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奴隷狩り

 食事を終えれば、いつものようにハーブティーを入れてリビングへと移動する。

 さぁ、ルーナから詳しく話を聞く時間だ。

「それじゃあルーナ。辛いかもしれないけど、私達にルーナの身に何が起きたのか話してくれる?」

 隣に座るルーナの手を握り、背中に手を当てる。

「うん……夜、いつものようにルーナ達が眠ろうとした時だったの。突然村から叫び声が聞こえて、ルーナ達みんな起きたの。そしたらお父さんが様子を見てくるって言って……でも、外に出た瞬間、お父さんの……叫び声が……」

「うん。ゆっくりで良いわよ」

 何度も何度も背中をさする。

「ルーナ達、お母さんに「絶対に声を出しちゃダメだよ」って言われて部屋の奥に閉じ込められたんだけど、今度はすぐにお母さんの叫び声が聞こえて……それで、怖くて泣いちゃったの。そしたら知らない人間が部屋の中に入ってきて……ルーナ達を捕まえて……それで……」

 目に沢山の涙を溜めて当時のことを語ってくれる。思い出したくもないだろうに……。

「少しずつで良いわよ。辛いなら一旦話すのやめて良いからね」

 それでもルーナは首をブンブンと横に振って話を続けた。


「ルーナ達、人間に捕まえられて連れていかれる時、お父さんとお母さんが見えた。血がいっぱい出てて、う、動いてなかった。お父さんとお母さん、死んじゃったんだと思う」

 お父さんとお母さんの事を思い出し、ヒックヒックと泣きながら話を続ける。

「ルーナ達、その後すぐに他の子と鍵付きの馬車に乗せられて何日も移動したの。でも、何日か経った時、ガタンって言って馬車の車輪が溝にはまって動かなくなったの。そしたら、ルーナの座ってた場所の床が割れて少し隙間が空いたの。それでね、近くにいた知らない亜人のお兄ちゃんが割れた床の板を力一杯剥がしてくれて、ルーナなら小さいからここから逃げられる、僕が人間の気を引くからその隙に逃げろって言ってくれて」


「そう、そのお兄ちゃんに助けてもらったのね」

「うん。でもそのお兄ちゃん、ルーナを逃したから今頃きっと酷い目に遭ってる……ルーナのせいで……それに、ルーナ小さい妹いるの。まだ一歳にもなってないの」

「だからさっきルーナ達って言ってたのね」

「うん。ルーナ自分だけ逃げて妹のこと置いてきちゃった……ルーナ、お姉ちゃんなのに……一人で逃げちゃった……ふぇっ……ヒック……」

泣きじゃくるルーナを膝の上に乗せてギューっと抱きしめてあげる。

「ルーナ……辛かったわね。自分も辛い目に遭ってるのに、お兄ちゃんや妹を気遣える貴方は立派よ。大丈夫、私がみんなを助けるわ。必ず妹と再会させてあげるから!」

「でも、そんな事……」

 ルーナは賢い。普通の状況なら今更助け出す事など至難の技、どこにいるかも分からない子供達を探すなど、到底無理な話なのだから。

 でも、私には心強い味方がいる。私だって全魔力を使えば子供達を探せるはずだ。


「みんな!」

 そう声をかければ、既に戦闘モードのみんなが立ち上がる。

「リリーならそう言うと思った」

「救出には急いだ方がいいだろう」

「そうね、貴族に買い取られては手が出せなくなってしまうものね」

「リリーならその馬車探せるんじゃない?」

「頼んだぞ、リリー‼︎」

 こう言う時のみんなはほんと頼りになる。多くを語らずとも私が何をするのか察してくれる。

「もちろんよ! 私に任せなさい!」


 そこからは食後のティータイムから作戦会議へと変更し、時間をかけず軽く動きの確認を済ませて、バタバタと救出作戦の準備をした。


「ルーナ、少し離れててね」

 私達は今、箱庭から出て少しのところに全員集合している。ルーナはアニーさんに抱かれて私の様子を窺っている。


 さて、ここからは集中力が必要ね……目を瞑り、両手を広げて魔力を練り上げる。探すのは馬車……ルーナの話からすればきっと一台だけでは無いはずだ。

 目を閉じたまま、練り上げた魔力を私を中心にして円のように広げる。

 ……見える……魔力の広がりと共に閉じた目には全てが見える。森を駆け抜け川を渡り山をも飛び越える。

 馬車……あった! いや違うわねこれは行商隊、それじゃあこっち? これも違う……どこ? どこにいるの?

