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露店巡り

「……ハッ!!」


 あぁ、そうだった。今日も朝から両隣にはロジーとスノーが。

「デジャブ……」

 って、馬鹿なことやってる場合じゃなかった。


「ほら、二人共起きて。さっさと準備して出かけるわよ」

 昨日と変わらず丸まって眠るロジーと、相変わらず私に腕を回して眠るスノーに声をかけ、何とかベッドから脱出した。


『リリーおはよ』

『今日は感謝祭の露店巡りだったか?』

「そうよ。二人も一緒に行きましょ。いい物見つかるといいわね」

 せっかく各地からその土地の名産品が集まるのだ。ここで買わずにはいられない。この辺りでは手に入れられない海鮮物なんかもあれば喜ばしいところだ。あとは穀物ね。

 思いを馳せながら綺麗に髪をとかし、いつもは下ろしっぱなしの髪を両耳の上から編み込みをし、後ろで束ねハーフアップにする。

「うん。綺麗に纏まった」

 とそこで、扉を叩く音がする。


「リリー? 準備終わった?」

 扉を開けると既に準備万端なミラの姿が。

「うわぁ! リリー可愛い! いいなぁ……」

 目をキラキラさせながら私の髪を見てくるミラに「ミラの髪もアレンジしてみる?」そう提案すると、即答でお願いされた。

 ドレッサーの前にミラを座らせ、簡単なアレンジをする。

「ミラにはお手軽ヘアアレンジの【くるりんぱ】を伝授するわね」

「く、くるりんぱ?」

「ふふっ、まぁ見てて。まずは後ろの上半分の髪をざっくり取って結びます。この時耳の上の髪は残しておいてね。そしたら、紐の上をパカッと割って結んだ髪をくるんと入れちゃうの。簡単でしょ? これがくるりんぱね。あとは綺麗に整えるわよ」

 くるりんぱした髪をキュッと締め、ねじり部分をつまんでほぐしていく。

「こんな感じでほぐすとふんわりして可愛いわよ。後は耳の上に残した髪を三つ編みにしてくるりんぱと一体感が出るように結べば、はい完成!」

 あわせ鏡で髪型を確認していたミラは、満足そうに笑い最高の笑顔で「ありがとう!」と言ってくれた。


 後にこの【くるりんぱ】。平民の女性間で魔女様直伝のヘアスタイルと評判になり、一世を風靡したのだった。


「さて、まずは昨日と一昨日の売上を整理しなくちゃね。そこから工房の維持費と孫ちゃんズとミラの取り分を計算して……」

「リ、リリー。今更だけど、すごい金額になってない?」

 積み上がる貨幣を前にミラは恐る恐る声をかける。

「確かにね……でもみんなで報酬分け合って工房の維持費を考えたら妥当じゃないかな?お金が貯まれば工房ももっと使いやすくリフォームすることが出来るし、新しい道具も揃えられるからね。維持費の他に積み立て金として貯めておくのも良いかも。あ、ミラの報酬どうする?」

 ずいっとミラの分の報酬を差し出すと、そこから控えめな金額を取り、残りの硬貨を渡してきた。

「ごめん、リリー。こんな大金持って歩けないから、リリー預かってくれない?」

「分かったわ。村に帰るまで預かっておくね」

 何とか金額を整理し、メモを取ってアイテムボックスに入れた。

 お金の管理は村長さんとかソニアさんに相談しよ。これから注文が殺到すればバース村の特産品として売り出す事が出来るし、村の一大事業になるはず。そうなれば、今の人数ではまかなえなくなるから、その事も相談しないとね。


 それからはロジーとスノーと落ち合い、感謝祭会場に向かった。

 まずはフロスト商会の露店へ行きジェフに挨拶をする。

「ジェフ、お疲れ様。ごめんね、私たちだけ自由時間貰っちゃって」

「ああ、おはようリリー、ミラちゃん。ここまで早く完売するとは思ってみなかったからね。ここまで頑張ったご褒美として楽しんでくるといいよ。二人共可愛らしい髪型してるね、よく似合ってるよ」

