真実の告白
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場所はブローディアへと戻る。
穀物を求め露店巡りをしていると、南の島からやって来たと言う男性と会うことになった。
南の島では穀物の栽培が盛んで、普段はアズレア王国の港町【クレオメ】の商会に穀物を卸していると言う。
今回は感謝祭と言うことで、父親と二人露店への出店を決めたのだそう。
ちなみに、彼の父親は別の露店で焼酎を販売しているそうだ。
道中、お互いに簡単な自己紹介を済ませる。彼の名はイーヴォさんと言うらしい。
このまま話を進めると、ミラには私の正体を教えることになるが、いつかは話をしなければと思っていたところだった。
「ミラ、後でちゃんと説明するから、今は一緒にいて」
不安そうなミラにそう言うと、小さい声で「うん」と一言返ってきた。
「すみません。露店を閉めさせることになってしまって」
現在、イーヴォさんと私たちは、彼の父親が開いている露店へと向かっていた。
「いいんですよ。今回持ってきたコメは全部貴方が買ってくださいましたし、小麦も大量に買ってくださいましたからね」
そう言って笑顔を向けてくれる。
「ああ、あそこですよ」
そう言ってイーヴォさんの指を差す先を見ると、露店には様々な種類の焼酎が売っていた。
透明な瓶に入った焼酎の前には【米焼酎】、緑色の瓶に入ったものは【麦焼酎】、茶色の瓶には【芋焼酎】と書かれた札が置いてある。
最近人気が出てきたとあって、露店には数人の男性客が訪れている。
「父さん」
イーヴォさんがそう声をかける。
「お? おめーの所、もう売りきったのか? 見込んでたより随分と早いじゃねえか」
彼の父親は頭にねじり鉢巻をした黒髪の男性。なんだろう……すごく懐かしい感じがする……
「この方がたくさん買ってくれたからね。ほとんど売りきって閉めてきたところだよ」
男性の父親は、男性客からお金を受け取り商品を渡していた。
「ありがとうございましたー! またごひいきに!!」
お客さんを見送ると、こちらへとやって来た。
「父さん、この方……」
「お? 黒髪とは珍しいな! どうしたんだい?」
「初めまして、リリーと申します」
名を告げたあとは、先程穀物の露店で話した内容を彼の父親にも伝える。
「はぁ……そうか、そうか。あんた、うちの親父と一緒だったか。俺達も去年までその事は知らなかったんだ。体調を悪くして寝込んだ親父が俺とコイツを呼んで、そこで初めて聞かされたんだよ。自分はこの世界の人間ではない、異世界からやって来た転移者だって事を。始めは歳のせいで頭が回らなくなったと思ってたんだが……どうも本当のことらしくてな。道理で俺たちの知らないことを色々と知ってる訳だと納得したんだよ。ただし、ほかの家族には絶対に話すなとも言われた。家族を心配しての事だったのだろう」
イーヴォさんの父親であるヴィムさんはそう語った。
もう一人の転移者は【マサ】と名乗っていた。マサさんはアズレア王国の南に位置する島に突然現れ、何とか島で暮らしていたが、「米が食いたい!」と、穀物の開発をすることとなった。
今、この世界にある【ライ麦】【大麦】【小麦】【米】は、マサさんの努力の結晶なのだそう。
なんと、それまでこの世界では麦類の穀物は見向きもされなかったそうで、マサさんは品種改良を重ね、食べやすい麦類の開発に成功したのだ。
穀物の名前が私の知ってる麦類の名前だったのは、同じ日本人である、マサさんが名付けた物だったからなのね。
「私はこの世界での役割を与えられているのですが、マサさんは他に何か言っていませんでしたか?」
そう尋ねるもヴィムさんは思い当たりがないそうだ。
「親父はそれ以上は語らなかった。その後直ぐに亡くなってしまったからな。それが去年の話だ」
「そうですか……」
もっと色々聞きたいところだったが、のんびりもしていられない。例の時間が迫ってきている。
「もし良かったら、今度島の方に行ってみてもいいですか? マサさんの過ごした土地を見てみたいんです」
「そりゃいいな! きっと親父も喜ぶよ」
「必ず行きます。その時はもっとゆっくりと話を聞かせてくださいね。あ、そうだ! イーヴォさん、米の種類でもち米って知っていますか?」
危ない危ない、大事な事を聞くのを忘れるところだった。まだまだ諦めて無いわよ、お餅を作ってお汁粉に入れて食べるのよ!
