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子爵とベラドンナ

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「ご紹介致します。レール子爵邸の主、ルドルフ・レール子爵様にございます」

 目の前には腕を組み、椅子に踏ん反り返りニヤニヤとこちらを見る男性。そう、感謝祭の時に現れたあの男性だ。不本意だが一応貴族なので、まずはこちらから挨拶をしなければならない。


「本日はお招き頂きありがとうございます。魔女、リリーでございます」

 ノーラに目で合図を送ると、ノーラも私に続き挨拶をする。


「やはり私の目に狂いはなかったな。クックックッ……魔女も平民もどちらもそそられる……」

 会ってすぐそれか。ジェフに聞いていたけど本当にゲスね……


 子爵は私たち二人を上から下まで舐めるような視線を送ってくる。子爵の斜め後ろに控えるネルソンさんは終始俯いてこちらを見ようとはしない。


「レール様? 本日お招き頂いたのはどのようなご要件でしょうか? (わたくし)、西の森より参りましたのでこの辺りの事に疎いんですの。お教え頂けますか?」

 あえてとぼけて質問してみると、子爵は一瞬目を見開き、直ぐにまたニヤリと笑った。


「そうか。お前、この辺りの者では無いのか。そう言えば、街で魔女と噂されていたが、魔法は使えるのか?」

 お前……ね。なんて横柄な態度なのかしら。同じ貴族でもブローディア伯爵様とは大違い。それに私が言ったことの意味分かってないのかしら? なぜ呼んだかを聞いたのにね。


「いえ、とんでもございません。(わたくし)が魔女と言われる由縁は、効果の高いハーブ商品を扱っているうちに、周囲の者がそう呼んだだけのことですので。魔法は使えませんわ」

 魔法を使えると知られれば警戒されるかもしれないので、秘密にしておかないと……一応この屋敷に来る前に、隠匿の魔法で私の魔力を察知されないようにしてきた。


 この数ヶ月、スノーに教えてもらいながら魔法の勉強をし、この世界で役に立ちそうな魔法を色々と教えて貰ったのだ。

 ちなみに家を出発する際、留守中に何かあるかもしれないので家の敷地全体に隠匿の魔法をかけてきた。


 そのおかげでクラウスたちがリリーの家を見つけられなかったのだが……


「そうか、魔法を使えたならば違う使い道もあったが……」

 ボソリとそう呟いたのを私は聞き逃さなかった。使い道……人を道具扱いするとは。その辺の事も後で根掘り葉掘り調べてやるわ。


「まぁ、良い。お前たちにはしばらくこの屋敷で過ごしてもらう。ここでのルールは一つだけ、私が呼んだら必ず応じること、これだけだ。分かったな」

「分かりましたわ」

「はい」


 そう言った所でこの部屋の外からどんよりとした魔力を感じた。その魔力はどんどんと近づいてくるようだった。

(ロジー、スノー何かしら?)

『この屋敷に誰か魔法使いがいるみたいだね』

『恐らく闇魔法の使い手だろうな』


 どんよりとした魔力はこの部屋の前で止まったようだ。すると、ノックもなしに扉が開き三十代ほどの女性が入ってきた。

「おや、また新しい女を手に入れたのかい。全く……飽きないもんなのかね?」

 女性は濃い紫の髪を耳にかけながら、呆れたように子爵を見つめた。


(このどんよりとした魔力はやっぱりこの女性から発せられてるみたいね)

『今は下手に目立たない方がいいね』

『そのようだな。どんな相手か見極めるまでは大人しくしておいた方が良さそうだ』


「ああ、ベラドンナ殿でしたか。今日は約束の日ではなかったと思いますが、いかがなされました?」

 ベラドンナと呼ばれた女性は、一度私たちの方を一瞥したが、興味なさげに子爵との会話へと戻る。

「ああ、実は数日前からブローディアで強い魔力を感じてね。使えそうな人間ならば拾って行こうかと思ってんだが……ふと、数時間前に突然気配が消えてね。そなたなら何か知っているかと思って立ち寄った訳さ。丁度ブローディアへ行っていた頃だと思うが……なにか心当たりは?」


 まずい……! それ、きっと私の事だ!!

