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結ばれる二人

 パタン。


 扉を閉めた途端、私はベッドの中にいた。

「わぉ」

 そっか。呼ばれた瞬間に戻ったわけか。白昼夢を見たような奇妙な感覚に襲われる。


「リリー、起きたのか?」

「ん、アニーさんおはよう」

「おはよう、リリー」

 少しの物音でパッと目覚めるアニーさん。さすが、騎士なだけある。

 身支度を整え、アニーさんと二人でリビングに降りてみると、クラウスさんたち三人は目を覚まし朝の支度をしていた。

「おはようございます。皆さん昨日あんなに飲んだのに早起きですね」

 ベロンベロンに寄っていたフレドリックさんまで昨日の酔いを感じさせないほどシャキッとしていた。


「リリーが起きた気配を感じたからね。昨日は遅くまで済まなかった」

「いえ、私も楽しかったですし、その……クラウスさんとたくさん話ができたので……」

 昨日、手を握られ甘い顔を向けられた事を思い出してしまい、頬が熱くなる。朝から刺激が強すぎるわ。


「もしもーし、そこのお二人さん、僕たちもいるんだから忘れないでくださいよね」

 フレドリックさんにそう揶揄われ、ディランさんからは生温かい笑顔を頂き、アニーさんとガウルさんからも冷やかしの笑顔を頂いた。


「そうだ、皆さんに今日聞いていただきたい事があります。朝食を食べた後、少し私に時間を下さい」

 そう言って朝の支度をし、アニーさんに手伝ってもらいながら朝食の準備を進めた。


「相変わらずリリーのご飯はおいしそうだよね。しかも見たことない料理ばかり」

 フレドリックさんは毎度私の料理を褒めてくれる。人に料理を褒めてもらうのは嬉しい。


「今日はね、白パンに野菜やベーコン、卵を挟んだサンドウィッチよ」


本日の朝食メニュー

・卵サンド

・シャキシャキレタスのハムチーズサンド

・紫キャベツと鶏ムネ肉のヘルシーサンド

・香草スープ


サンドウィッチと言っても、食パンは無いので、丸い白パンに切れ込みを入れて具材を挟んだ。


「サンドウィッチ……初めて聞く名前だな。なるほど、パンに具材を挟んで食べるのか」

 ディランさんもサンドウィッチを手に取り、かぶり付いた。

「ん! この卵……普通の卵じゃないな。酸味と塩気が丁度良い。それに、この舌触り。まろやかで卵が溶けていくようだ。何を使えばこの味になるんだ」

 食レポ完璧です。ディランさんはマヨネーズの魅力に取り憑かれるだろう。


 食後のハーブティーを入れ、一息ついたところで私は皆んなに真実を語った。


「私がこれから話す内容は、普通に考えれば理解ができない内容かもしれません。ですが、私は皆さんを信じて話すことを決めました。なので、最後まで聞いてください」

 クラウスさんを見れば優しく頷いてくれた。


「私は……私はこの世界の人間ではありません。こことは別の異世界から、神の力によって世界を渡ってきました」

 どんな反応をされるのか不安で、みんなの反応を待たず、すぐさま言葉を続けた。


「私は元の世界で命を落とすところを神によって救われ、ある目的の為この世界にやってきました。その目的は、世界に溢れた魔素の浄化です。私の魂は魔素を取り込み浄化する力を持っていると、神様に聞きました。ディランさんもクラウスさんも、私より詳しく知っていると思いますが、元々この辺りは濃すぎる魔素のせいで人間が近づけない地域でした。私がこの地にやってきたのはクラウスさん達と出会う少し前です。そこから少しずつ魔素を浄化し今に至っています。ですが、この地の魔素はまだ浄化しきれていません。私を保護してくださるのはありがたいのですが、私には私のやるべき事が残っています。ここの浄化が終わっても、他の地の浄化の為、旅に出なければなりません。ですので、私は……私はっ……!」


 みんなと離れるのは嫌だ。クラウスさんに付いていきたい気持ちもある。だが、私にはまだまだやるべき事が。

 気付けば私は俯き涙を流していた。


 一気に真実を語り、後はみんなの反応を待つだけだったが、すぐにふわりと両手を握られた。

「ありがとう、リリー。こんな大事な事をよく私達に話してくれた。一人この世界にやってきて心細かっただろうに、寂しかっただろうに。でも、私はこの世界にリリーを送ってくれた神に感謝をしなければならない。こんなに素敵な女神と出会わせてくれたのだから。もう一度言うよ、私はリリーを信じるよ」


