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特務部隊到着です!

 王都から野営をしながら約一ヶ月、ただひたすらに彼女のいる西の森へ向けて馬を走らせる。

 ブローディアを過ぎ、今は近くに小さな村が見える。確か……バース村と言っただろうか。


「隊長! もうすぐですね!」

 そう言って馬を横に並べ走るのは、フレドリック。数年前に入隊した若い騎士だ。


「クラウス、そろそろか?」

 そう言うのは、ローブを纏い黒馬に跨るディラン。

 そう、あの王太子殿下の秘書兼護衛でこの国で一番の魔法の使い手……だった男である。


 なぜこの男が一緒にいるのかと言うと、女神保護の特務を遂行するに当たり、同じ強力な魔法の使い手として女神をサポートするように同行せよ、との王太子の判断であったのだ。


 この三人の他にも特務部隊の隊員たちもいるが、全員で五名の少人数の編成だ。

 目立ち過ぎず、しかし確実に特務を遂行出来るであろう最低限の人数だ。


「ああ、もうすぐそこだ」

 やっと会える……あの日以来、彼女を思わない日はなかった。王太子の執務室で、彼女の報告をしてからすぐに決定された女神保護の特務。しかし、帰還してからすぐ次の遠征は部隊の隊員たちには負担が大きすぎる。すぐにでも戻りたい気持ちを抑え、やっとの事で迎えられた今日という日。


 私は……本当に彼女に心を奪われてしまったようだ。


「全く……あのクラウスがここまで骨抜きにされるとはな……」

 呆れた顔でクラウスを見るディランだったが、それもそのはず。

 クラウスは女性が苦手だった。


 まだ学園(アカデミー)に通っていた十代の頃、その端麗な見た目から多くの令嬢の憧れの的だった。

 初めのうちは遠くからクラウスの姿を眺める程度だった令嬢たちだったが、次第にその行為はエスカレートしていった。


 いつだったろう、ディランと二人で王都の防具屋へ寄った帰り、ライアンへの手土産として当時流行っていた【カフェ プロテア 】の茶菓子を買って帰ろうとなった。

 カフェで茶菓子を買った後、ついでだからと【カフェ プロテア】で紅茶を飲んでいこうとなり、二人でテラス席へ移動し紅茶を注文した。


 紅茶を注文してから、紅茶が運ばれてくるまで「なんだか遅くないか?」などと話をしながら待っていたが、ようやく紅茶が運ばれてきて、二人で紅茶に口をつけた時だった。


「ん?」

「どうしたクラウス」

 紅茶を口にした瞬間僅かな苦味が気になったクラウス。

「この紅茶なんだか、苦味が強くないか?」

「そうか? 普通に美味しいけど……」

 ディランがそう口にした瞬間だった。


……グラリ……

「っ……!!」

 片手で口を押さえ、もう片方の手で胸を押さえ、肩で息をするクラウス。

「どうした!! おい、クラウス!!」

 辺りはざわつき、どうしたのかとこちらを窺う客たち。先程紅茶を運んできた店員をチラリと見ると、心なしか顔色が悪い。


 ディランはすぐ様、「これは何か盛られたな」と判断した。

 急いでクラウスの後頭部と額に手を当て、解毒の魔法を唱える。クラウスの解毒をしながら紅茶を鑑定すると、【催淫剤】の文字が。

 ディランは先に鑑定してから飲むんだったと、今更ながら後悔していたが、そこに一人の女性が近づいてきた。


「どうなさいましたの? お連れ様、随分と具合が悪そうですわ。あぁ、そうですわ! 近くにわたくしのお屋敷があるんですの、そこでお休みになられては?」


 何とも分かりやすい。ディランはすぐにこの相手がクラウスに催淫剤を盛った相手だと察知した。

「お気遣いありがとうございます。しかし、ご心配には及びません。今、解毒の魔法を使っておりますのですぐに治ることでしょう」

 ディランがそう口にすると、辺りのざわつきは大きくなる。


「今、解毒って言わなかった?」

「え!? 紅茶に毒が入っていたの!?」

 客たちは自分たちの紅茶にも毒が入っているのでは、と慌ててカップをソーサーに置いている。


 解毒の魔法を使ってると言うと、どこぞの令嬢は顔色を悪くした。

「あ、あら、そうでしたの。では、わたくはご不要ですわね、失礼致しますわ」

 そう言って、そそくさと逃げるように店から去っていった。


 解毒をしたクラウスを連れ帰り、そこからは対応が早かった。

 ディランがライアンに報告すると、すぐ様調査が行われあっという間にあの女性を特定した。

 【カフェ プロテア】も、毒入り紅茶を出す店として世間に知られ、あっという間に店をたたむこととなった。


 事の顛末を語ると、カフェに入った二人を見つけて、店員を脅して催淫剤を渡し、クラウスの紅茶に入れるように指示。その後、具合が悪くなったクラウスを屋敷に連れ帰る計画だったようだ。何ともお粗末な計画だったが、ディランがそばにいたことで呆気なく計画は失敗したのだった。


 そこからクラウスの女性不信が始まったのだ。


「あの女性不信のクラウスがねぇ……」

 昔を思い出していたディランがしみじみと呟く。

「隊長、女性苦手でしたもんね! 近付く女性に凍えるような冷淡な視線で壁を作ってましたもんね! まあ、それでもその冷たさが素敵! って女性も多かったですけど」


 二人揃ってクラウスを見ると微かに口角が上がり、優しい目をしていた。


「うわ〜。あんな隊長初めてです……」

「……その女神とやらに俺も興味が出てきた。クラウスをここまでさせる女性とは……」

 そんな事を二人話していた時だ「隊長! 西の森が見えました!」

 隊員の一人が報告する。


「ああ、確かにこの辺りだ」

 だが……

「あれ? 隊長、確かにこの辺でしたよね?」


 リリーの家があったのは確かにこの辺だ。だが、辺りには紫色の見たことも無い花があるだけ。家が……


「ない……」

「どういう事だ……確かにここにリリーの家があったはずだ!」

 クラウスとフレドリックは困惑した様子で辺りを見回す。

 と、そこでディランがある事に気付いた。

「強い魔力を感じるな……それに、あの花……魔素を吸い込んでる? おい、クラウス! 家があったのはあの辺じゃないか?」

 そう言ってディランはある方向を指差す。

「ああ、確かに。だが……どういう事だ。家が消えるなんて……元から何も無かったようだぞ」

「いや、家が消えたわけでは無さそうだ。これは……土地ごと隠匿の魔法が使われているな……」


「はあ!?」

 驚く隊員たちだったが、リリーの魔力を知っているフレドリックは目の前の光景に納得し、爆笑している。

「あははははは! さすがリリーだ!」

 クラウスはと言うと……

「リリー……せっかく会えると思ったのに……」

 その落ち込みようと言ったら目も当てられなかった……


「隊長、確かリリーは近くの村に自分の作った物を売りに行ってると言ってました。もしかしたらバースの村に行ってるんじゃないですか?」

 フレドリックのその言葉に、クラウスはパッと顔を上げ「よし、バースに戻るぞ!」そう言って、バースの方角に馬を向け走らせたのだった。


「隊長……」

「頼むから、村では騎士らしくしてくれよ……」


 二人のつぶやきは馬の台地を蹴る蹄の音に溶けて消えていったのだった。


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