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奴隷

今年の更新はここまでとなります。

この物語りを読んでくださった皆様には感謝を申し上げます。ブックマーク、評価が増えるたびにとても嬉しく感じていました。もちろん、誤字報告も有り難かったです。

来年もマメに更新できるように頑張りますね!

皆様、良いお年をお迎えください。

それでは、来年も【異世界を花で彩ります】をよろしくお願いいたします。


 リビングでは既に全員が揃っていた。

「リリー、良かった。それであの子はどうだった?」

 クラウスさんは私の姿を見るとあからさまにホッとした。

 そこから、さっきルーナから聞いた事をみんなにも説明すると信じられないと表情を険しくした。

「そんな事が……」

「と言うか、女の子だったのか」

「俺は同じ亜人としてすぐ分かったがな」

「だったら尚更昨日の状況は恐ろしかったはずだ。すまない事をしたな……」

 みんなからは口々にルーナを心配する声が聞こえた。


「一体ルーナの村に何が起きたのかしら……」

 今までに聞いた事もない事件に頭を悩ませていると、ガウルさんが一つの可能性を口にした。


「一つ、心当たりがある。反吐出そうになる話だが聞いてくれ……恐らくその子達は奴隷狩りにあったものと思われる」

 ガウルさんのその言葉に一同は顔をしかめた。

「奴隷……」

「そうだ。亜人はな、一部地域では人間よりも下に見られ奴隷にされる事があるんだ。多くは小さな子を攫ってきて金持ちに売るんだよ。子供は力も小さく大人より躾けるのが簡単だから……どの道、魔法で奴隷契約すれば絶対に逆らう事は出来ないがな。そして男も女も金持ちの愛玩道具にされる」


 なんて事……

「なんなのその話……そんな事って許されるの⁉︎ 国は何で黙ってるのよ‼︎ ディランさん、貴方知らないわけないわよね⁉︎」

 思わずディランさんに喰ってかかる。

「リリー、落ち着いて。俺たちだって許せないよ。奴隷の事実は知っているが、確たる証拠が無ければ俺たちにはどうする事も出来ないんだ。勿論、助けられる状況なら助けてきたし、そもそも人攫いできないように取り締まりも行なっている。ただ、奴らの手口が巧妙過ぎてなかなか尻尾を掴めないでいるんだ。そして一番厄介なのが、売られる先。売られる先が高位の貴族の場合もある。そうなると俺たちには手を出すことが出来ない。俺たちだって辛いんだ」


「……そうよね、ごめんなさいディランさん。つい頭に血が昇っちゃって」

 私はこの国の事をほとんど知らないので、奴隷の事をディランさんに教えてもらった。


 奴隷の始まりは親を失った身寄りのない子供達の働き口として始まったそうだ。

 買う側は奴隷に衣食住を与える代わりに自分に仕えてもらう。特に亜人は人間よりも力も体力もあるから好んで買い取られていたらしい。

 そこまで聞けばそんなに悪い話では無さそうなのだが、人間は欲深い生き物……金の為なら幼い亜人を攫ってきてでも商品にし、そして買う人間も金さえ払えば自分の物、何をしても良いと酷い事を平気で行う。

 そして長い年月が経ち、奴隷は歪な方向へと解釈される。奴隷商にしてみれば亜人達は金の成る木、物扱いだ。そんな扱いをされているうちに亜人達は人間の偏見のせいでその存在を低く見られるようになっていった。

 そして今に至る。本当に、反吐が出そうだ。


「ガウルさんは……同じ亜人として辛い目に遭ったりしてこなかったの?」

「俺はこの面構えだ。恐れられる事はあっても蔑まれる事はなかった。育った所も亜人に対して何の偏見もなかったからな」

「王都も亜人に対する偏見はほとんどない。ただ、貴族の中にはいくらか亜人に対して下に見るものはいるがな」


 そうか……みんなから奴隷に関するいろんな話を聞いているところで、階段を降りる音が聞こえてきた。

 私はすぐさまリビングを出てルーナを迎える。

「あ、リリー。ルーナすっごく綺麗になったよ!」

 アニーさんに抱き抱えられたルーナは汚れていた姿とは打って変わって、銀色に輝いていた。そしてボロボロだった服の代わりに私のブラウスをワンピースのように着て、腰のあたりをリボンでキュッと縛ってある。

