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もう一人の転移者

「それにしても、よく考えましたね。実演販売でしょうか? このやり方ならお客さんが沢山来てくれているのでは?」

「ええ、そうなんですよ。妹の思いつきなんですがね、これが思いの外お客さんの興味を引いて、繁盛してるんですよ」


 実際にどうやって作られているのか、こうして見る事が出来るのは楽しいものだ。

 彼女は細く加工された金属に魔力を流し、どんどんと形を作っていく。その形は……

「バラ……」

 バラの中央にはピンクの魔石が嵌め込まれている。

「綺麗ね〜」

 ミラも目を離さず呟く。


 一つのバラのアクセサリーが出来上がると「ふぅ」と息を吐き彼女が顔を上げた。

「あ! 魔女様。ちょうど良かった!」

 そう言うと、ガラスの壁の向こうからこちら側へやってきた。

「こんにちは。昨日はお買い上げありがとうございました。こうやってアクセサリーを作ってる所を見られるなんて思ってもみなかったので、来てみてよかったです」

「こちらこそ、昨日はありがとうございました。昨日貰ったバラの花で一気にアクセサリーのイメージが湧いて、早速作ったバラのアクセサリーがどんどん売れていくんです。それで、お礼と言ったらなんですが、これを受け取ってくれませんか?」


 そう言って差し出されたのはバラの花をモチーフにしたアクセサリー、バレッタだった。バレッタには大小様々な赤い魔石が散りばめられていてとても綺麗に輝いている。


「そんな、お礼だなんて。買ってくれた皆さんにサービスとして渡している物だから気を使わなくてもいいのに……」

「ううん。これは私の気持ちとして魔女様に受け取って欲しいの。どうか受け取って」

 そこまで言われると、断るのは逆に失礼に当たる。日本人の悪い癖ね。


「分かったわ。有り難く使わせてもらうわ。ありがとう。それと、今更だけど私の事はリリーって呼んで」

「私も今更だけどブレンダって呼んで。よろしくね、リリー」

 二人で笑顔を交わし、ハグをして別れた。


『ねぇ、リリー。さっきの髪留め見せてくれない?』

 ミラがほかの店で買い物をしている間、ロジーにそう声をかけられ、アイテムボックスから取り出してロジーに渡すと、 暫く何かを考えているようだった。

『ねぇ、僕の魔力注いでいい? リリーを護ってくれるように』

『それはいいな。私の魔力も注いでおこう』

 スノーもそう言うと、二人でバレッタに手をかざし魔力を注いでいく。空の魔石は魔力を補充され、よく見ると魔石の中で魔力が揺れ動いているように見える。


『早速、着けてみようよ。僕が着けてあげるね』

 そう言うと、ロジーは三つ編みが交わるところにパチンとバレッタを留めてくれた。

『リリー、赤い色似合うね』

『そうだな。良く似合ってる』

 そう言うと、ロジーは頬に、スノーは頭に口付けを落とす。

「も、もう! こんな人の多いところでなんて事するのよ! ロジーまでどこで覚えてきたのよ!」

 そう訴えていると、視線を感じる。

「見ちゃった見ちゃった〜! ご馳走様!!」

 ニヤケ顔のミラにバッチリ見られてしまった。


「もう! 次こんな人前でやったら口きかないからね!」

 恥ずかしさを誤魔化す為に三人を置いて一人で足早に先へ進む。

「あ、待ってリリー! 恥ずかしがってるリリー可愛い〜!」


 もう!!


 恥ずかしさを誤魔化しながら急ぎ足でその場を離れる。

『ごめんごめん。もうやらないから!(街中では)』

「なんか心の声も聞こえたような気がするんですけど?」

『ごめんってば。あ、リリー待って! こあの露店、リリーの探してた露店じゃない?』


 ふん! そんな言葉に誤魔化されるもんですか!


「あ、ほんと。ねぇリリー、穀物売ってる露店よ!」

 何ですって!?穀物!?

