終結
遅くなりました!取り敢えず、大きなお話はもうすぐ一区切り。またしばらくリリーのスローライフの後、次の大きなお話へと移ります。
まだまだお話は続きますので引き続きお付き合い下さい。
そして、ブックマーク、評価、いつも誤字報告をしてくださる方々、ありがとうございます。
女神だけはやめて下さい。ホント。
私の訴えを受けディランさんは柔らかな笑みを浮かべた。
「承知しました。それではリリー様とお呼びしてもよろしいですか?」
「敬称はいりません。リリーとお呼びください」
この方もファミリーネームがあった。という事は貴族だ。貴族様に様なんて付けられる身分は持ち合わせていない。
「とんでもございません。我が国の客人として迎える方に呼び捨てなど。リリー様と呼ばせて頂きます」
「別に気にしないのに」
あぁ、この人多分何を言っても無駄そうね……諦めるか……
ってか、私さっき普通にクラウスさん、フレドリックさんって呼んじゃったわね。私こそちゃんと敬称つけて呼ばないと……
「今更ですが、クラウス様、フレドリック様。貴方方のご身分を知らずとは言え、あの時は失礼な物言い申し訳ございませんでした。あ、あれ? 間違った。名前で呼ぶんじゃなかったわよね? ウィンザーベルク様? ブラバンドール様? ん?」
一人で自問自答してると思いっきり吹き出して笑われた。
「リリー、今更呼び名なんてどうでもいいよ。本当は俺たちだってリリー様って呼ばなきゃいけないんだろうけど……ここはおあいこって事で今まで通りに呼んでいいかな? ね? 隊長」
「私もそのように願うよ。今まで通りに呼んでくれると嬉しい。それと……その、そこの彼とはどんな関係か教えてくれないか?」
クラウスさんはロジーの事が気になってる様子。私と会話しながらもチラリチラリとロジーを見ている。
「ロジー、冗談抜きでご挨拶して」
またふざけて『恋人です』とか言われると面倒なので釘を刺す。
『しょうがないなぁ……忘れちゃったの? もう一度痛い目に遭ってみる? 思い出すかもよ?』
ロジーは両腕を枝に変化させると、その先端に深紅の薔薇を咲かせた。
クラウスさんとディランさんは目の前の出来事に後退りをした。
「あーーーーー‼︎ あの時の‼︎」
ロジーを指差して青い顔をするフレドリックさん。
『思い出した?』
「隊長! 隊長は覚えてないと思うけど、あの時リリーの家の前にあったあの薔薇‼︎」
さすがに痛い思いをしたフレドリックさんは瞬時に思い出したようだ。私もあの光景は忘れる事が出来ないくらい鮮烈だったもの。
「リリー、彼はもしかして……」
「そう、あの時フレドリックさんが教えてくれたよね? ロジーはあの花の精霊よ」
「精霊⁉︎ 精霊と心を通わせることが出来る人間がいるなんて……」
一番驚いていたのはディランさんだった。
「そうか、私は気を失っていたから分からなかったが、彼は精霊か」
なんでだろう、クラウスさんはほっとしているみたい。
「それよりクラウスさん、ここの女性達の保護お願いします。子爵に捕らえられていた女性達です。先程、彼女達の体の傷を癒し、記憶の一部を消去しました。しばらく意識は戻らないと思います」
「記憶を消去⁉︎」
「ええ。本来なら伯爵様の元で子爵邸での出来事を聴取されたりするんでしょうけど……あまりにも彼女達が不憫で……私の一存で勝手な真似をしたのは申し訳ないと思ったのですが、一部記憶を消去させて頂きました。伯爵様には後で叱られる覚悟は出来てます。あ、その代わり、子爵の執事ネルソンさんには一部始終全て話してもらう事を約束して頂いてます。ネルソンさんに関しては娘二人を子爵に人質に取られ、仕方なく言いなりになっていた様ですので、その辺も考慮して頂ければと……」
またディランさんが驚いている。
「ああ、分かった。ブローディア伯爵の騎士もすぐ側に来ている。彼らに任せよう。フレドリック、ここまで呼んできてくれ」
「了解です」
フレドリックさんは急いで階段を登って行った。
『リリー、聞こえるか』
とそこで、スノーから念話が届いた。
「スノー、無事?」
『当たり前だ。魔獣など敵ではない。ほとんどの魔獣は殲滅した。少々打ち漏らしてしまったがそっちは大丈夫か?』
「こっちも大丈夫よ。屋敷内に騎士様達が到着して魔獣狩りをしてくれているわ。ロジーも無事よ」
『そうか。それでは地上で会おう』
「リリー、どうかしたかい?」
「あ、ごめんなさい。もう一人の味方から念話が届いたから……。地上の魔獣は殲滅したそうよ」
