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女将と私とルビーベリー

 き、緊張したぁ〜。怪しまれないように(別に何も悪い事してないけど)冷静に会話したけど、よく考えて口に出さないとね。


 ってか、私住んでる場所何かおかしいみたいね。さっきは「方角間違っちゃっかな〜?」なんて誤魔化したけど、多分アレ私の家の場所のことよね。次からは詳しい家の場所は伏せておこう。

神様も言ってたけど、本当に人の住めない土地があるのね。そして、私はその濃すぎる魔素を浄化している。実感無いけど。


 あと、道中にモンスターなんて出なかったけどなぁ。それはミントのモンスター避けのおかげかもね。


 それに、アイテムボックスってもしかしたらレアなのかもしれない。私のステータスにもスキルじゃなくて特記の所にあったし。でも今更撤回出来ないし、ちょっと情報収集してアイテムボックスの事調べないとね。


 あとは、何聞かれてもいいように私の経歴考えておかないとね。まさか、異世界から転移してきて世界の魔素を浄化してる〜なんて言えないからね。別に秘密にしろとは言われてないが、そんなこと言ったら余計怪しまれるもんね。

 私はこの世界で花に囲まれ楽しく暮らせればいいんだもん。


 取り敢えず自分の経歴考えておかないとね。

・私は両親とここから少し離れた場所に住んでいた。

・今までは自給自足の生活をしていたため世界の常識に疎い。

・両親が他界したため一人で自給自足は無理になった。

・家で採れる花や森で採れるものを売って生活したい。

 よし、これで行こう。


 さっそく宿屋を探して村を歩く。すると、こじんまりとしているがしっかりとした造りの建物を見つけた。

 入口のドアを開け中に入ると正面には受付カウンターがあり、向かって右手に机と椅子が10組程並んでいた。

「こんにちは〜」

 声をかけると奥から

「はいは〜い。今行きますね〜」と元気の良い声が帰ってきた。

「いらっしゃい。木漏れ日亭へようこそ。外からのお客さんは久しぶりね。今日はお泊まりですか? お食事ですか?」

 返事をくれたのはふくよかな体型の柔らかなオレンジ色の髪の女性。

「実は門の所の男性に、こちらで買取をしていただけると聞いたのですが、お願いできますか?」

「買取ね。何を持ってきてくれたんだい?」

「あの。アイテムボックスに入ってるんですけど、このカウンターに出してもいいですか?」

「へぇ! アイテムボックス持ちかい! これは珍しいね〜」

 女将さんはやはり門番の男性と同じく驚いていた。


「やっぱり珍しいんですね。実は……」

 と、先程考えた私の経歴をそれらしく伝えた。

「と、いうわけで常識も知らず、アイテムボックスの事もいまいち知らなくて、ここまで驚かれるものだとも知らなかったんです。」

「そうかいそうかい。それじゃあ今は一人で暮らしているんだね。アイテムボックスなんてレアなもの持っている人はだいたい王都に行っちまうからね。王都にも何人かいるみたいだよ。商人になったり、冒険者になったり。生まれ持った能力の事をギフトって呼んでいて、スキルと違いどんなに努力しても手に入れることが出来ないから珍しいんだよ。こんな田舎にいると、アイテムボックス持ちなんて一生会う機会がないからね」

 珍しいけど特別隠すこともないみたいね。それじゃあ、気兼ねなく使えるから安心ね。


「そうなんですね。今まであまり人と関わらなく過ごしてきたので、そういった知識がないんです。ここで教えていただき助かりました!」

「いいんだよ〜! 寂しくなったらいつでもおいで。さぁ、それじゃあ持ってきたものを見せてちょうだい。ここじゃなんだから食堂の方にでも行こうかね」

 笑顔の女将さんに机と椅子が並んである食堂へ促された。女将さん、いい人そうで良かった。


 食堂へ促され、椅子に座ると持ってきたものを説明しながら出していく。

「まずはルビーベリーと、グリーンフルーツのジャムです。森で採れたルビーベリーとグリーンフルーツを甘く煮てみました。それと、味見用にこちらのビンを用意したので食べてみてください」

