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レッドボーネ

 元の私服に着替え、ジェフとミラが待つ部屋へとやって来た。

「ごめんね。お待たせ」

 そう言って入ると、美味しそうな香りが漂っていた。

「リリー、お昼ご飯食べてなかったよね。少し早いけど、夜ご飯にしよう」

 そう言って美味しそうな食事をミラと二人で準備してくれていた。そう言えば……お昼ご飯を食べ損ねた事に今頃気づく。バタバタとフロスト商会へ来て、そのまま伯爵邸へと呼ばれたので紅茶以外口にしてなかった。そのことに気付くといきなりお腹がすいてくる。


「お、」

「お?」

「お腹空いたー! ジェフ〜、ミラ〜、ありがとう〜‼︎」

 用意されていたのは、屋台で買ってきただろう紙製の器に入った具沢山のトマトスープと、ワイルドボアの串焼き、川エビの唐揚げのような物が並べられていた。

「じぁあ、三人で食べますか。いただきまーす」

 まずはトマトスープから。中に入っている具は玉ねぎや人参、ベーコン、それに小さく加工されたヴァイツが入っている。

「し、染みる〜」

 空腹の胃に優しく染み渡る。


「リリー、これ美味しいわ」

 そう言って差し出されたのはワイルドボアの串焼き。

「ワイルドボアって、あれよね。前に村に襲ってきた……何だか食べづらいわね」

「そうそう。あのワイルドボアも村の皆で食べたのよ。それに、リリー、ソニアさんの所で食べてたじゃない。ワイルドボアの煮込み料理、好きでしょ?」

 え……?

「あれ、ワイルドボアだったんだ……知らずに食べてた……」


 そもそも、この国では家畜を飼育する事はないそうだ。飼育してもモンスターに襲われてしまうし、その分モンスターに自分たちが襲われる危険性も付いてくる。

 それに、狩っても狩っても狩り尽くせないほどのモンスターが世界には蔓延っている。モンスターはワイルドボアだけではない。鳥型のモンスターや、水棲モンスターなど様々だ。


 主に冒険ギルドで討伐依頼が出ると、皮や牙などの素材を摂れば残った肉は販売に回される。その他にも討伐依頼が出ていなくとも、冒険者が狩って来たモンスターの肉は全て販売に回される。

 おかげで飼育せずとも肉には困らないそうだ。


「意外と美味しいのね。モンスターって、肉質硬そうだけど柔らかいし……」

「でしょ? こっちの川エビも美味しいわよ!」

 薄く小麦粉がまぶされた川エビの唐揚げを食べてみると塩味が効いていてとても美味しい。これは……

「リモーネ絞ったら絶対美味しいやつ!」

 アイテムボックスからリモーネを取りだし、カットして絞る。

「二人とも食べてみて」

 そう言って、リモーネを絞った川エビの唐揚げを差し出す。

「何この組み合わせ……最強じゃん。リリー、よくこんな組み合わせ思いつくよね」

「美味しい〜。塩味にリモーネの酸味がマッチしててサッパリ食べられるわ」


 二人とも気に入ったようで何より。やっぱり唐揚げにはレモンよね〜。マヨネーズを付ける人もいるけど、私はやっぱりレモン派。

……マヨネーズ。この国には無かったな。後で作ってみよう。絶対に流行るわ!


 そうして三人で楽しく夕食を取ると、ハーブティーを入れて一息つく。


「じゃあ、そろそろ伯爵邸でどんな話をしたか聞かせてくれる?」

 ジェフがそう切り出したので、私はざっくりと伯爵邸に着いてからの話をした。


「それで?」

「ヴェロニカとお友達になりました」

「いや、そっちじゃなくて!」

「冗談よ」

 そう言うと睨まれてしまった。

「とにかく、感謝祭のセレモニー中に街の時計台に馬車が着くから、それに乗って子爵邸へ行ってくるわ。どうやって街を出ているのかも調べないと……それに、子爵邸の周辺には伯爵様の密偵と騎士たちが潜んでいるらしいから、女性たちの救出の目処と、証拠が揃い次第私が魔法を打ち上げる。すると、伯爵様の騎士たちが突入する作戦よ。証拠が掴めなくとも、私に危険が迫れば魔法を打ち上げて、騎士たちに救出してもらうわ。私と言う証拠があれば子爵も逃げられないからね」


「そうか、伯爵様が手を貸してくださるのか。それなら少しは安心できるよ。それで、明日からはどうするつもり?」

「もちろん露店を再開させて今日の分を取り戻すのよ! あの子爵のせいで午前中しか販売できなかったからね!」

 なんの為にこの街に来たと思ってるのだ。あの子爵さえ来なければ今頃は早めに露店を閉めて他の露店を見て回ってたと言うのに!

「リリー、逞しいね・……」

「ミラ! 明日は頑張って売上伸ばすわよ!」

「これから子爵邸へ行く人のセリフとは思えないわね……」


 時刻は十八時を回った所だ。村に時計はなかったが、この街には立派な時計台が建っている。村にいれば時計など必要ないが、それでもやはり時間が分かればその日の段取りも整えやすくなる。


 気づいたら明るかった空が暗くなっていて外に出られなくなったり、まだ夜も遅くはないと思い、作業しているといつの間にか深夜を越えていて、朝起きられなかったりとなかなか不便なものだ。


「さて、そろそろ宿に戻ろうかな。やりたい事が沢山あるのよね〜」

「リリー、まだ何かするつもり?」

「実はね、街である物を見つけたんだけど……それをちょっとね」

 そう言うと、ミラは思い出したかのように「あ!」と手を打った。

「あ! レッドボーネ! あんなに大量に買って何するつもり? 煮込み料理に使うくらいでしょ?」


 街で見かけたのはレッドボーネと呼ばれる、赤く丸みを帯びた小指の爪の様な形をした豆類。そう、ちょっと大きい小豆のよう。餡子! 餡子が作れるわ!

「ミラ、これはね、美味しいスイーツになるのよ」

「美味しい、スイーツ……レッドボーネが? え、だって豆でしょ?」

 信じられない! と言うように手を横に仰ぐ。


「ふっふっふ……私を信じなさい! 宿に戻ったらバルコニーで豆を煮るわよー!」

 一人盛り上がる私を見て、ジェフが冷静に言葉を放つ。


「リリー、宿のバルコニーで料理するつもり? さすがに怒られるよ?」

 ハッ! そう言えば、あんな高級宿のバルコニーで豆なんて煮たら怒られるか……

「リリー、暴走も程々にね。料理するならここのキッチン使いなよ」

「え?いいの?」

「宿で変な噂が立つよりよっぽどいいよ」

 あはははは……

「お世話になります……」


 そうしてフロスト商会のキッチンを借りて餡子作りとついでにマヨネーズ作りをすることになった。



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