 ひたすら馬車を覗き確認していくととうとう一台の怪しい馬車を見つけた。中を覗けば手枷と足枷、さらには布を口に噛ませ猿轡までさせられた子供達が乗っている。

 馬車には魔道具がぶら下げられ、魔力を発していた。これ、どこかで見たわね……そうだ、レール子爵の執事ネルソンさんが持っていた物によく似ている。と言うことは、隠匿の魔道具ね……小賢しい……私には効かないわよ……

 まずは一台……でもまだよ、まだいるはず。すると今度はその馬車とは真逆の方向にもう一台見つけた。こちらも中には手枷、足枷をされた子供達が乗っている。

 念の為もう少し範囲を広げて探してみれば、もう一台あった。

中を覗けば、やはり子供達が乗っている。そして、狼の赤ちゃんの姿も。

 念入りに隅々と探したがこれ以上の馬車は居ないようだ。どの馬車も移動はせず、隠匿の魔道具を使い隠れているだけ。恐らく日が落ち暗くなってから移動するつもりなのだろう。


 魔力の放出を抑え、目を開ければパラパラと小石が降ってきた。

「リリー……いくらなんでも魔力を使いすぎだ。その辺の石が浮いてたぞ……」

 ディランさんは呆れながら近づいてくる。

「全く……それで? 見つけたか?」

「ええ! 馬車は三台。こっちとそっち、そしてこの方向に子供達が乗せられた馬車があったわ。ルーナ、こっちの馬車には狼の赤ちゃんも乗ってたわ。ルーナの妹かもしれない」

 そう教えてあげると、ぶわりと涙を零した。


「よし、それじゃあリリーは私とルーナの妹がいるかもしれない馬車の方へ、ディランとフレッドはこの方向を、ガウルとアニーはもう一つの方を。作戦終了したならこの場所へ戻ろう。各自くれぐれも子供達が傷つかないように細心の注意を払ってくれ。相手は隠匿の魔道具を使っているが、こちらはリリーが何とかするし、そっちはディランも何とかできるだろう。ガウルもその嗅覚があれば何とかなるはずだ。ルーナはリリーから絶対に離れてはいけないよ」

 クラウスさんはそう言うとルーナの頭を撫でてあげた。


 みんなは各自、自分の馬に跨り出発の準備をする。私もスノーにルーナと跨り後ろからルーナを支えてあげる。

 あ、ちなみにロジーは先程スノーによって解放され、私の肩に乗っている。

「さて、スノーよろしくね」

「ああ。任せておけ」

「ロジー、ロジーもお願いね」

「分かってるよ。そ、そのちびっ子もついでだから守ってやるよ……」

「うん、ありがとうね」

 プイッと顔を背けるが、昨日の今日でルーナにどう接して良いか分からないだけだろうから放っておこう。


「それでは行くぞ‼︎」

 クラウスさんの掛け声と共に「おおーーー‼︎」と叫び、それぞれの担当する馬車の方角へと散る。

 どの方向の馬車も夕方には見つけられるはずだ。移動する前に何としてでも捕らえてみせよう。


 しばらく走り続け、こまめに短い休憩を取り、ルーナの様子を伺いながら何とか日が落ちる前に馬車があるだろう付近までたどり着く。

「リリー、見えるか?」

「ええ。いたわ」

「よし、リリーは魔道具を壊したら離れた場所でルーナと待っていてくれ。絶対馬車の方を見てはいけないよ。醜いものは見なくて良いからね」

 きっとクラウスさんは奴らを切るのだろう。その場面を私達に見ないようにと念を押した。


「クラウスさん、気をつけて。それではいきます!」

 私は魔力を隠された馬車の方角へとぶつけ、隠匿の魔法を破った。そしてすぐさま馬車の隙間に向けて、隠匿の魔道具に向けて魔力を放つと魔道具は音を立て崩れた。

 その音に異変を察した奴らは騒ぎ立てる。が……既にクラウスさんは奴らの懐の中。

 私はルーナを抱きしめ、彼女に何も見えないように、何も聞こえないようにと目と耳を塞いだ。

 