 ルーナサイズの服なんとか調達しないとね。

「まぁ! ルーナの毛並みすごく綺麗ね! アニーさんに綺麗にしてもらって良かったわね!」

 ルーナにそう言うと、はにかんだ笑顔を見せてくれた。


「ねぇ、ルーナ。この先に私のお友達がいるの、ルーナは男の人だと怖いかな?」

「ちょっと怖いかも……」

「そっか、私のお友達ね、男の人なんだけどアニーさんと一緒で王国の騎士様なんだよ。私も危ない事や辛い事があったけどみんなが助けてくれたの。みんな良い人だから怖くないからね。あ、そうだ。一人は虎の亜人さんでガウルさんって言うのよ。私ね、ガウルさんのお耳がとっても好きなんだー。とっても可愛らしい亜人さんなのよ。ね、会ってみたくない?」

 そう言うと、アニーさんは顔を引きつらせている。

「リリー、そう思ってるのはリリーだけだ。ルーナが衝撃受けたらどうするんだ。ルーナ、いいか。リリーは他の人よりちょっと変わってるから参考にならないぞ。あ、ガウルは顔はびっくりするほど怖いけど、とーーーっても優しいから心配しなくていいよ」


 何ですか、変わってるとは。アニーさん、失礼ですよ。私は至って普通です。

 アニーさんは引き続きルーナに男性陣について説明している。

「ルーナ、リリーも私も付いてるから一緒にみんなに会いに行こう」

 アニーさんはそう言ってニッコリ微笑むと、ルーナはコクンと頷いてくれた。


 私はアニーさんからルーナを受け取って抱っこした。お風呂に入ってシャンプーしてもらった体はふんわりとラベンダーの香りがした。幼い子特有なのだろう、一本一本の毛が細く柔らかい。

ーー全く……こんなに小さな子に酷いことするなんてーー


 私はルーナを抱っこしたままリビングへ入った。ルーナは私の首に手を回し、私の肩に顔を埋め隠している。

「みんな、お待たせ。この子がルーナ、狼の亜人さんよ。知らない人だらけでちょっと怯えてるけど、とってもいい子なのよ。ルーナ? みんなにお顔を見せてご挨拶出来るかな?」

 そっと促すとルーナはおずおずと顔を上げて、みんなの方を見た。

「ルーナです……昨日は暴れてごめんなさい」

 声は震え、とても小さな声だったがきちんとみんなにその声は届いたようだった。


 するとクラウスさん達はその場で片膝を付いてルーナを見つめた。

「ルーナ、私はクラウスと言う。私達こそ昨日はすまなかった。こんな小さなレディに剣を向けてしまって……ルーナも突然怒鳴られて怖かっただろう……それに、リリーから聞いたよ。ルーナがとても辛い目にあった事……一人で頑張って逃げてきたんだね、とても偉いよ。ここにいれば怖い事は起こらないから……私達がルーナを守るから安心して欲しい。だから私が昨日ルーナにしてしまった事を許してくれないか?」

 

 クラウスさんにしてみれば、私に怒鳴った事もそうだが、こんな小さな子に剣を向けた事も酷く後悔しているようだった。クラウスさんは懇願するようにルーナを真摯に見つめる。

 すると、ルーナは私にしがみついたままコクンと頷いて「私もごめんなさい」と謝った。

「ルーナ、とってもいい子ね」

 よしよしと頭を撫でてあげると、恥ずかしそうにまた私にしがみついて顔を隠した。


「ルーナ、俺の名前はガウル……お前と同じ亜人だ。お前の辛い気持ちは俺には良く分かる。俺はこんなナリで怖いかもしれないが、お前を傷つけたりはしない。何かあれば俺に言え、俺もお前を守るから」

