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帰還

「リリー、さすがに私もさっきの反応には驚いたよ……ガウルはね、虎人族と言って虎の亜人なんだ。そしてガウルのような肉食系の亜人は通常女性には怖がられるんだよ。リリーは肝が据わってるし、ガウルの顔を見ても慣れてくれれば恐れられないだろうと思ったんだが……意外すぎた……」


 しばらくアニーさんにホールドされた後、ようやく離してもらえた。

「リリーは亜人族を見るのは初めてかい?」

 アニーさんにそう聞かれ、首を縦に振った。

「俺もこの反応は初めてだ。大体女性は俺の顔を見ると怯えるから……」


 シュンとしたそんな姿もギャップが相まって可愛い。

「何でかな〜? こんなにモフモフしてて可愛いのに……」

「「「「「リリー変わってるね」」」」」

 五人の息がピッタリと合った瞬間だった。


「それじゃあガウルさんもよろしくお願いします」

そう言って握手を求めるも

「あ、俺の手は鋭い爪があるから……」

 と、握手はして貰えず、その代わりにと大きな体を屈め片膝をつき頭を差し出した。

「さっき、耳と言っていたな」

「いいんですか⁉︎」

 そう言うと、ピコピコと耳が動く。

…………キュン。

 そっと手を差し出すと優しく耳を触る。


 はぁぁぁぁ、モフモフ最高……

 本当は頭なでなでしたがったが、さすがにガウルさんも大人ですし、失礼かと思って耐えた。グッッッッと耐えた。

「私達、仲良くなれそうですね!」


 リリーとガウルを除く四人はその姿を呆れたように見ていた。

「やっぱリリーは流石と言うか、何と言うか……格が違うね」

「リリーは亜人族が好きなのだろうか……」

「ガウルも人間の女性にあんなに触れられるのは初めてだろうね。見てよあの顔。ふふふっ」

「きっと俺の事など忘れてるだろうな。魔法……いつになったら教えてくれるかな」

 四人の深いため息はまたピッタリと合った。


 クラウスさんからの説明で、今日ここに来ているのはクラウスさんを入れて四人。顔馴染みと言うことでクラウスさんとフレドリックさんは勿論、私が女性なのを考慮して同じ女性のアニーさん、クラウスさんの信頼が厚いガウルさんの少数で保護に来たそうだ。


 保護……か。私的には世界を巡って魔素の浄化を進めたいから王都に呼ばれてそこから動けなくなる……って事だけは避けたいのよね。まぁ、そこはクラウスさんやディランさんに相談して、お願いを聞いてもらうしかないのかな。


「リリー、そろそろいいかな?」

 ソワソワとディランさんが話しかけてくる。

「あ、ディランさんごめんなさい。話が中断しちゃいましたね。えっと、記憶操作の魔法ですよね」

 キラキラと目を輝かせるディランさん。

 あぁ、この人ほんとに魔法について知りたいだけなのね。さっきも王国の中でトップクラスって言ってたし、きっと勉強熱心なんだろうな。

 クラウスさん達特務部隊も興味津々で耳を傾けてくれる。


「まず、私が使える魔法ですけど、水魔法と土魔法が得意です。次に風魔法もやや得意です。火魔法、雷魔法は制御が苦手なのであまり使っていません。あとは……治癒魔法ですかね。闇魔法は隠匿の魔法くらいしか使えません」

「「「「「え?」」」」」

「はい?」

「待って待って待って……リリーって得意不得意はあるけど全属性の魔法使えるってこと?」

「え? 皆さんそうなんじゃないですか?」


シン…………と静まり返って間もなく、「いやいやいやいや!」と私が常識だと思っていた事を覆された。

 ディランさんに説明してもらったところ、多くの魔道士は一つの属性が使えるだけで、稀に二つの属性を使える者もいるが、使えると言っても片方の属性がしょぼかったり、二つの属性が均等に中途半端になったりするそうだ。

