帰ってきた。そして、箱庭の入り口を見れば一台の馬車が停まっている。既に一組帰ってきているのだろう。

「さぁ、私のお家に着いたわよ。まずは体を休ませないといけないから、みんなお家に入ろうね」


 子供達を馬車から一人一人抱き上げて下ろすと、みんなで手を繋ぎ箱庭へと入る。


「あ、リリー‼︎ 良かった、お帰り。そっちも無事救出できたみたいね!」

 私たちが帰ってきた物音を聞き、アニーさんが家から飛び出てきた。

「アニーさん! 良かった、無事ね?」

「当たり前よ、私達を誰だと思ってるの」

 アニーさんは自信満々に胸を張る。

「アニーさん、子供達は?」

「誰一人怪我することなく救出完了。今はみんなでリビングにいるわ。大分怯えていたけど、もう体力も限界だったみたいで今はみんな眠ってるわ」

 

 話をしながら家の中へ入ろうとしたが、ガラガラと馬車が近づいてくる音が聞こえた。

「ディランさん達も帰ってきたみたいね。みんな、ちょっと待っててね、他の子達も迎えてくるから」

 一刻も早く状況が知りたかったので、急いで馬車へと駆け寄る。


「俺達が最後だったか」

「二人共お帰りなさい。無事で良かったわ。こちらの二組は無事怪我人も出ずに救出完了よ。そっちは?」

「こちらも同じく誰一人欠けることなく救出完了だ」

「良かった……本当に良かったわ」

「ただ、こっちの子供達の中で酷い怪我をしている男児がいるんだ。どうやら人攫いに痛めつけられたようなんだ」

 

 もしかして……

「それってルーナを助けてくれた子じゃないかしら」

「恐らくそうだな。手当てをしようとしたんだが、酷い傷を負いながらも激しく抵抗されてね。かなり警戒されてしまったから眠りの魔法で全員眠らせたまま連れて来たよ」

 ナイス、ディランさん。下手に抵抗されれば余計に怪我が悪化してしまうので、ディランさんの判断に感謝する。


「それじゃあ、子供達を運びましょう」

 みんなで手分けして眠ったままの子供達を抱き上げ運ぶ。先に運ばれた子たちと同様、リビングへ連れて行くと家具を退かし広く取ったスペースにありったけの毛布を敷き、そこに子供達を寝かせた。

「狭いわね……」

 

 困ったわ……子供達の人数が多すぎてゆっくり休ませる場所がない。二階は今の人数分の個室しかないし、リビングもダイニングも狭すぎる。

「仕方ない。温室を改造するか。子供達がゆっくり休めるように作り直してくるからみんなは子供達を見てて」

「リリー、魔力は大丈夫か? いくら無限と言っても一気に使い過ぎれば体に負担がかかるからな。クラウス、お前はリリーに付いててやってくれ」

「言われずとも」


 そうして私とクラウスさんは庭に出て、今は使われていない温室までやってきた。

「リリー、どんな作りにするもりだ?」

「そうね……」

 アニーさんとディランさんの報告を受け、子供達は全員で十五人いる事が分かった。男の子が五人、女の子が十人だ。

 ずっとここにいるわけではないので、簡易的な避難所みたいにした方が良いのかな……きっと何人かで纏まってた方が落ち着くだろう。

「よし、取り敢えず大部屋を男女別に二つ作るわね。あとはみんなが集まれる大きな食堂、男女別のお風呂。こんなものかしら」

「そうだな。これからあの子達がどうなるかは話し合い次第だろうが、ずっとここにいる訳ではないからな」


 そうと決まればあとは魔力を解放するだけだ。

 いつかのように両手を温室へ向けて、魔力を解放する。一階は食堂に長いテーブルと人数分の椅子、バスルームは一度に何人も入れるように大きめサイズのバスタブとシャワー。二階には大部屋を三つ、二段ベッドをそれぞれに三台ずつ設置。

「よしっ!」

 レンガ造りの頑丈そうな避難所が三分で完成した。

「リリー……元気だな……要らぬ心配だったか」

「今日はどんなに魔力を使っても疲れない自信満々よ! 子供達が無事だったし、みんなも怪我なく帰ってくる事が出来て嬉しいから!」

 

 その後、起きている子達に知り合いの子がいないか確かめてもらった。

 目が覚めた時、安心してもらえるように知っている子たち同士固まってもらう。

 大怪我したルーナを助けてくれた男の子はルーナがずっと手を握って様子を見てくれている。

「リリーお姉ちゃん、みんなにもお歌……歌ってあげて。リリーお姉ちゃんのお歌聞くと、とっても安心するから」

 ルーナはそう言ってお願いしてきた。周りの子たちも同様におねだりしてくる。

「分かったわ。みんなの傷も癒してあげましょうね」


 私は再び、子守唄を歌った……

 

 私が歌い始めると、険しい表情で眠る子供達は安堵の表情へと変わる。私は歌い続けた……子供達が怖い思いを忘れられるように、心を癒すように。


「凄いな……」

「見ろ、子供達の体から傷が消えていく……」

「子供達の表情も見てよ……あんなに安らかな顔して……」

「リリー、女神みたいだ……」

「…………」

 ディランは驚き、クラウスは子供の傷が癒えるのを静かに見守り、アニーは子供達の安らかな表情に安堵の息を吐く。フレドリックは昨夜のクラウスと同じ様に見惚れ、ガウルに至っては言葉を失いその姿を目に焼き付けている。


 クラウス達五人は改めてリリーの力に敬服したのだった。


 


 

 

 

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