新ハーブとコカトリス
「何この植物。うわっ、気持ち悪っ! 葉っぱの表面にツブツブが付いてる!」
せっせせっせと植物のお手入れをしていると、アニーさんがある一角の植物コーナーを見て、「うへぇ〜」と顔をしかめている。
「あ、アニーさんおはよう!どうしたの? 今日は森の調査、休みでしょ?」
現在時刻は朝の七時頃。「折角の休みなんだからもう少し寝てればいいのに……」と声をかければ、「たまには私にも手伝わせてくれ」と返された。
「ねぇ、これって何なの? まさか食べるとか言わないよね」
そう顔をしかめて親指と人差し指で摘んだ葉。その葉肉は厚く、濃い緑色。そして、最も特徴的なのが、葉の表面に硬い水滴のようなものがびっしりと付いている事だろう。
「もちろん食用よ。この硬い水滴の部分には塩分が含まれていて、土の中の塩分を吸い上げ、葉に蓄える性質を持ってるの。水滴が凍ってるみたいでしょ? その見た目から、アイスプラントってよばれているのよ」
私達が今立っている場所は、私が興味本位で作った、珍しいお野菜コーナーだ。
念の為、栽培したものは全て鑑定したが、特別な効果は無く、地球で知られているような内容だった。
知らず知らずとんでもない効果の物を作ってしまう私なので、ロジーとスノーには『何をするにも必ず鑑定をする事!』と口を酸っぱくして言われている。
「折角だから後で食べてみましょう」
そう言えば、アニーさんは眉を寄せた。美味しいのにな〜。
よし、今日は地球のお野菜と、ここの珍しいお野菜を使ってスペシャルディナーをご馳走しよう!
そうと決まればアニーさんに手伝ってもらって収穫よ!
【ロマネスコ】
一応カリフラワーの種類。食感はカリフラワー、味はブロッコリーに近い。日本ではカリフラワー×ブロッコリーで【カリッコリー】、【カリブロ】なんて呼ばれてたりもする。見た目は独特で、幾何学的な花蕾が螺旋状に渦巻いている。亀の魔獣がいたらきっとこんな甲羅なんだろうな……とか思ってしまった。
【ゼブラナス】
その名の通り、赤紫と白の縞模様が美しいナス。その実は大きく、米ナスよりはやや小さめ。加熱しても実が崩れにくく、トロリとした食感が楽しめる。
【白ナス】
その名の通り、真っ白なナス。大きさはゼブラナスと同等。こちらも加熱するとトロリとした食感が癖になる。ただ、やや皮は固め。
【金糸瓜】
別名そうめん南瓜。その実は加熱する事で糸のような繊維状にほぐれ、正に麺のよう。歯応えはシャキシャキとしていて、えぐみも少なくほんのりと甘い。
【グラパラリーフ】
厚い果肉はまるでサボテン。薄皮をめくれば、肉厚で濃い緑色のみずみずしい果肉がぎっしり。りんごのようなフルーティーな酸味が特徴。
【バターナッツ南瓜】
ナッツのような風味とねっとりとした食感が特徴的な南瓜。ひょうたん型の実は甘みがあり、下の膨らんでいる部分は、特にねっとりとしたバターのようなコクがある。
【ビーツ】
鮮やかな赤色が特徴的な野菜。カブのような見た目だが、ほうれん草と同じ仲間。ロシアの代表的な料理ボルシチで知られている。
【ルバーブ】
ふきのような見た目で、茎の部分を食す。葉は有毒。酸味がかなり強く強烈。ジャムやコンポートなどにおすすめ。
【ストロベリートマト】
食用のほおずき。優しくほんのりと甘酸っぱい香りがします。がくが袋状に大きくなり、その中で果実を包み込みます。イチゴのような甘酸っぱい味とトマトよりもやわらい食感からその名が付けられた。
【ミラクルフルーツ】
実の中に含まれるミラクリンという成分の作用により、この実を食べたあとにレモンなどの酸っぱいものを食べると甘く感じるミラクルなフルーツです。
まあ、面白がって色々植えたわよね。最後のミラクルフルーツなんてネタよね。
その後も無事に収穫を終え、次はハーブを収穫する。ハーブの方も新作が続々と植えられている。
【マシュマロウ】☆☆
太い根には25~35%もの多量の粘液を含んでいる。
食用。喉にいい。
【サポナリア】☆☆
葉、茎、根から粘液が取れる。別名ソープワート。
石鹸にどうぞ。
【アンゼリカ】☆☆☆☆
邪悪な存在を払う力がある。
【ニゲラ】☆☆☆☆☆
種を潰せばフルーツの様な香りを放つ。
魔獣が大好きな香り。
【ラムズイヤー】☆☆☆☆☆☆
一枚ちぎって咥えれば……。
あはははは。マシュマロウとサポナリアは実用的。問題は残りの三つだ。