「念話? それは一体……」
「ごめんなさい、説明が複雑なので後で説明しますね」
あ、そうだ。
「ロジー、ネルソンさん達は?」
『あのおっさんならほかのメイドと子爵と一緒に、あの伯爵の騎士に預けてきた。ちゃんと保護してくれただろうよ』
「そっか。ありがとね」
ロジーと会話していると、階段を降りてくる複数の足音が聞こえる。
「リリー、連れてきたよ」
「ありがとうございます」
階段を振り向くとそこには数人の騎士たちが私に向かって膝を着いた。
「お迎えに上がりました。ブローディア伯爵様がお待ちです。さぁ、参りましょう」
そう言って何故か私を連れて行こうとする。
「え? あの、私じゃなくてこの女性達を優先してくださいませんか? 貴方方の任務はこの女性達を救出する事ですよね? 意識がありませんので優しく運んであげてください。それと、ノーラ、ハンナさん、ヘレナさんあなた達も騎士様に保護して貰って」
騎士達にそう伝え女性達を運んでもらう。彼女達は丁重に扱われ、無事に家族の元へ返されるだろう。その前にもう一度顔を出して様子を見に行こう。
「魔女様……本当にありがとうございました。魔女様がいなかったら私……」
フラフラと私の手を握り、緊張からの解放と安堵からノーラは気を失うようにして眠ってしまった。
「よく頑張ったね」
ノーラを騎士様に預け、ハンナさんとヘレナさんを見送った。
「さて、それじゃあ私達も地上に戻りましょう。さすがに疲れたわ」
外へ出ると、丁度夜が明ける所だった。辺りはまだ薄暗いが東の空が赤く染っていた。
「綺麗な朝焼けね……」
屋敷の外へ出ると、騎士達が何故か膝を突き頭を下げている。
「あれ? どうしたのかしら?」
ふと、クラウスさん達の方を見てみると、全員同じ方を見て固まっている。その後すぐにクラウスさん達も膝を突き頭を下げた。皆が頭を下げるその先を見れば一体の馬が神秘的な輝きを放ち、崇められていた。
スノー……
「リリー、頭を下げて。あれは神獣だ。どうしてこんな所にいるのか分からないが……とにかく頭を下げて」
クラウスさんはスノーに見惚れていた私にそう声をかける。神獣を見て固まっているのだと思われたのだろう。
「あ〜、あの、実はですね……」
そう言ってクラウスさんに説明しようとしたのだが、スノーは騎士達をかき分け私の元へやって来た。
『リリー、どこも怪我はないな』
スノーは騎士達などお構い無しに私に話しかけた。
「うん。スノーのおかげよ。ありがとうね」
そう言っていつものようにスノーの頬を撫でた。
「クラウスさん、驚かせてごめんなさい。さっき味方がもう一人いると言いましたよね。その……彼がその味方で……ね、スノー。皆に頭上げてもらってもいいよね? これじゃあ会話ができないわ」
『リリーがいいなら構わないよ』
「って事なので、頭を上げてもらっていいですか?」
騎士たちの数人はそわそわと隣の騎士と話している。
クラウスさんたちはと言うと……私とスノーを見上げ、完全に固まっていた。
そりゃそうよね、伝説の神獣と呼ばれているスレイプニルが人間の前に現れ、私なんかと会話なんてしてるんだもの。
「ねぇスノー、何かこのままじゃ皆動けなさそうだから人型になってくれる?」
まぁ、中身が変わるわけじゃないから一緒かもしれないけど。
『リリーがそう言うなら』
眩い光とともにスノーの体が輝くと、その光は次第に小さくなり、いつもの人型のスノーが現れた。
「ありがとね」
私の言葉にスノーは柔らかく微笑んだのだった。
ーーーーそこから大分離れた小高い丘……そこにはギリリと歯を食いしばり憎悪と怒気にまみれた一人の女……ベラドンナが遠く離れた子爵邸を見下ろしていた。
「おのれ……あの女……許すものか……必ず報復してやる‼︎」
体中にどす黒い魔素を纏わせ、ベラドンナは子爵邸から去る時と同じように、シュルリとその姿を消した。
果たしてベラドンナの思惑、そしてサラセニアの企みとは一体何なのか。そしてリリーに一体どんな試練が待ち受けるのか。それはしばらく誰にも分からない事。
また、世界の遠く離れた白の世界では神がその行く末を見守っていた。
『期待以上の働きをしてくれているの。ここまで力を発揮するとは儂も思わんかったわい。その内、あの娘を呼んでまた茶でも飲みたいのぉ』
神の独り言が実現するまでそう時間はかからないだろう。
『【輝かしい未来】か……』
以前、リリーに教えて貰った花言葉。それを思い出し、一人表情を緩めるのだった。