 そう言って、アイテムボックスから瓶を5個ずつ並べ、味見用の小瓶とスプーンを出す。

「綺麗に出来てるね。ルビーベリーの真っ赤な色が綺麗に出てる。ジャムって事は砂糖を使ってるのかい? 高級品じゃないか。それに味見だなんていいのかい?」

「遠慮せずにどうぞ。食べてもらわないと味は分かりませんからね。とても甘く出来てますが、砂糖は一切使ってないんですよ。食べてみて買取金額を検討して下さい」

 砂糖は高級品なのね。うん。覚えた。

 ジャムと聞いて遠慮していたので、小瓶の蓋を開けスプーンですくうと女将さんに差し出した。

「食べてみてください。きっと気に入ると思いますよ」

女将さんは差し出されたスプーンを受け取ると、ゆっくりと口へ運んだ。


「な、なんだいこの甘さは! これで本当に砂糖を使ってないのかい?! こんな甘いジャムは初めてだよ! それにただ甘いだけじゃなくてルビーベリーの酸味が爽やかだね」

 女将さんは興奮気味言った後、スプーンを握りしめたままうっとりと目を閉じジャムの甘さの余韻に浸っていた。

「ふふふっ。こちらのグリーンフルーツのジャムもどうぞ」

女将さんにの姿に笑みが零れ、グリーンフルーツのジャムもスプーンですくい差し出してみる。

「い、いいのかい? 遠慮せずに頂くよ?」

「どうぞっ」

 グリーンフルーツのジャムも口へ運ぶと、またうっとりと目を閉じ、

「こんな美味しいジャムを作れるなんて。あんた凄いわね。これで本当に砂糖を使ってないのかい?」

 やはり砂糖を使ってない事が信じられないようで、首を傾げていた。

「この甘さはステビアと呼ばれるハーブから抽出したシロップを使っているんです。このステビア、砂糖の300倍の甘さがあるんです」

そう説明する。

「ハーブ? ステビア? 聞いたことがないねぇ。薬草とも違うのかい?」

 そうか。ハーブの存在はこの世界にはないのか。

「似たようなものですね。私の家族はハーブと呼んでいましたが、おそらく薬草の一種だと思います。我が家は代々森の中で見つけた薬草などから種を採り、栽培を続けてきたんです」

 と、言うことにしておこう。

「あんたの一族たいしたもんだね! これは大発見なんじゃないのかい? 国王様にも献上できる品だよ!」

「いやいやいやいや。大袈裟ですよ〜。こんな私の手作りなんて恐れ多くて国王様になんて献上出来ませんよ」

「そんな事はないよ! この村にも商人が立ち寄ることがあるから売ってみたらどうだい? たちまち人気が出て大繁盛間違いなしさ!」


 女将さん。興奮し過ぎです。

「それはちょっと困りますね。あまり話を広められても一人で育てているものですから数もそんなに栽培出来ないですし。これを売ったお金で静かに暮らすのが私には合ってるんです。それに、私はこの村の人達に美味しく食べてもらえればそれが一番嬉しいですから」

 これ以上話を大きくされても暮らしにくくなるだけなので、遠慮させていただく。

「それもそうか。一人だったもんね。ごめんよ興奮してしまって。あまりにも美味しかったからさ。それにしても嬉しいこといってくれるじゃないか。あんたがそう言うならこの村のみんなで食べさせてもらうよ」

女将さんは私が両親を亡くし一人で暮らしていることを思い出したのだろう、申し訳なさそうに謝ってきた。(あぁぁぁ。私の仮の設定に付き合わせちゃってごめんなさい女将さん。罪悪感が半端ない)


「それでどのくらいで買い取って貰えますか?」

女将さんは「う〜ん……」と唸る。

「そうだねぇ、こんなにいい品なら銀貨三枚は出しても惜しくないね」

銀貨? ハッ‼︎ 通貨単位違うに決まってるじゃない。三百円位かな? あぁ、もうちょっと調べて来るんだった!

 そう一人で悶々反省してると、急に黙ったせいか女将さんが、

「銀貨三枚じゃ安すぎたかい? いい品だからね」


 そんな事を言われたので、考えてても仕方が無いので正直にお金についても聞いてみることにした。

「あ、違うんです。あの。恥ずかしながら、お金の価値? が、いまいち分からなくてですね、何をどのくらいで買えるのかとか、分からないんです……」

 ボソボソと伝えると、女将さんは目を点にした後、

「アッハッハッハッハッ! あんた物の相場知らずに売りに来たのかい! まったく、こんな凄い品持ってきてお金を知らないなんて……アハハハハ!」


うぅぅぅ。恥ずかしすぎる。


 顔を真っ赤にして笑う女将さんと、顔を真っ赤にして俯く私であった。そう、まるでルビーベリーのジャムのように。





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