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特務部隊とバースの村人

「ふわぁ〜、今日ものどかだな〜。リリーのおかげでモンスターの心配も無くなったし、俺……ここにいなくていいんじゃないか?」

 大きな欠伸をしながら今日ものどかなバース村の入口で門番として務めを果たしている男性……バルテロだ。


「こらっ! ちゃんと仕事せんか!」

 後ろから声をかけるのはこの村の村長、バスケスだ。


「あ、村長〜、いや、リリーのおかげでモンスターの心配無くなったし、俺ここにいなくてもいいんじゃないかな〜って思ってたとこなんだわ」

「馬鹿言ってないでちゃんと門番らしくしてろ。モンスターの為だけの門番じゃないんだから。最近ではリリーさんのおかげで村に客人が増えたんだから、ちゃんと迎えてくれよ」


 確かに最近はモンスターの襲撃は全くなくなったが、代わりにハーブ商品を買い付けに来る商人がよく来るようになった。

 何人の客人が村に滞在しているのかを把握するのも門番の大事な仕事である。


「ほら、そんな事を言ってるうちに見てみろ、遠くから馬が近づいて来てるぞ」

「へいへい、ちゃんと仕事しますよ。って……村長……近づいて来る奴ら商人じゃなさそうだな」

「ん? 本当だな。鎧か?」


 二人で村の入口から草原を見ると、馬に乗った人間が六人近づいてきていた。五人の鎧姿の人間と、ローブ姿の人間が見受けられる。

「何だろうな? こんな田舎の村に?」

「討伐依頼を受けた冒険者かもしれないな」

村長がそんな事を言ったが、冒険者にしてはどうも身なりが良すぎる。

「いや……あれは冒険者の格好じゃない。騎士だ!」

 二人でそんな事を話していたが、すぐ目の前に騎士たちは迫ってきていた。


 村の入口手前で騎士たちは馬を下りると、一人の男性が近づいてきた。

「ようこそ騎士様。バース村にどのようなご要件でしょうか?」

 なるべく丁寧を心掛け、バルテロは騎士に要件を聞く。


「突然の訪問に驚かせてしまい申し訳ない。ここに……黒髪の女性が来ていないだろうか。名はリリーと言う。美しい女性だ」

 騎士の言葉に二人は固まった。なぜ、騎士様がリリーの事を知っているのか、世間では【魔女様】として知られているが、リリーの名前までは知られていないはずだ。

 そこで村長はある事を思い出した。


「騎士様、ようこそバースの村へお越しくださいました。この村の村長のバスケスと申します」

「ああ、村長でしたか。それで、その女性はこちらに来ていませんでしょうか?」

「失礼とは思いますが、貴方様はウィンザーベルク様ではないでしょうか?」

 村長がそう口にすると、騎士は目を見開いた。

「なぜ私の名を……?」

 

「やはりそうでしたか、リリーさんから話は聞いております。こんな所では何ですから、村でお話をさせて下さい。ほかの騎士様もどうぞお入りください。バルテロ、ソニアにこのことを伝えて来客対応をしてもらってくれ」

 バルテロを先に木漏れ日亭へと走らせ、騎士たちを案内する。

「やはり、ここにリリーは来ていたのだな。今は、どこに?」

「リリーさんは今出掛けていて、この村にはいないのです。ですが、リリーさんの事をお話したいので、どうぞこちらへ」

 そう言って木漏れ日亭までの道を歩く。


 途中、ハーブが入ったカゴを持った孫達が楽しそうに歩いてくる。

「あ、おじいちゃん! あれ? お客様?」

「こら、この方たちは騎士様だよ。リリーさんに会いに来たんだ。ちゃんとご挨拶しなさい」

村長がそう言うと、五人それぞれが挨拶をする。

「こんにちは騎士様。魔女様に会いに来たんですか?」


「やあ、可愛いお嬢さんたち。こんにちは」

 愛嬌の良いフレドリックが彼女たちに笑顔を向けると、年長組のマリアとリース二人がポッと頬を赤くした。

「ねえ、魔女様ってもしかしてリリーの事?」

 にこやかに話しかけられた彼女たちは、しどろもどろになりながらも、フレドリックに答える。


「は、はい。半年くらい前にワイルドベアからこの村を守ってくれたお姉ちゃんです」

「お姉ちゃんのハーブのお薬のおかげで村のみんな病気しなくなったの」

「だから、お姉ちゃんの事をみんなで魔女様って呼んでるのよ」

「私たち、魔女様にハーブのお勉強教えて貰って、魔女様の弟子って呼ばれてるんだよ」

「もう一人ミラ姉って言って魔女様の弟子がいるんだけど、今は魔女様とお出かけ中なの」


 五人それぞれがリリーについて語る。

「ほら、みんなこれから工房だろ。頑張っておいで」

 村長にそう言われ、ちびっこ達は騎士たちに大きく手を振って元気に、年長組の二人は頬を赤くしながら控えめに手を振って去っていった。


「すみません、騎士様。あれはうちの孫でリリーさんの弟子にしてもらってるんです。その事も含めこちらでお話を……」

 そう言って木漏れ日亭の扉を開く。

 中ではソニアが騎士たちを迎えるために食堂にティーセットを運んでいるところだった。

「ソニア、急がせて済まないね。こちら、例の騎士様たちだ」

「ようこそ騎士様。私はこの宿を経営していますソニアと申します」


 そう挨拶をすると、騎士の一人が前に出だ。

「私たちはアズレア王国騎士団、特務部隊の騎士です。私は特務部隊の隊長、クラウス・フォン・ウィンザーベルクと申します」

 その後に続き、もう一人ローブを着た男性が前へ出る。

「私はアズレア王国、王太子殿下ライアン様のお付のディランと申します」


「王国の……」

「それに王族のお付の方だなんて、一体……」

 村長とソニアはそこまでの大物とは思っていなかった為に唖然としてしまう。

「と、とにかく立ち話も何ですからこちらにどうぞ。リリー特製のハーブティーとコンポートをご用意しております」

 そう言ってソニアは騎士たちを食堂のテーブルに促した。


「突然押し掛けたのに気を使わせてすまない」

申し訳なさそうにクラウスがそう言うが「え! リリーの特製? 飲む飲む!」と、フレドリックは小躍りしながらテーブルに着く。

「フレドリック、お前少しは遠慮と落ち着きを覚えろ」

 そう、クラウスからお小言を言われている。


 全員がテーブルに着くと、ソニアが慣れた手つきでハーブティーを入れてくれる。

 ディランはこっそり鑑定をしてみたが、案の定弾かれてしまった。


「こちらはリリー手作りのキンキツの実のコンポートです。どうぞご一緒にお召し上がりください」

 そう言って小皿に二粒ずつ盛って全員に行き渡らせる。


 そこからは、村長とソニア、クラウスとディランが主に話を進め、残りの者はハーブティーとコンポートを堪能していた。

 途中、お皿を持ってフレドリックがコンポートのおかわりを求めてきた時にはクラウスにゲンコツをもらっていた……

 ソニアはそれを見て、笑いながら「お好きにどうぞ」と瓶ごとフレドリックに渡したのだった。


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