 ガウルさんの目も真剣だ。

「ほらね、ガウルさんとっても優しいでしょ?」

「うん……」

「あとはね、こっちのお兄さんがディランさんで、とっても凄い魔法使いなのよ。このお兄さんもとても強いからルーナの事を必ず守ってくれるわ。それと、こっちのお兄さんはフレドリックさん。このお兄さんはね、とっっっっっても優しくて小さい子達に人気なのよ。それに凄い弓の名手なの、一気に三本の矢を射って魔獣を三体同時に倒したりするんだから。みんな優しい人ばかりよ、だからルーナは何も心配しなくていいからね」

「うん……」


 ルーナにみんなの事を紹介し、ここは安全なんだと教える。ルーナの事はしばらく私が面倒を見るとして、後でみんなと話し合わなきゃいけないわね。

「さぁ! ルーナもみんなもお腹すいたよね。朝ごはんにしましょ。ルーナは……私とアニーさんと一緒にキッチンに行こうね」

 

 私はルーナをキッチンの椅子に座らせ、アニーさんと共に朝ごはんを用意した。

 ルーナは私達が朝ごはんを作るのを足をブラブラさせながら見ている。ふふふっ、可愛い! スープの味見をルーナにしてもらえば、両頬を押さえて「美味しい!」と喜んでくれた。

「さぁ、出来た。ルーナも一緒に運んでくれる?」

 声をかけると、ルーナはパッ!と椅子から飛び降り、ナイフとスプーンとフォークを運んでくれる。


「みんな、今日は白パンとプレーンオムレツとルッコラのサラダ、パンプキンスープよ。さぁ、召し上がれ!」

 いつもの光景に可愛いルーナが仲間入り。たった一人増えただけなのに、リビングを包む雰囲気は柔らかいものへと変わった。

 ルーナを見るとフォークを握ろうとしているが、うまく握れないのか、何度も手からフォークが逃げる。

 ガウルさんがナイフもフォークも上手に使う姿を見慣れてしまってて失念していた。

 そうよね! その手じゃ使いづらいわよね! 


 そう思い、ルーナを手伝おうとしたところ、ガウルさんがルーナに声をかけた。

「ルーナ、それではフォークは握れないだろう。俺の真似などしないでいい。ルーナはどこまで変化できる? 別の姿の方がいいだろう?」

「う、うん……」

 ガウルさんが何を言ってるのかよく分からない。だが、ルーナには分かっているようだった。

 ルーナは椅子から降りると、テーブルから少し離れ、濡れた体から水分を飛ばすように、ブルブルブル‼︎ と体を震わせた。すると……

「え⁉︎」

 ルーナの体は、狼の体から人の体へと変わる。ただ、頭には狼の耳が生え、お尻にはふさふさの尻尾を残したまま。

「ルーナ⁉︎」

 私は椅子から転げ落ちそうになるほど驚いた。


「リリーは知らなかったと思うが、亜人族は人化から獣化まで姿形を変えることが出来るんだ」

「うわ〜! 亜人族って凄いのね‼︎ え、じゃあガウルさんも出来るの⁉︎」

「まあな」

 み、見てみたい‼︎ ガウルさんの人化見てみたい‼︎ 期待を込めた目でガウルさんに視線を送ってみた。

「……そんな目で見られてもやらないからな!」

 そう一蹴されてしまった。

「何でよ〜。見たい見たい! ね、お願いっ‼︎ このとーりっ‼︎」

 両手を合わせて可愛くおねだりしてみたがガウルさんには通じなかった。


「ほらほら、食事の時間にふざけるんじゃない。さっさと食べよう。後でルーナに話を聞くんだろ?」

 うっ、そうでした。ふざけてる場合じゃありませんでした。

「わ、分かってるわよ。ディランさんってば、ちょっとふざけただけですーぐ起こるんだから。ルーナ、ご飯食べましょ」


 ルーナは人化するとフォークを上手に持ち、オムレツをパクリと食べる。次はスプーンを持ち、パンプキンスープをお行儀良く飲んだ。一口食べるごとに手を頬に当てて「ん〜‼︎」と美味しい顔を見せてくれる。


 ……天使だわ。ここに天使がいるわ……。思わず顔がデレてしまった。


 






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