「もち米? いや、聞いたことないな……それは米の種類かい?」
「ええ、米よりも粘りが強い品種なんですが……」
「ん? 粘り? もしかして……リリーさん、もしかしたらあるかもしれないです。実は、じいさんが晩年品種改良した米から粘り気の強い品種が作られたんです。そう言えばじいさん……「死ぬ前に【モチ】を食いたい」って言っていたな……もしかしてそれが?」
「それです! 餅です! 私が探していたのはそのもち米なんです」
興奮気味にそう伝えると、イーヴォさんは苦笑いをした。
「あれ、失敗作じゃないんですね……じいさんはその【モチ】を食う前に体調を崩してしまって、結局食べることが出来なかったから、作り方が分からないまま今に至ってるんです。一度、米を炊くように炊いてみたんですけど、ネバネバしてとても食べ物とは思えなかったんです」
「私、必ず島へ行きます! そして、そのもち米で餅をついてマサさんの墓前にお供えします!」
「ははは、そりゃいい! きっと親父も喜ぶよ。リリーさん、待ってるぞ」
「リリーさんが訪れるまでにもち米の準備をしてますね」
意外なところで、ほかの転移者の話を聞くこととなったが、その後はスノーにあれもこれもと指示されるままに焼酎を買い込んだ。
「それじゃ、お二人共またお会いしましょう」
そう言って二人に別れを告げ、宿への道を歩いた。
「ミラ、宿の部屋まで行こう。そこでちゃんと話するからね」
先程の会話を聞いていれば大体の話はもう分かっているはずだが、ちゃんと私の口から説明しないといけない。
そのまま真っ直ぐ宿の私の部屋へとやって来て、ミラと向かい合って座る。ロジーとスノーには、部屋の離れた場所に居てもらうことにした。
「まずはミラ、今まで黙ってた事を謝らせて。正体を隠すために、色んな嘘ついちゃってたことも。ごめんなさい」
ミラの目を見てきちんと話すと、ミラもまた真剣な表情で話を聞いてくれた。
「あの、さっき転移者って言ってたのは? リリー、この世界の人間じゃないって言った?」
「ええ。そうよ。私は……この世界とは違う異世界から世界を渡ってきた転移者なの。事故でね……命を落とす手前、こっちの世界の神様に呼ばれたの」
そこからミラに一つ一つ説明し、聞かれたことには正直に答えて言った。
「あれ? じゃ、じゃあ、ロジー君たちは? いとこ……じゃないの?」
ですよね。そうなりますよね。やっぱ気付きますよね。
「ええ……ロジー、スノーこっちに来て」
ロジーとスノーを呼ぶと隣に座らせる。
「実はね……どこから話したらいいかだけど……ミラうちに咲いていた深紅のバラ覚えてる?」
「う、うん。あの綺麗な花よね。家の目の前に咲いていた」
「そうそう。それがロジー……なの」
ロジーを見るとニコニコとミラを見ている。
「うえ? は? ど、どういう事?」
『ミラちゃん、僕ねリリーの魔力を貰って変化した精霊なんだ』
そう言うと、人差し指を立てて指先にバラの花を咲かせる。
そして、ポン! と本来の精霊の体へと戻ってみせた。
「ミラ? 大丈夫? おーい!」
ミラはロジーが精霊化した後、あまりの出来事に固まってしまった。
ミラの隣に座り、ペチペチと頬を叩く。
「き、聞いたことある……長い間生き続けた植物には精霊が宿るって。でも、それって何千年の単位よ? リリーのバラはまだ数ヶ月じゃない。なんでまた……」
首を傾げ不思議がるミラ。
確かに私も、フレドリックさんに「精霊が宿っているかも」と言われ後に本で調べたら、ミラが言う通り何千年もの間に魔素を取り込み精霊と化す植物がいることを知った。
『そこはね、リリーの愛が僕を精霊にしてくれたんだよ。だから僕はリリーの為だけに生きるって決めたんだ』
肩にちょこんと乗ったロジーは私の頬にキスを落とす。
『あれ? リリー、この姿ならキスしても平気なの?』
「そうね。精霊の姿なら平気だわ。ロジーはきっと私の膨大な魔力から生まれた精霊なんだと思うわ」
『いいこと聞いちゃった! じゃあ、これからは毎日この姿で……ふふっ』
「ちょっと? 何か企んでない? 悪い顔してるわよ? ロジー」
私たちのやり取りを見ていたミラは「うわ〜! うわ〜! 甘〜い!! ご馳走様〜!!」と、体をくねらせている。
「あれ? そう言えば、ロジー君は花の精霊だとすると……スノーさんは? 同じ花の精霊なの?」
そうなのよね。スノーの説明……どうしようかしら……