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それぞれの思い

~クラウス編~


 待ち望んだ再会は二人のメイドによって阻止された。

「お静かに。どうかそのままお待ち下さい」

 奥を見れば、待ち望んだ私の女神が膨大な魔力を操っていた。

「なんという事だ……」

 隣ではディランが真剣な表情でその様子を見届けている。

 駆けつけたい気持ちを抑え、彼女の様子を窺っていると、術を終えたのか光が収束していく。

「危ない!」

 彼女は術を終えるとグラリと傾く。気が付けば私はリリーの元へ駆け寄り、その細い体を抱きしめていた。


「リリー」と声をかければ、彼女はキョトンとして私の名を呼んだ。

 あぁ……名を呼ばれただけで私の心は浮き立つ。


 だが、抱きしめていたその彼女は不思議な力とともに私の腕の中から消え去った。

『何知らない男の腕の中にいるんだよ』

 私の知らない赤髪の青年が彼女を抱きしめそう叫んだ。

 正直、その姿とその言葉を聞き、私は今までにないショックを受けた。

 その男は? リリーの何だ?

 彼女もその青年に抱きしめられ、嫌な顔をしていない……

 ガラガラと崩れそうになった私の心は、その後に知ることとなった青年の正体により、何とか持ちこたえた。

 フレドリックに精霊の存在を聞いてはいたが、初めて見るその姿はまるで人間そのもの。

 だが、両腕が植物の枝に変化した時は驚き、身構えてしまった。やはり、彼は精霊なのだと実感した。


 その後現れた神獣にも驚かされ、リリーの魔法の仕組みについても驚かされ、彼女を見ていると本当に飽きない。


 隣では私の肩に頭を寄せ眠るリリーがいる。ずっと会いたくて、愛おしくて、私の心は彼女に縛られ離れられない。


 あの日、髪を撫でられ薄く目を開けたあの瞬間。あの時に私の心は彼女に奪われたのだ。


 愛おしい君にこの気持ちを伝えたら、どんな反応をしてくれるだろう。この気持ちは受け入れてもらえるだろうか。

 甘く切ないこの気持ちは、後にフレドリックにより邪魔され伝えそびれてしまうのだが、いつまでも変わらないだろうその気持ちはリリーへと注がれるのだった。



~ロジー、スノー編~


『お前、よく飛び出さなかったな。正直感心したぞ』

 スノーは目の前にいる赤髪の精霊、ロジーにそう告げた。

『本当は凄く飛び出したかったさ。あんな……手なんか握っちゃってさ……本当は邪魔したかったけど……リリーのあの顔を見たらそんな事出来ないじゃん。完全にあの男に心傾いちゃってるもん』

 ブスッと不機嫌そうな顔で答えるロジー。

『私もリリーの事は大事だが、いくらリリーを想っていても、所詮我々は人間とは違う存在だ』

『そんな事分かってるよ。リリーには幸せになって欲しいし、なるべく邪魔はしたくないけど……でも悔しいんだよ』

『ふふふ、それは仕方がないさ。私も少しはあの男に思うところはある。ロジーのその気持ちは分かるよ。私達は私達なりに彼女を想っていればいいさ。それが私達のリリーへの愛なんだから』

『分かってるって。僕達は生きる時間が違うしね。いつまでも……リリーがその生涯を終えるまで愛し続けるさ』

『ああ。私もその時まで守り続けるよ』


 彼らなりのリリーへの愛は変わることなく続くだろう。

 時々ヤキモチ焼きの精霊に邪魔され、無駄に妖艶な神獣に弄ばれたりもするが……


~ディランと特務部隊編~


「お前さ、ほんとアレはないわ」

「え? なんの話?」

 リリーの家でディナーを共にした翌朝、フレドリックはアニーに説教をくらっていた。

「俺もまさかあそこでお前が邪魔するとは思わなかったぞ」

「俺も……クラウスには同情する……」

 フレドリックは皆にそう言われたがなんの事か分からない。

「お前、まさか覚えてないなんて言わないよな!?」

「あ、いや〜。実は楽しかったのは覚えてるけど、半分くらい覚えてません……俺、何かしました?」

 アニー、ディラン、ガウルは深い溜息をつき、昨夜の出来事をフレドリックに言って聞かせた。


「ま、マジですか……全然覚えてない……何でそんないい所覚えてないんだ〜」

 ガツン!!

「そういう事じゃないだろう!」

 アニーによって再びフレドリックの頭に鉄拳が落ちた。

「全く……いいか、今まで女性不信だったあのクラウスがようやく心を開いた女性だ。俺はあいつに幸せになって欲しい。次邪魔したらどうなるか覚えてろよ」

 クラウスの古くからの友人であるディランは、そう言ってフレドリックに釘を刺した。

「うっ……」


「俺もあの二人が上手くいく事を願うよ。彼女はちょっと変わってるが、俺を見ても外見で判断することなく接してくれた。きっとクラウスを幸せにしてくれるとそう信じてる」

 いつもは多くを語らないガウルだが、この日は特別口数が多く、その姿に他の者も驚きを隠せないでいた。


 願わくはあの二人が幸せになりますように。



~ミラ、ジェフリー編~


「ジェフリーさん、やっぱりリリー王都に行っちゃうのかな……」

 不安げな声でそう言ったのは、リリーの初めての友人であるミラだ。

「そうだね。父さんが伯爵様から聞いた話だと、特務部隊の騎士様たちはリリーを迎えに来たみたいなんだよね」

「やっぱり……」

「リリーのあの力は特別だし、保護されるのは時間の問題だと思ってたけど、早かったな……」

「うん……あの日、リリーから真実を聞いた時はほんとに驚いたけど、そう考えるとリリーがこの地を離れるのは時間の問題だったもんね」

「世界を浄化するって言ってたから、王都にずっと滞在するわけじゃないだろうし、きっとまた会いに来てくれるよ」

「そうね。寂しくなるけどリリーと再会したその時、この村のハーブで迎えましょう。あたし、リリーがびっくりするくらい立派になるわ」

「うん。ミラちゃんならきっと出来るよ」


 ミラの淡い恋心も、次にリリーと再会する時までどんな進展があるだろうか。

 この二人の行く末も、リリーにとって気になるところだ。




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