邪悪な存在を払って、魔獣を引き寄せて、ちぎって咥えるとどうなるんだ⁉︎
特にニゲラは要注意。実を潰さないようにしなければ……。ラムズイヤーは……うん。ロジーとスノーに相談してクラウスさん達がいないところで調べてみよう。何が起こるか分からない。恐ろしすぎる。
そんなこんなで午前中は収穫に追われたが、アニーさんに普通のお野菜を収穫してもらったので、とても助かった。
「アニーさん、ありがとうね。助かったわ」
「ねぇ、リリー、本当にコレ食べるの?」
そう言って指差したのは、アイスプラントとロマネスコ。どちらも見た目は強烈だが、きっと美味しく調理するわ。
「私を信じて。絶対に美味しいって言わせてみせるから!見た目で判断しちゃダメ。何事も経験よ」
新しい食材にテンションが上がり、鼻歌を歌いながらキッチンへと吸い込まれた。今日のディナーは皆を驚かせたいので、キッチンは立ち入り禁止だ。
〜フンフーン♪フフンフーン♪〜
「リリー、随分と機嫌がいいね。アニーさん今日一緒にいたんでしょ? 何があったの?」
料理の為キッチンに篭っている私の元に、会話だけが聞こえて来る。アニーさんは何とも言えない口調で、収穫の話をしている。
「へぇ〜。まぁ、リリーの料理に間違いはないでしよ。俺は楽しみだな〜」
「お前は見てないからそう言えるんだ。私はあのツブツブと悪魔の実の様な野菜がどうも……」
アニーさん達がそう話していると、誰かがダイニングの窓を開けた。
「リリー、ちょっといいか」
ガウルさんだ。一旦料理の手を止めて呼ばれた方へ行くと、ガウルさんはダイニングの大窓から顔を出して、外においでと手招きしていた。
何かしら? ガウルさんを追いかけ外へ出ると、そこには大型の魔獣が転がっていた。
「ヒッ‼︎ ちょ、ちょっとこれ何ですか⁉︎ 」
体長およそ三メートル、鳥なのに何故か尻尾は蛇の様。尻尾の先まで入れれば、長さは四メートルはあるだろう。
「コカトリスだ。リリーは見た事ないか?」
「そんなおっきな魔獣見たことありませんよ……。それ、どうしたんですか?」
初めて見た奇妙な魔獣に腰が引ける。鳥なんですか⁉︎ 蛇なんですか⁉︎
「食材調達の為、森で狩りをしようと思ってたら出くわした」
「だからって持ち帰らなくてもいいじゃないですか。埋めてきてくださいよ。怖いじゃないですか」
そう言えば、ガウルさんは気まずそうにシュンとしている。
「そうか、リリーは好きではないか……」
ん? どういう事? 首を捻るとフレドリックさんが声を上げた。
「うぉー! コカトリス‼︎ ガウルさん仕留めたの⁉︎ すげぇ‼︎ 今日はご馳走だな‼︎」
そうはしゃいでいる。
え、ちょっと待って。
「ねぇ、もしかして食べる気?」
そう問えば、フレドリックさんは「?」と首を捻る。
「え、だってコカトリスだよ⁉︎ 高級食材じゃん‼︎」
マジか……。
「高級食材……この鳥でも蛇でもない、グロいのが?」
「あぁ〜。リリーは知らないか。もしかしてリリーは魔獣食べた事ない?」
……ある。知らず知らずにワイルドボアとか食べてた。ソニアさんのワイルドボアの煮込み……美味しかったな。
「そっか、魔獣のお肉は美味しいんだったよね。忘れてた。でも、その……見た目が……」
「すまないリリー……森へ埋めて来る……」
ガウルさんは肩を落とし、コカトリスの尻尾、蛇の部分を掴むとズルズルと引きずった。
「リリー、ガウルさんかわいそう……きっとリリーに喜んでもらいたくて狩ってきたのに。」
あぁっ! 私ってばなんて酷い女なの‼︎
「ガウルさん、ごめん! 食材だとは思わなかったの! みんなの為に狩って来てくれたんだよね⁉︎ ごめんね!」
「うんうん。リリー、見た目で判断しちゃダメだぞ。何事も経験だ。何、心配しなくとも私が肉を取り分けてやろう。魔獣の解体は私の得意技だ。それならば怖くはないだろう」
そう言ってニヤリと笑ったアニーさんは、ガウルさんからコカトリスを受け取った。
あぁ、さっき私がアニーさんに言ったセリフ、そのまんま返ってきちゃったわね。
「うぅ。が、頑張ります。あ! 解体は是非、私の見てないところでお願いしますね。ガウルさん、食材調達ありがとうございました。きっと美味しく調理しますね」
「無理してないか……?」
「大丈夫です! 解体してもらってお肉になればきっと……」
折角ガウルさんが調達してきてくれたお肉だ。ありがたく調理させて頂くわ。




