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旅のひと時 ニ

ブックマーク、評価ありがとうございます。

今年ももうすぐ終わりですね。皆さんには大変お世話になりました(特に誤字報告で!)。誤字報告をいただく度、笑ってしまうような誤字や珍文ばかりで、私大丈夫か⁉︎と自分自身を心配しているところです(笑)

拙い文章で読みにくいだろうにも関わらず、ブックマークも500件を超えることが出来ました。

年内はもう少し更新出来たらと思っています。もうしばらくお付き合いください。

「ん〜‼︎ はぁ……よく寝た〜」

 魔泉を堪能した翌日。いつもなら目が覚めても暖かい布団の中から出られず、ついつい二度寝してしまいそうになるが、今日はスッキリ爽快! 目覚めと共にスッと起き上がる事ができた。これも魔泉のおかげかな?


「ん〜、まだ早かったな」

 窓から外を見ればまだ朝日が昇る前だ。いつも朝早く起きて朝の稽古をするみんなもまだ起きてはいない。

「そうだ、せっかくだから朝風呂入りたいな……」

 そうポツリと呟くと、赤い光と白い光がふわりと目の前に現れた。


『リリー、また魔泉行くの?』

「うん。一人で行くと怒られそうだから二人ともついて来てくれる?」

『勿論だ。それにしても、こんな朝早くから風呂とはよほど魔泉が気に入ったんだな』

 二人はそう言うと、ふわりと人型の姿へと変化した。

「そうなの。地球でもね、温泉って言ったら朝一番の朝風呂に入るのが楽しみだったのよねー!」

 朝、まだ誰もいない露天風呂に一人で入る贅沢感がたまらない。


 軽く身支度を整えたらみんなを起こさないようにそっと家から出る。

「…………っ、寒い寒い……」

 日差しが温かな日中でも、夜も明け切っていない時間帯はまだ寒さが堪える。

 魔泉から然程離れていない場所に箱庭を出したので、箱庭を出て少し歩けば目的の魔泉へと到着する。辺りは風に揺れる草木の囁きだけで、その風も止まれば静かな静寂に包まれる。軽く羽織っていた衣服を脱ぎ、そっと足を入れれば心地よい温かさに鳥肌が立った。


「はぁ〜極楽極楽……」

 私の独り言を岩場の陰で聞いていたロジーがクスクスと笑っている。

『そんなに気持ちいい?』

「もう、最高よ。誰もいない静かな露天風呂を貸し切りだなんて、すっごい贅沢。ただ、湯気で真っ白で周りの景色が見えないのが残念だけどね」

 朝の冷え込みのせいか、昨晩より湯気の白さが濃く、五メートル先からは何も見えないほどに真っ白だ。

 こんな白い世界にいると神様の元を思い出すわね。


「そう言えばさ、スノーって神獣なのよね? 神様とどんな関係があるの? 今更なんだけど神獣ってそもそもどんな存在なの?」

 神獣って神の獣って書くくらいだから、どんな関係があるのか気になった。

『私は神が創りし魔獣。神がこの世界をお創りになった際、初めの生物としてこの地へ生を授けられた。ただ、私だけではなく、神は世界各地へ様々な神獣をお創りになったがな。私達は神が創りしこの世界を見守り、時には行き過ぎた人の行いに介入し世界の秩序を守って来たんだ。神は一度創った世界には直接手を加えられないからな。それなのに……私は神の期待に応えられず、さらには呪いをかけられ神が創りしこの世界を滅ぼすところだった……私は神獣の名を語るのには、もう相応しくはない存在かもしれない、神を裏切ったのと同然だ……』


 スノーはそう言った後、悔しそうに口を閉ざした。よほどサラセニアによるあの事件が心に深い傷を負わせたのだろう。

 今……スノーはどんな顔をしてそんな事を言っているのだろう。


「スノー、私が思ってる事聞いてくれる? あのね、起きてしまった事を後悔するんじゃなくて、これからなんじゃないかなって思うの。スノーはこの世界が生まれてからずっと見守って来たんでしょ? 神様はちゃんとその事を見ててくれてただろうし、実際スノーの事とっても心配してたのよ。この間神様と再会した時、サラセニアの話題の中でスノーに関する話もしたのよ。神様はこの世界が生まれた時から見守ってくれているスノーが、あんな目にあってとても心を痛めていたわ。そして『救いの手を差し伸べてくれてありがとう』って感謝の言葉を私に言ってくれたわ。そんな神様がスノーに裏切られただなんて思うわけないじゃない。スノーはこれからも神獣として堂々としていればいいのよ。これからもこの世界を守っていくんでしょ? 胸を張りなさいスレイプニル」

 

