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金銭感覚

「しょうがない子だね。あたしで良ければこの国の通貨を教えるよ。ふふふふっ」

 何とも有難い提案をいただき、まだ赤い顔を手でパタパタと扇ぐ。女将さんはまだ笑っていた。

「うぅぅぅ。もぅ、笑いすぎです女将さん。お願いします」

「あたしのことはソニアと呼んでおくれ。あんたの名前は?」

「素敵なお名前ですね、ソニアさん。私の名前はリリーです。リリーは花の名前なんですよ。それと、私の知ってる花に【サンダーソニア】っていうオレンジ色の花があるんです。ソニアさんと同じ髪の色の」


二人の花の名前の共通点。不思議な縁を感じて嬉しくなる。

「サンダーソニア。聞いたことない名前だね。そうかい、オレンジ色の花の名前ね。何だかくすぐったいね」

 そう言うソニアさんは何だか嬉しそうだ。


「それじゃあリリー、これからこの国の通貨を教えるからね。しっかり聞いておくんだよ」

「よろしくお願いします。ソニア先生!」

 二人で顔を見合わせ笑い合う。


「まずは種類だけれども、小さい単価から【石貨】【銅貨】【銀貨】【金貨】【大金貨】【白金貨】の六つだね」

 ソニアさんが左から順に金貨までを並べていく。

「白金貨と大金貨は滅多なことでは使わないからね、うちには置いてないんだよ」

「白金石ってことは、プラチナなんでしょうか?」

「そうだね。透き通った綺麗な石に白金色の縁取りがされてある硬貨だよ。他の硬貨と比べて劣化しないのが特徴だね」

「そして相場だけど、ここでは石貨一つでリンクの実一つってとこだね」

「はい。先生! リンクの実って何ですか?」

「はぁぁ。そこからかい」

 もうこうなれば何を聞くのも怖くない。

「ちょっと待ってな」

 ソニアさんは椅子から立ち上がると奥のキッチンへ入って行き、籠に入った黄緑色の小ぶりな実の山を持ってきた。

「ほら、これがリンクの実だよ。一つ食べてみな」

 そう言い手渡してきた。ツヤツヤ光る実はテニスボールくらいのサイズで、黄緑色が美しい。

「いただきます」

 そう言い、ひとかじり。シャクシャクと歯ごたえがよく、爽やかな風味が口に広がる。リンゴっぽいかな? あ、青リンゴかも。

「爽やかで美味しいですね」

「リンクの実は土地を選ばずどこにでもなるから価値は低いのさ。その他の例えだと、うちの定食は銅貨五枚。あとは、宿泊なら銀貨三枚。金貨になると、ここから隣町までの馬車代で金貨二枚ってとこだね」

 分かりやすいように食べ物や宿泊費で説明してくれたので、何となく分かってきた。多分だけど、私の感覚で


石貨=十円

銅貨=百円

銀貨=千円

金貨=万円

大金貨=十万円

白金貨=百万円


 こんな感じなのだろう。


「何となく分かりました。ありがとうございますソニアさん。それで、さっきのジャムの金額ですけど、私の聞き間違いでなければ銀貨三枚って言ってませんでした? 銀貨三枚ってここに一泊出来るじゃないですか! 金銭感覚おかしくなってますよ! たかだかジャム一瓶ですよ?」

「ああ。そのくらいは出してもいいと思ってるよ。王都に行けばもっと高額になるだろうね」

「いやいやいや、ダメですよ。精々銅貨五枚です! そう、銅貨五枚で買い取ってください」

「馬鹿な子だね。そんなんじゃぼったくりもいいとこだよ」

「ば、馬鹿とはなんです馬鹿とは。まぁ、馬鹿だけど、そんな値段では売りませんよ。そもそもこの村の人達に食べてほしいんだからそんなに高くしちゃ村の人に買って貰えませんよ」

「うっ。確かに、まぁ、そうだけど。それでも銅貨五枚はないだろ」

「私がいいって言ったんだからいいんです。銅貨五枚以外では売りません」

 と、売る側と買う側の値切り交渉が逆転したおかしな商談を、ソニアさんが

「分かったよ、それじゃあ条件を一つだけ。もし、もしもだよ、この村以外の隣町とか王都とかで売る事になったら、ちゃんとその場の相場に合わせて値段を上げること。隣町なら銀貨三枚! 王都なら銀貨五枚ってね!」