 クラウスさんの言葉に涙が溢れる。心細かった事も、寂しかった事も分かってくれたこの男性に、私の心は溶かされた。

「クラウスさん……」


「リリー、君は神の御使なんだね。道理で私の知らない魔法や、魔力を持っているはずだ。今の説明を聞いて納得できたよ。俺もリリーを信じるよ」

ディランさんは私の前で片膝をついてそう言ってくれた。

「俺はライアン殿下に忠誠を誓っているから、リリーに真の忠誠は誓えないけど、君の為に出来る事なら何だって協力するよ。だからリリーも俺を信じて何でも話してくれ」


 その後ろではフレドリックさん、アニーさん、ガウルさんも片膝を突いていた。

「真実を語ってくれてありがとう。我らもリリーを信じるよ」


「ありがとうみんな。私もみんなを信じるね。それで、あの、私そういうの慣れてないんで、どうしたらいいか分からないから立ってくれませんか?」

 そう言うとアニーさんはプッと吹き出し、立ち上がり私の頭を撫でてくれた。


「ふふふっ。リリー、これからもよろしくね」

「はい、アニーさん」


「リリー、少しいいか?」

 クラウスさんに呼ばれ、外へ出ようとしたところ、ディランさんに呼び止められた。


「あ、リリー。これから先のことを話し合いたいから後で時間をくれ。それまではゆっくりしてていいから」

「うん。分かった」

 簡単に返事をし、クラウスさんの元へと向かう。

 

クラウスさんはローズガーデンの前で私を待っていた。

「すまないね。リリーには一つ聞きたい事があって」

二人でローズガーデンの中へ入り、ゆっくりと歩く。色とりどりの種類も豊富な薔薇達が私達を迎えてくれる。

「何でしょう?」

「リリーは……世界の浄化が終わったらどうするつもりなんだい? 元の世界へ……帰るのかい?」

 ピタリと歩みを止めたクラウスさんが、俯いてそう言った。


「クラウスさん。私は二度と元の世界には戻れません。戻る事ができるのは命を落とすその瞬間だけだからです。私はこの世界で生涯を終えるまで生きていきます」

「そうか。辛い事を言わせてしまって悪かった。もし、リリーが浄化を終わらせ、私の元から去ってしまったらどうしようかと。身勝手だがそんな事を考えていた」

「大丈夫ですよ」

そう言って手を握れば、クラウスさんはそのまま私の手を引き寄せ、その胸の中へと閉じ込めた。


「クラウスさん⁉︎」

「すまない。リリー、そのまま聞いてくれ。初めて会った日、初めて目が合ったあの日、君は本当に女神だと思った。あの日から私の心は君に縛られたままだ。心の底から君が愛おしい。共に過ごした日々は数日だが、私は君を愛してるんだ。愛してるリリー」

 

 愛してる……その言葉に心が満たされるようだ。


「クラウスさん。私、さっきクラウスさんに、一人この世界へやってきて心細かっただろうって言ってもらえた時、とても嬉しかったの。私の気持ちを分かってくれて。あの言葉で今までの寂しさや悲しさが一気に溶けちゃった。貴方の隣にいると心が何故か騒ぐの。それでいて安らぎも感じるの。これって私も貴方に恋をしているのよね。まだまだやらなくちゃいけない事もいっぱいあるし、不安も尽きないけど、ずっと隣にいてくれる?」

 

 抱きしめてくれる彼の背にそっと腕を回す。


「もちろんだ。私もまだまだ力不足だし、リリーを不安にさせる事もあるかも知れない。だが、君を愛する気持ちはこの先ずっと変わらない。愛してるよリリー」

「うん。ありがとうクラウスさん。私も愛してる」


 クラウスさんはそのまま私に口付けを落とし、再び抱きしめてくれた。

 それだけで私の心は満たされ、幸福に酔いしれる。


 この先、きっと何があっても大丈夫。この人がいればどんな困難も乗り越えられる。そう感じたのだった。


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