 振り返り、ミラとロジーが指差す方を見るとそこには、小さい露店ではあったが、麻の袋に入った数種類の穀物が売られていた。

 露店の店主は黒髪に小麦色に焼けた肌の持ち主。年は私と似たくらいだろうか。

 目が合うと白い歯を見せてニカッと笑う。

「いらっしゃい! 興味があるなら見ていってよ!」

 そう言い手招きをする。

 淡い期待を込めながら露店を覗くと店主と思われる男性が、私の顔を興味あり気に見つめてくる。


「黒髪なんてこの国じゃ珍しいね。俺も黒髪だけど、家族以外の黒髪の人間初めて見たよ」

「そう言えば……ねぇミラ、この国に黒髪っていた?」

「う〜ん、私は村からあまり出たことないから分からないな〜。でも、村には一人もいないわね」

 この街に来てからも、一人として黒髪の人間と会うことは無かった。

 思い当たるとしたら、いつだったか疑惑をかけられた【漆黒の魔女】くらいだろう。


「あ、もしかして触れてほしくない事だった? 余計な事言ってごめんな。同じ髪色を見たの久しぶりだったからつい……」

 何かを察して慌てる様子の男性だが、特に気にすることでも無いので、大丈夫と伝える。

「いえ。この髪色は私が確かにあの国に存在していた、って証明してくれるものだから」


 私のその言葉を聞くとミラは首を傾げ、男性はハッとした顔をした。

「私こそ変な事言ってごめんなさい。それよりも穀物よ! 私たち、穀物の露店がないか探していたんです。このお店にはどんな穀物を置いているんですか?」

 何か言いたげな男性だったが、私たちが穀物を探していると言うと、露店に並べられた穀物の説明をしてくれた。

「まずは麦類からだな」

 ポンポン、と麻袋を叩いて三種類の穀物を見せてくれる。

「右から順に説明すると、これがライ麦。主に黒パンなんかに使われる穀物だな。それでこっちが大麦、これはエールの原料が主かな。その隣が小麦、白パンと、最近この街で流行ってるヴァイツの原料」


 やっぱり! ヴァイツは小麦粉だったのね。ただ、麺が白かったから、パスタと言うよりはうどんに近いのかもしれない。

 小麦粉に卵を加えれば、生パスタの麺が作れる。じゃがいもを加えれば、ニョッキも作れる。それにお菓子だって。

 小麦粉は色んな料理に使えるから沢山買っておこう。お値段もリーズナブルだしね!


「取り敢えず、小麦を麻袋二つ分下さい」

 私がそう言うと、男性は大いに驚いた。

「そ、そんなにかい? あ、もしかしてお店のシェフとかかい?」

「いいえ。個人で楽しむ為です! 小麦さえあれば色んな料理が出来ますからね! お菓子だって作りたい放題ですし」

「え? リリーお菓子作るの? あたしも食べたい!」

『あ、僕も〜!』


 お菓子と聞いて二人とも目を輝かせる。

「ふふふっ。家に帰ったら作るからね。ミラは食べるだけじゃなくて、作ることも覚えようね。ちゃんと教えてあげるから」

「ほんと!? 教えてもらえればいつでもお菓子が食べ放題!?」

 そんな事を言いながら三人で盛り上がっていると、スノーが私達を急かした。

『リリー、私は早く【ショーチュー】と言う酒が売ってる露店に行きたいぞ。早く探しに行こう』


「待って。他の穀物も見ていくからその後ね。すみません、そっちの麻袋はどんな穀物ですか?」

 そう尋ねると、男性は「う〜ん」と少し悩ましげに説明してくれた。

「ああ、こっちは売れるかどうか分からないが持ってきた穀物なんだよ。実は俺、この国から海を越えて南に行った島国の人間なんだけどな、そこで食べられている【コメ】って言う……」


 …………!!

「米!? 今、米って言いました!?」

 男性の口から米と言う言葉が出た瞬間、話を遮り叫んでしまった。

「あ、ああ。お客さん、コメを知っているのか? この国の人間は知らない人ばかりで全然売れないんだよ。このコメはさ、俺のじいさんが試行錯誤して生み出した穀物なんだよ。それで、俺たちの島では米をよく食べるんだ。いや〜まさか、コメを知ってる人がいるなんて思ってもみなかったよ。さっきお客さん「この髪は自分が存在していた証だ」って言ってただろ? 俺のじいさんも同じこと言ってたんだよ。去年亡くなってしまったけどな……」


 亡くなったおじいさんを思い出し、懐かしそうに話をする男性だったが、私には「自分が存在していた証拠」と同じことを言っていたおじいさんが気になって仕方がなかった。

 さっき男性が何か言いたげだったのはそのせいだったのだろう。

「あ、ちなみにさっきそっちの兄さんが言ってた【ショーチュー】だけど、それを生み出したのもうちのじいさんなんだ。二度と帰れぬ故郷の酒って言ってたな」


 ……ドクン!!


 二度と帰れぬ……故郷……? 米……焼酎……黒髪……


「まさか……」

 唖然としてしまった私を男性が不思議そうに見つめる。

「あれ……? どうしました?」

 私は恐る恐るある言葉を口に出す。


「あの、変なことを聞くかもしれませんが【にほん】もしくは【にっぽん】って言葉を聞いた事ありませんか?」

 そう尋ねると男性は目を見開いた。


「あ、あんた、もしかして!!」


 あぁ、やはり。


 彼のおじいさんは私と同じ転移者。日本から界渡りをした転移者だったのだ。


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