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家族

「それで? このレッドボーネはもう完成なの?」

 お鍋で水分を飛ばしたレッドボーネ(もうあんこと呼ぼう)を興味津々に見つめるミラ。


「そうね、あとはこれを半分に分けて、粒の残った物と網でこした物の二種類に分けてステビアと一緒に煮詰めれば完成ね。ちなみにその状態を【あんこ】って言うの。粒の残ったものは【粒あん】滑らかにこしたものは【こしあん】って呼ぶのよ」


 そう説明して、あんこを半分に分け、片方はそのまま、もう片方は水を張ったボウルの上に網を乗せ、茹でたレッドボーネをヘラで丁寧にこしていく。

「ミラもやってみて」

 二人で交代しながら半分の量のレッドボーネをこすと、網にはレッドボーネの皮だけが残る。


「こうするとね、皮だけを残して中身だけを取ることができるのよ。今は水の中に沈んでるけど、これから沈殿するまでしばらく放置するわね」

 五分後、上澄みを捨てもう一度水を加える。そしてまた五分放置して上澄みを捨てる。


「さて、次はザルの上に目の細かい布を広げて、そこにボウルの中身を開けるわよ。ミラはザルを押さえてて」

 ミラにザルと布を押さえてもらって、中身を開ける。


「そうしたら、この布をギューーッと絞る」

 絞った布を開けてみると……

「あ、白っぽくなってる」

「そう、これが中身ね。次はステビアシロップと一緒に煮込むわよ」

 お鍋にステビアシロップと少量の塩、水気を切ったレッドボーネを入れて煮詰める。


 もう一つのお鍋にも、残り半分の粒の残ったあんと、ステビアシロップ、少量の塩を加えて同時進行で煮詰める。こちらはミラに担当してもらう。


 こしあんはツノが立つくらいまで水分を飛ばし、粒あんも水分を飛ばしたら……


「はい、こしあんと粒あんの完成!」

「すごい手間暇かかるのね……」

「そうよ、美味しいものには手間暇がかかるのよ。少し味見してみましょ」


 スプーンにこしあんと粒あんを掬って二人で同時にパクリ。


「ん〜! 幸せぇ〜。これよこれ、たまんないっ」

「…………」

「どお? ミラ?」

 無言のミラの目が潤む。

 ……!?

「美味しい……今まで食べた甘味の中で一番美味しい!! これ豆よね!? なんで豆がこんなに美味しくなるのよ!!」

「ふふふっ。美味しいでしょ〜? これをね、パン生地の中に入れるとアンパンになるし、バターと一緒にサンドイッチにすればあんバターサンドの出来上がり。今日は手早くあんバターサンド作って、ジェフにも食べてもらいましょう」


 その後、ジェフにあんバターサンドを食べてもらったところ、この【あんこ】のレシピを商会に売ってくれとの提案をされた。

 後にこの【あんこ】は国中に広がりそれぞれの地域でオリジナルのあんこスイーツが誕生するのであった。


「さてと、そろそろ宿に戻って休もう。明日は今日の分の遅れを取り戻すためにも、売って売って売りまくるわよ〜!」

 ジェフに「また明日」と挨拶して、宿に戻ろうとすると、フロスト商会の外にはロジーとスノーが待っていてくれた。


 四人で宿への道を歩いていると、前方から魔石アクセサリー屋の女性と検問所の警備隊員の兄妹が歩いてくる。

「あ、魔女様」

「こんばんは。兄妹でお出かけ? 仲が良いのね」

 どこかへ出かける様子の二人に声をかける。

「魔女様、今日は午前中でお店閉めちゃったんですか? 午後から覗きに行ったらもう閉まってて……もしかして人気がありすぎて品切れになっちゃったとかですか?」


 あぁ……申し訳ない。せっかく見に来てくれたのに、店じまい後だったらしい。きっと他のお客様も同じ思いをしただろう。せめて張り紙でもしていけば良かったと今更ながら後悔する。


「せっかく来てくれたのにごめんなさい。ちょっとトラブルがあったもので、慌てて店じまいをしてしまったの。明日は一日販売してるから是非寄ってって。今日のお詫びにちょっとだけサービスするわ」

 そう言うと、警備隊員の兄の方は事情を知っているのか、心配そうな顔をして黙ってこちらを見ていた。

「良かった〜! 品切れで閉店だったらどうしようかと。明日こっちのお店を閉めたら伺いますね」

「ええ。今度こそお待ちしています」

 別れの挨拶をしてそこからは真っ直ぐに宿まで歩いた。


「ミラ。それじゃ、また明日ね。明日は今日の分も頑張りましょ。おやすみ」

「うん。リリーもゆっくり休んで。今日は色々と忙しかったからね、おやすみ」


 ミラと別れて自分の部屋へ戻ると、さっき宿の前で別れた振りをしたロジーとスノーが待っていた。

「リリー……」

「分かってる。恐らくスノーに呪いをかけた国と関係がある。絶対に許さないわ……」

 私を呼ぶスノーの声は、憂いを帯びていた。

「私の事はいいんだ。いずれあの国はどこかの国によって滅びる運命だ。私が心配しているのはリリーだ、何もリリーが危険を冒してまであの国と関わることは無い。頼むから……」

 そう言って、私を子爵の元へ行かせまいと説得するスノーだが、私にだって思うところがある。

「私はね、捕らえられている女性たちが心配なの。助けてあげたいのよ。きっと……家族も心配してる。私にも家族がいたから分かるの……私はもう、家族とは会えないし元の世界には帰れないけど、彼女たちは違うわ。だから助けてあげたいの」


「僕は……家族って分からないけど、リリーの助けたいって気持ちは分かるよ。時々、家族を想って泣いてるリリーを見てると胸が苦しくなる。家族って大事なんだなって。それに、リリーを一人で行かせるわけないからね。僕がペンダントの核に戻ってついて行くし!」

 この世界に来てから初めの頃は、家族を思い出してよく涙してたっけ。そっか、まだバラだった頃のロジーに見られてたのね。

「ありがとう、ロジー。絶対助けられるわ! だから、スノー。私を信じて」


「分かってる。分かってるが、心配なんだ。リリーには危ない事をして欲しくない……でも、どうしても行くんだろうな、リリーは。だから私もついて行くよ。ロジーがペンダントなら私はブレスレットにでも姿を変えてついて行くさ」

「二人ともありがとう。スノーは……心配性のお兄ちゃんみたいね。ロジーは可愛い弟。ふふっ。まるで家族みたいね、私たち」

「家族……僕たち家族?」

「ええ。家族」


 元の世界に置いてきた家族を想い時々ナイーブになるけど、ロジーと出会い寂しさは薄れ、スノーと出会い安心感をもたらしてくれた。家族と言う括りが今の私たちにはしっくりくる。

「そうか、家族か」

 そうポツリと言ったスノーの顔は、とても柔らかく優しげだった。


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