 剣と剣がぶつかり、鋭く金属が擦れる音が続き、男達の呻き声が辺りに響き渡った。

 しばらくすれば、すぐに辺りに静寂が訪れる。……早い。クラウスさんはあっという間に奴らを倒したようだった。


 すると、ガラガラと音を立てて馬車が近づいてきた。

「リリー、待たせたな」

「うん。お疲れ様です」

 短く言葉を交わすと、私は馬車の後ろ側へと回った。そこにはいくつもの鍵がぶら下がっており、簡単には開かないように鍵がかけられていた。

「鍵か……奴らが持っているだろう、少し待ってくれ。探してくる」

 クラウスさんはそう言うと、切り捨てた奴らの元へと戻っていった。

「みんな、助けに来たわよ。すぐ、この扉を開けるからね。もう少し我慢してね」

 クラウスさんが戻るまで、私は必死に中にいる子供達を励ました。


「あったぞ。これで開くはずだ」

 束になったいくつもの鍵を一つ一つ鍵穴に合うまで試す。全ての鍵が開けば、扉を開くだけだ。

 扉の取手に手をかけ、ゆっくりと扉を開く。すると、子供達は馬車の奥に固まりガタガタと震えていた。

 こんなに怯えて……可哀想に……

「みんな、もう大丈夫よ。悪い奴はもういないわ」

 そう声をかけるも、警戒して身動きを取ろうとしない。


 さて、どうしようと悩んでいると、一人の亜人の女の子が恐る恐る近づいてきた。その子は長い耳をピンと張った白い兎の亜人で、この子達の中で一番の年長のようだった。

 怖がらせないように、ゆっくりと猿轡を外してあげる。

「もう大丈夫よ。怖かったわね。もう大丈夫だからね」

 そう声をかけてあげれば、ボロボロと涙を流した。

「さぁ、みんなもおいで。その痛い枷を外してあげるからね」

 兎の子の一歩で他の子も釣られるように前に出てくる。一人一人、猿轡と枷を外してあげると周りの子と抱き合って涙を流す。


 その様子を見ていたルーナはハッ‼︎ と目を見張り「シリー‼︎」そう叫ぶと馬車の中へ飛び込んだ。

 ルーナの腕の中には小さな小さな赤ちゃんが。

「シリー、ごめんね‼︎ お姉ちゃんなのに守ってあげられなくてごめんね‼︎」

 ルーナはそう言ってわんわんと泣き出した。

「ルーナ、良かったわね! 見つかって良かったわね!」

 私はルーナに釣られて思わずボロボロと涙を零してしまった。


 そこからはもう移動するにも遅いので、少し離れた場所まで移動すると夜営の準備を始めた。

 捕らえられていた子達はシリーを含めて7人いた。

「さて、まずは体を温めないとね。こんな格好で可哀想に」

 子供達はルーナが着ていた服と同じようなボロボロの服を着せられていた。

 私はアイテムボックスから毛布を取り出すと一人一人にかけてあげる。

「あとは……みんなお腹空いてるよね? 今はこんなものしか用意できないけどとっても栄養があるから食べて? 明日になったら美味しい物をご馳走してあげるから」

 そう言って一人一人にカロリーブロックと小瓶に入ったミルクを渡す。

 

 始めは得体の知れない食べ物を食べようとしなかったが、ルーナが食べてみせると、他の子達も安心したようで少しずつ食べてくれた。


 お腹がいっぱいになった子達はやはり疲れていたのだろう、カクンカクンと船を漕ぎ始めた。


「もう大丈夫だから安心して眠って」


 そう言うと、安心したかのように毛布に包まり眠ったのだった。







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