 とぶった切った。

「分かりました。ちゃんとぼったくられないように考えて販売します」

 きっとソニアさんは私のことを考えて言ってくれているのだろう。なんてったって馬鹿な子だからね。

 確かに栄えている街で、貴重とされている砂糖の代わりになるであろう甘味を銅貨五枚なんて、ぼったくりもいいとこだろう。王都へ行けば物価も上がるのだから。

「ソニアさん。ありがとうね心配してくれて」


「それじゃあソニアさん、こちらルビーベリーのジャム五つと、グリーンフルーツのジャム五つです。一つ銅貨五枚でお願いします」

 机の上に並んだジャムのビンをソニアさんに渡す。

「ありがとね。もうこれ以上は何も言わないよ。有難く買わせてもらうよ。ここの食堂はね、村の人達も食べに来てくれるからあんたのジャムもここでみんなに食べてもらうことにするよ」

 そう言うとソニアさんは革の袋から銀貨五枚を取り出し渡してくれた。

「ありがとうございます。ここの村の人でこのジャムを欲しいって言ってくれる人がいたら、また今度売りに来ますからその時にって伝えてください」

「分かった。伝えておくよ。それじゃあ、今日はありがとうね。また何かあったら売りに来ておくれ」


そう言って席を立ったソニアさんだったが、まだまだ買い取ってもらいたいものがある。


「あ、まだ他にもあるんですけど見てもらえませんか?」

 と告げアイテムボックスの中からキンキツの実のコンポート×五、カモミールの安眠ハーブティー×十、スペアミントのうがい薬×十、ラベンダーの魔力回復ポプリ×十、魔獣避けサシェ×十、ステビアシロップ×十を取り出した。

「こんなに沢山。これ全部あんた一人で作ったんだろ? 驚くのを通り越して呆れるよ。それに見たことのないものばかりだね」

そう言うソニアさんにまた試食を勧めてみる。


「まずはキンキツの実のコンポートです。これは森の中で採取した実を綺麗に洗って下手を取り、半分に切ったら種を取り除いて、皮ごとステビアシロップで煮たものです。どうぞ」

「キンキツって、あの果実の少ない小さい実かい? あんなものこの辺の人間は食べなよ? それに皮ごとだって?」

 眉を寄せ、信じられないとばかりに疑うソニアさん。

「まぁ、まずは食べてみてください」

「そうね。あんたが作ったものなら美味しいのかもね。頂くよ」


 スプーンに取ったコンポートを目の高さまで持っていき、角度を変えながら見入っていたソニアさんはパクリと食べた。

「これは……‼︎ ただ甘いだけでなくホロリと苦味もあって美味しいね。それに柑橘の風味も良いね」

「キンキツの実は喉にもいいので、風邪をひいた時にはこのシロップをお湯で割って飲めば、体も温まって喉の痛みも和らぐと思いますよ。これは少し手間がかかるので銅貨八枚が妥当かと」


 日本には金柑のど飴が喉に良いと売られていたので、きっとキンキツの実も喉にいいはず。そう思い活用法をオススメしておいた。


「それで、この液体がステビアシロップです。この液があれば自分で採ってきた果実をジャムにすることも出来るし、お料理にも使えるので便利だと思います。これは銅貨三枚くらいかな?」

「これがあの甘いシロップかい。砂糖とは違うんだよね。こんな良いものが銅貨三枚とは。本当にそんな金額でいいのかい?」

「これはステビアの葉を粗く切って水に浸して丸一日置いて、出来た抽出液を煮詰めただけの物なのでとても簡単なんですよ」

 ほぼ放ったらかしで出来る物なので低価格でご提供。


「次はですね、スペアミントのうがい薬です。これもハーブの一種でミントというスースーする香りのハーブです。この液体は原液なので、コップに数滴垂らして水で薄めて使います。実はこのハーブ、感染症にも効果を発揮するのでは? と私の一族は考えていました」

 確か鑑定した時に【異世界特有の感染症に効果を発揮する】と書いてあったのを思い出す。どんなに文明が進んでいても感染症などの病気は怖いものだ。


「これは薬? あんたもしかして薬師なのかい?」

「いえ、違いますよ。うちの先祖の代から受け継がれたただの家庭の薬学です。ですので、効果が定かではありません。こちらは一瓶銅貨一枚で販売しますのでお試ししてください」


 さすがに見たことも聞いたこともない薬に高いお金を払って買いに来る人はいないだろう。ここは価格を低くして気休め程度に買ってもらえるくらいで売ってみるのが良さそうだ。

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