『リリー、落ち着いて。リリーの隠匿の魔法は完璧だ。少しも魔力は漏れてないからこのまま知らないフリで大丈夫』

 内心焦ってしまったが、スノーの言葉に落ち着きを取り戻す。


「思い当たる所と言われましても……私は魔力持ちではないので分かりません……」

「まぁ、そうであろうな。期待はしてないが一応聞いてみただけさ。全く、この国の者共は魔力を持たぬものが多くて使えぬ。やはり、この世界を統べるのは我が祖国、サラセニアの他にはないな」


 サラセニア……やはり、子爵はサラセニアと繋がっていた。一体何を企んでいるの? 連れてこられた女性たちはどこ?

 気持ちばかりが先走るが、ここでバレてしまっては何もかもが無駄になる。気持ちをぐっと堪えて耐える。


「あぁ、邪魔したね。私はこれで失礼するよ。あとはご自由に……」

 ベラドンナはそう言って私たちをニヤリと笑い部屋を去っていった。


 もう少し情報を得られると思ったが、数分の会話の中から得られたのは、ベラドンナがサラセニアの人間で、子爵と何らかの繋がりがあることだけだった。それに、「世界を統べるのはサラセニア」そうも言っていた。それって……


 そう考えていたところで、子爵が大きなため息を吐いた。

「まったく、いつも突然勝手に屋敷に入ってきて。おい、いつもの」

 子爵がそう言うと、ネルソンさんはキャビネットから琥珀色の液体が入ったガラス瓶を取り出し、部屋に備え付けられているカウンターでグラスに注いでいる。どうやらウイスキーかブランデーのようだ。


「お待たせ致しました。旦那様のお好きなウイスキーの新作でございます。本日、感謝祭会場で手に入れてまいりました」

 そう言ってネルソンさんは子爵の目の前にグラスを置いた。

 子爵は直ぐにグラスに口を付け飲み干すと、直ぐ様ネルソンさんが次を注ぐ。


「まぁ、余計な邪魔が入ってしまったが、これから楽しむとするか。さて、どちらを頂くか……」

 ウイスキーのグラスを片手に下品な笑みを向けてくる。隣ではノーラがドレスのスカートをギュッと握りしめ顔を青くしている。


「どちらにしようか……そうなだな……お前。今晩はお前を楽しむとしよう。来い!」

 そう言って指差されたのは……ノーラだった。

 ノーラは「ヒッ」と声を上げると、ガタガタと震え出した。


「あら、レール様。(わたくし)てっきり(わたくし)を選んで頂けると思いましたのに、なぜこの小娘なのですの?」

 ダメよ、子爵。ノーラには指一本触れされるもんですか! 私を選びなさい!!


『リリー!!』

 ロジーとスノーの声が重なって聞こえた。

(大丈夫よ。人目につかなくなったら直ぐ様眠らせてやるから)


「なんだ珍しいな。自分から進んで望んでくるとは。今までの女はな、私に逆らえず泣き喚きながら組み敷かれる女ばかりだったぞ。クックックッ……」


……ほんとクズね。


「レール様? (わたくし)二番目の女は嫌ですわ。それに、こんな小娘には到底出来ない事だってして差し上げられますのに……」


 さあ、掛かりなさい!


「……ほぉ? 何だ、私に媚びを売っているのか? お前、面白い女だな。気に入ったぞ。お前を抱いてやろう」

 子爵は椅子からガタリと立ち上がり、いやらしい笑みを浮かべている。


「嬉しいわ。レール様、早く行きましょ」

 そう言うと、子爵は廊下へ続く扉ではなく、もう一つの扉へと向かい扉を開けた。隣の部屋はベッドルームになっているようだ。

「さぁ、来い。楽しませてもらうぞ」


 部屋に入ったら一瞬で眠らせてあげるわ。


 ネルソンさんは私たちの会話を聞くと、静かにノーラの方へと移動し、部屋から連れ出した。

 ノーラは不要と察し、元の部屋へと連れて行ったのだろう。

部屋から出る際、ノーラは目に涙を浮かべながらこちらを心配そうに何度も見てきた。


 大丈夫よ、ノーラ。こんなゲスでクズな男、私が成敗してやるわ! 徹底的に調べ倒して、伯爵様へ差し出してやるわ!


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