 さり気なく髪型を褒めてくれるジェフ。世の中の無頓着な男性は見習って欲しいものだわ。

「ありがとう。それじゃ、行ってくるわね」

「ジェフリーさん、行ってきます」

 笑顔のジェフに見送られ、私たちは露店巡りへと向かった。


「さて、ここから順番に回っていこっか」

「ミュゼの隣から? って事は、ワインの露店ね」

 ワインはスノーの大好物だ。これは気合を入れて選ばないとね〜!


「いらっしゃい! お、隣の露店の魔女様じゃないか。今日はお休みかい?」

 溌剌とした三十代くらいの男性が声をかけてくれる。

「ええ。実は、昨日のうちにほとんどの商品が売り切れてしまいまして……」

「そりゃ、あれだけの行列見れば納得できるわ。うちの嫁さんも噂の魔女様に会ってくるって、昨日あんたんとこの露店で色々買ってきたみたいだったな。お礼の花束も喜んでたよ」

「そうでしたか! お買い上げ有難うございました」

 そう話をしているとスノーが耳元で囁いた。


『リリー、あのワイン。あれは絶対に美味いやつだ』

 スノーが一本のボトルを指差して言った。

「へぇ。兄さんワイン好きかい? このワインに目を止めるとはなかなかだな」

『それと、このワインと……これもだな。』

「兄さん、このワインの味も分かるのかい? 随分と通だな。さては、相当飲み歩いてるな?」


「この人、お酒に目がなくって。ワイン大好きなんです」

「そうかい。それじゃあ、この会場にある別の酒の露店も見ていくといいだろう。ブランデーの露店と、俺も初めて聞く【ショーチュー】と言う名前の酒を売る露店があるらしいんだ。何でも何十年か前、南の島に突如現れた酒の魔術師って奴が生み出した酒らしいぞ」


 ん? ショーチュー、焼酎? いや……まさかね。


『リリー、是非行くべきだ。早く買って次の店へ行くぞ』

 やや興奮気味のスノーに急かされ、スノーの指定した三種類のワインを二つずつ購入し、店主にお礼を言って次の店に向かった。


 それから、ココミルクの露店で何点か買い物をし、生地の露店でサシェ用の生地や、家の中でカバーなどに使う生地などを購入した。

 その後も何店舗か見て回り、あのアクセサリー屋さんの露店に辿り着いた。

「せっかくだから覗いていきましょ」

「露店用に何かお買い得商品あるかもしれないしね」


 そう言って二人で露店に顔を出すと、何と露店の中にガラスの壁を作り、その先でアクセサリー作りをしている彼女を見つけた。

「いらっしゃいませ」

 そう声をかけてくれたのはどこかで見覚えのある男性。

「あれ? もしかして……警備隊の?」


 そう、鎧を着ていないので一瞬誰か分からなかったが、間違いなく彼だった。

「これは、魔女様。ようこそおいで下さいました」

「どうしたんです? 今日は警備の方はお休みですか?」

 そう訪ねると、やや気まずそうに頬を掻いた。

「今日はその……夜の警備に付くことになりまして……今は空き時間と言いますか……そしたら妹に手伝えと引っ張られましてね。昨日、魔女様の露店で何か閃いたみたいで、自分はアクセサリー作ってるから店番してろと言われてしまってですね。今に至るわけです……」

 妹……強いわね。妹思いの兄、ということにしておいてあげよう。


 ミラは興味津々にガラスにへばりついて、アクセサリーを作っている彼女をじっと見ている。


 それにしても、夜の警備か……言い淀んでいるところを見ると、きっと例の作戦に加わっているのだろう。それなのに店番をさせられてるっていうね。


「よろしくお願いします」

 小声でそう伝えると、目だけで頷いてくれる。


 これから始まる作戦に緊張が伝わってきた。


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