 因みにディランさんはその中でも特別で、治癒魔法と雷魔法以外は全てある程度使えるそうだ。さすがトップクラス。

 あとでクラウスさんがコソコソと教えてくれたのだが、ディランさんはトップクラスどころか王国一の魔道士なんだとか。


「リリー、今聞いた中だとどうやって記憶操作に行き着くか分からないんだけど、それからどうするの?」

「あ、それでですね、基本の魔法はさっき言った通りで、私の場合そこにハーブが加わるんです」

「ハーブ……と言うと、あのカモミールティーなどに使われている薬草の一種の事?」

「ええ。さっきは水魔法で作った水球にこのセント・ジョーンズ・ワートを乾燥させた物を入れて魔力を込めて蒸気にしたんです」

 アイテムボックスからセント・ジョーンズ・ワートを取り出し見てもらう。

「うーん、やっぱり俺も見たことがない薬草だな……薬草学もある程度学んだが、専門ではないからな」


 でしょうね。だって地球の植物だもん。


「それで、この植物が記憶を消す力を持ってると……」

「あ、いえ。本来のセント・ジョーンズ・ワートはティーなどにして飲むと、不安を取り除き、塞いだ心を落ち着かせる効果があるんです」


 ただ、地球ではセント・ジョーンズ・ワートの効果は様々な薬との相性が悪いって言われてるから、使用には注意が必要だったはず。確か、ピルや一部の抗がん剤が含まれていたはずだわ。まぁ、この世界では無用の心配でしょうけどね。


「ただ、そこに魔力を注ぐと別の効果が現れるみたいで、いつもティーにしているハーブも魔力を加えると違う効果が出るんです」

「なるほど。リリーはどちらかと言うと薬師の分類に入るのかもしれないな」

 薬師? 今まで静かに話を聞いていたクラウスさんがそんなことを言う。

「なるほど。仕組みは何とか理解しました。それで、リリーには頼みたいことが」

「頼みたいこと……」

「ええ。神獣様の件についてです。この数百年、世界で神獣様が降り立つことはありませんでした。この先、神獣様が世界に現れたと知られれば、混乱が生じるでしょう。そこでリリーにお願いしたいのは、できるのなら、私を含めた特務部隊以外の騎士から神獣様の記憶を消去して欲しいんだ。神獣様の件を極秘扱いにして欲しい」


 ああ、なるほどね。何となく分かるわ。それに、スノーも私達も騒がれるのは嫌だもの。


「分かりました。怪我をしている騎士様もいるようなので、回復も兼ねて一部の記憶を頂きます。人数は多いけどスノーの記憶だけを消去するだけなのでそんなに時間はかからないと思います」

「良かった!」


「まぁ、ディラン様の場合リリーが実際に魔法を使う所見てみたいってのも大きいと思うけどね……」

 フレドリックの呟きはリリーまで届かなかったが、クラウス、アニー、ガウルの三名はうんうんと頷いていたのだった。


「ああ、丁度いいタイミングだね。出発準備が整ったようだよ」

 ディランさんはそう言って消音魔道具(サイレンサー)を切った。

 ディランさんは出発準備が整った事を伝えに来た騎士様へ「リリー様が傷を癒してくれるそうだから集まるように」そう、伝えていた。


私達が騎士様の元へ行くと、全員一箇所に集まっており、片膝を突いて待っていてくれた。

「皆さん、女性方の救出ありがとうございました。皆さんには感謝の意を込め、回復魔法をかけさせて頂きます。どうかそのままで……」


 クラウスさん達には私の後ろに下がってもらい、記憶操作の影響を受けないようにしてもらう。

 先程と同じように、セント・ジョーンズ・ワートの水球を作り、蒸発させ回復魔法を唱える。

 人数が多い分、範囲も広くなる訳だが、輝く靄はそう時間をかけずにフッと消えた。

 騎士たちの体からは魔獣との戦いで受けた傷は消え、騎士達からはどっと歓声か上がった。


「多分、成功していると思いますが、後でさりげなく確認して下さい」

 そう伝えるとディランさんは満足そうに頷いたのだった。


「さあ、皆さん。街へ帰りましょう」


 街へ帰る幌馬車の中、さすがに徹夜はキツかったのか、私はクラウスさんにもたれ掛かりいつの間にか眠りについてしまった。

その姿を向かいの席で見ていたアニーさんによると、そのクラウスさんの顔は見てるこっちが恥ずかしくなるくらい甘かったそうで、しばらく冷やかしの対象になったのは言うまでもない事……






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