対子爵 作戦会議
「さて、魔女殿のおかげでスッキリとした事だし、本題に入ろう」
「よろしくお願いします」
そう言って姿勢を正す。
さぁ、これからが本題だ。
「まずは、噂の子爵の件だ。フロスト商会の使者からの情報によると、感謝祭の会場でレール子爵に屋敷への招待状を受けたそうだな。それは間違いないか?」
「ええ。間違いありません。私が感謝祭での露店ブースにて販売を行っていたところ、子爵様とお付きの者がやって来て、何やら私の事を気に入ったと仰って、屋敷に招待してやる。と……そこで、お付きの者がこの封筒を渡してきました。子爵様は私の返事も聞かず「必ず来い」との言葉を残し、露店を去って行きました」
ざっくりと子爵がやって来た時の話をする。
「そうか……魔女殿はレール子爵の話は聞いてるか?」
「ええ。先程フロスト商会でギャレットさんと、ジェフリーから聞かされました。その……女性の件とか……あとは、招待された女性が帰ってこないことも」
「では、子爵邸へ呼ばれる事がどんな事かは分かっているのだな」
「はい。私には家族というものがありません。なので、私が招待に応じなくとも家族が罰せられる事はないのですが……フロスト商会やバースの村の知人がその対象になってしまうかも……と考えると、やはり行くべきかと。それに、帰ってこない女性たちも気になります。可能であれば救出したいんです。私には……そのくらいの力があると思うので……」
先程フロスト商会で皆を説得した内容と同じ内容を伯爵様に説明する。伯爵様は私の説明を聞くと、しばらく黙り込み、考え事をしているようだった。
「魔女殿。これは……極秘事項なのだが、聞いてくれるか? おそらく魔女殿にも後々、関わりが出てくる事だと思う。王族の事も関係しているからな」
まただ。王族……一体なんのことなの?
「伯爵様、先程も仰っていた王族との関係とはどのような事でしょうか? 私には全く関係の無い事だと思うのですが」
「そうだな。その事も含め説明しよう。話は長くなる。アルベルト、お茶を頼む」
伯爵様がそう言うと、アルベルトさんは外にいるメイドさんに声をかけティーセットを持ってこさせ、メイドさんを退室させた。
それからアルベルトは優雅な手付きで紅茶を入れてくれた。
「いい香りですね」
「魔女殿のハーブティーとは違うが、この紅茶も香りが豊かな逸品だ。まずはお茶を飲みながら王族の話をしよう」
見るからに高級そうなカップ&ソーサーに思わず躊躇ってしまうが、一口飲んでみるとダージリンの様な香りが広がる。
「とても美味しいです。それに仰る通りいい香りですね」
「飲みながらでいいので聞いてくれ。まずは、王城からの早馬の知らせで、西の森に住むという女性を保護する様に。との命が下った。その女性は多様な魔法をいとも簡単に操り、回復魔法まで使えると言う」
ギクッ!
「な、なぜその事を……」
「今より数ヶ月前、王都の騎士を助けた覚えは?」
あ‼︎ フレドリックさん‼︎ 口外しない様にって言ったのに‼︎ ……言ったのに‼︎
「うぅぅ、あります……王都の騎士で、お一人はクラウス・フォン・ウィンザーベルク様、もうお一人はフレドリック・フォン・ブラバンドール様ですね。以前、ウィンザーベルク様が大怪我をなさって、ブラバンドール様が助けを求めて私の家へやってきたのです。その時に、回復魔法を……」
何で言っちゃうかな! フレドリックさん‼︎
「その命が下った時、魔女殿の事が頭に浮かんでね。もしやと思ったが、やはりそうだったか。その方を保護するようにとの命令だ。つまり……」
「私……」
「そう。魔女殿が助けた騎士は王都の特務部隊に所属する隊長で、特務部隊はこの国の王太子殿下直属の部隊だ。おそらく、魔女殿の事は王太子殿下に報告されているだろう。そこで保護の話になったのだろう。因みにこの保護案件も極秘事項だ。私の考えでは魔女殿の住む西の森からさらに西へ行くと隣国との国境があってね、今は西の森の濃い魔素が行く手を阻んでいるが、その国に魔女殿を拉致されることを恐れているのではと考えられる」
西の国……確か、スノーが呪いを受けた地じゃ……
「それから、もうひとつの極秘事項が、西の国について。先程話題となったレール子爵と西の国の繋がりについてだ。密偵からの報告だと、レール子爵と西の国の使者が何度も密会を重ねていると言う」
「あの、西の国って、どんな国でしょうか?」
スノーに呪いをかけた国だ。どんな経緯でスノーに呪いをかけたかも気になる。露店で子爵と顔を合わせたスノーの様子がおかしかったのはそのせいだったのだろう。
「国の名は【サラセニア】小さな国なんだが、この国に何度も戦争を仕掛けてくる愚かな国だ」
なぜそんな国が、私を拉致しようだなんて考えに至ったのだろう。
「サラセニアは優秀な魔術師が多いと聞く。特に闇の魔法に力を注いでいるらしく、この国で噂になっている魔女殿に目を付けられるのでは、と懸念されているのだろう。既に王都の特務部隊がこの地に向かっているとの報告だ、近々この街にも現れるだろう。それなのに……」
「先に私が子爵に目を付けられてしまった訳ですね」
そうか、クラウスさん達こっちに向かってるのね。まだ半年も経っていないけど、懐かしいわ……クラウスさんの事を思い出していると、何だか胸がモヤモヤしてきた。別れの時の誓を思い出すと頬が熱くなる。
「魔女殿? どうかしたか?」
そう声をかけられ、ハッとして頬を押さえる。
「すみません。何でもありませんのでお気になさらず……」
そう言って話を戻してもらう。
「子爵からの招待の日時は?」
そう聞かれて、子爵からの招待状を取り出し、アルベルトさんに渡すと、伯爵様へ渡してくれる。
「明後日の夕刻。感謝祭終了のセレモニーの最中か。街の出入口には検問所を設けているのだが、毎回不思議な事に、女性たちがいつ連れていかれたのかが分からないんだ。女性たちの家族から子爵邸へ連れて行かれたことは聞くのだが、その方法がまだ分かっていない。なので、証拠がなく子爵を問い詰められないのだ」
その時間であれば、街の人達はセレモニーに参加しているので、目立たずに連れ出せるという訳ね。それでも検問所をスルーした方法が分からないのか。
「魔女殿……もう一度聞くが、本当に行くのか? 騎士隊が到着するまで待つ方法もあるのだぞ」
「ご心配は有難いのですが、騎士隊が到着すれば子爵は警戒するでしょう。今ならば子爵の警戒もなく、女性たちの救出成功率も高いかと」
「分かった。魔女殿には申し訳ないが、頼らせてもらう。子爵邸の場所は分かるので、少し離れた場所に密偵たちを配置しておく。何かあれば、魔法でも何でも放て。直ぐに助けを向かわせる」
そうして、伯爵様と女性救出の作戦を練っていった。