 私の言葉を静かに聞いていたスノーは暫くの沈黙の後、小さく『ありがとう』と言葉を溢した。


 さて、そろそろ戻ろうかな。そう思って立ち上がろうとした時だ……。

「……誰かいるのか?」

 その声を聞いた瞬間、ドキン! と心臓が一拍強く脈打った。……う、嘘⁉︎

「クラウスさん⁉︎」

「は? リ、リリーか⁉︎」


 真っ白な湯気の先に人影が見える。

「ダ、ダメ‼︎」

 咄嗟にそう叫んだが、時すでに遅し。目の前にはハッキリと姿を現したクラウスさんがこちらを見て完全に固まっていた。その姿は腰まで魔泉に浸かっていて、鍛え上げられた上半身が晒されている。

 クラウスさんの姿が見えると同時に、ザブン! と首まで魔泉に浸かったので、ギリギリセーフだろう。白い濁り湯でほんと良かった……。


「リリーどうしたの?」

 ヒョコッと岩場から顔を覗かせこちらを窺うのはロジーだ。

「……なんだ、あんたか」

 そう言って再び岩場の陰に姿を消すロジー。

 いやいやいや‼︎ なんだ、あんたか。じゃないでしょう‼︎ どう考えてもおかしいでしょこの状況。助けてよ‼︎


 どうしていいか分からず、二人で固まってしまったが、沈黙に耐えられず口を開いた。

「あ、あの……」

「ハッ‼︎ す、すまない‼︎ こんな朝早くに誰かいると思わなかった。まさかリリーがいるだなんて」

 ザバッと音を立ててクラウスさんは勢い良くこちらに背中を向けた。

「私の方こそごめんなさい……湯気が濃くて周りも見えないし、誰もいないと思って隠匿の魔法さぼってしまいました」

「いや、本当にすまない。すぐに出ていくからリリーはゆっくりしてくれ」

 そう言って去ろうとしたクラウスさんだが、パッと見お湯に浸かって間もないことが窺える。

「クラウスさん、私結構長い間入ってたのでそろそろ上がろうと思ってたところなんです。クラウスさんは来たばかりですよね? 私上るのでクラウスさんこそゆっくりしていってください」

「いや、しかし……」

 そんな事を言い合い、譲り合いをしていた時だ。


ーーガサガサガサ!ーー

 風に揺られる草木の囁きとは別の、何かが草木を掻き分けるような音に肩が跳ね上がる。

「今度は何⁉︎ ロジー!スノー!」

『分かってる!』

 ロジーとスノーがそう言った瞬間、ザバッ!と音を立て私の目の前にクラウスさんの背中が現れた。

「リリー、少し我慢してくれ」

「は、はい」

 

 クラウスさんは私を背中に庇い、目の前を見据えている。

 しばらくすると赤い光が私達の元へ舞い降りて来た。ロジーだ。

「あ〜、大丈夫だった。ただの動物。多分、この魔泉に入りに来たんじゃないかな? 家族連れっぽかった」

 ロジーの報告を聞くと大きな溜息が溢れた。

「はぁ……。何だ、動物か……。びっくりした……」

 そして、ガサガサと音が聞こえた方から中型犬くらいの大きさの茶色い動物がゾロゾロと魔泉に浸かってきた。

「何だ、リバーラットじゃないか。この辺りにも生息していたのか」

「リバーラットって言うんですか?」

「ああ。主に川の周辺に生息していて、特に暖かい地域に多く生息しているんだ。」

 へぇ〜。何か、どっかで見たことあるフォルムだなって思ったら、すっごくカピバラっぽい。魔泉にどっぷり浸かって目と鼻と耳を出している姿はまさにカピバラ。小さい個体は子供なのかな? 大きい成体に囲まれて守られるかのように魔泉に浸かっている。何であのフォルムってあんなに可愛らしいんだろう。

 

「ところでリリー、さすがに目のやり場に困るからそろそろ離れるとしよう」

 それもそうだ。クラウスさんは私の方を絶対に見ないようにしてくれているが、私達の距離はすぐに触れられるほどに近い。

「そうですね……私、先に上がりますね」

「ああ……」

 背中を向けたままクラウスさんは湯気の向こうへと姿を消した。


 リリーが魔泉から上がり、着替えていたその頃。クラウスはと言うと、岩場にズルズルと背中をもたれ首まで魔泉に浸かり、大きく溜息を吐いていた。

「勘弁してくれ……次、同じことがあったら抑える自信ないぞ……」

 不意に見てしまったリリーの肌。緩く纏め上げられた髪から落ちた一房の髪、細く白い頸、火照って赤く色づいた頬、その全てがクラウスの心を波立たせた。

「っ…………」

 思い出しただけで心が暴れる。本当は勢いに任せてリリーに触れたかった……あの細く、抱きしめただけで折れてしまいそうな体を抱き寄せたかった……。

 クラウスはそんな甘く切ない気持ちを抑えるように、ドプンと魔泉に頭を沈めた。


 リリーの事は大事にしたい。大事にしたいからこそゆっくりと時間をかけて愛を育んでいきたい。だが、時折欲望に駆られ暴走しそうになる。しばらく女性に対して感じることが無かったその感情は、今までの分を埋めるかのように暴れ出しそうになる。久方ぶりの感情を抑えるのは大変そうだと心からそう思ったクラウスだった。


 





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