表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/153

伯爵邸のお嬢様

ここに来て、誤字報告、評価を沢山頂くようになりました。報告、評価を下さる皆様、いつも有難うございます。とっても助かっています!

 カタカタと揺れる馬車の中、私はアルベルトさんと向かい合って座っている。道が整備されているせいか、馬車が立派なおかげか、ガラガラと聞こえる音の割には揺れは感じない。それに加えて、椅子と背もたれには柔らかなクッションが張られているおかげかもしれない。


 馬車には何かの紋章の様なものが描かれていて、黒い馬車の車体に金色で描かれたそれはとても美しかった。

「アルベルトさん、この馬車の外側に描かれている紋章の様なものは、もしかして伯爵様の紋章ですか?」

「そうでございます。中央にはこの地を護っておられるとされる水龍様、その周りをブローディアの富の証でもある水流が囲み、後ろには二本の剣が交差するデザインとなっております」

 なるほどね、この紋章をパッと見ただけで、水の街ブローディアの伯爵様の馬車と分かるわけだ。

「ブローディアの伯爵様っぽい素敵な紋章ですね」


「リリー様は馬車は初めてですか?」

「ええ、この街へ来る時は馬車ではなく馬で来ましたから」

そう言うと、アルベルトさんはやや驚いた顔をした。

「リリー様は乗馬ができるのでございますね。乗馬の出来る女性は滅多にいらっしゃらないので、大変素晴らしいと思いますよ」

 それから馬車の中で、この国の乗馬事情をアルベルトさんから聞いた。なんでも、貴族の女性は馬に跨る事は、はしたないとされ滅多に乗ることはないのだそう。そもそも貴族女性のドレスはボリュームのあるデザインが多いので跨がれないのだとか。


 貴族の嗜みとして女性が馬に乗る際は、サイドサドルと言われる横座り用の鞍を使用するのだそう。そう言えば、昔テレビで横座りのまま馬に乗っていた外国の方を見たことがある。その時は、「あんな不安定な乗り方でよく落ちないわね」などと思ったが、横座り用の鞍ならば安定して乗馬が出来るわけだ。


 そうして伯爵邸へ着くまでアルベルトさんにとても為になるお話を聞かせてもらった。


 ガラガラと聞こえていた馬車の音が止まると、コンコン、と御者から合図があり、アルベルトさんが立ち上がった。

「リリー様、到着致しました」

 そう言って、先に降りる。私が降りようとすると、サッと手を出し「お手をどうぞ」とスマートにエスコートしてくれる。さっき、乗る時にもエスコートしてもらい、少しばかり戸惑ってしまった。男性が女性をエスコートするのは当たり前のことなのだそう。


「魔女リリー様、ようこそブローディア伯爵邸へ」

 そう言って片手をお腹に、もう片方を背中側に回し、深々と頭を下げる。

「アルベルトさん、頭を下げるのは【首を差し出す】事じゃなかったんですか?」

そう言うと「これは私たち執事の挨拶でございますので、いいんですよ」そう言われる。なんだかお辞儀一つで色々と意味合いが違うのだなと思った。


 伯爵邸に入ると、ズラリと並んだメイドさんたちにお出迎えされた。

「魔女リリー様、ようこそおいで下さいました」

 そう言って一斉に頭を下げられる。

 や、やめてください! 私はただの一般人です! そう叫びたくなるぐらいに引いてしまった。


「それでは参りましょう」

 そう言って、客間かな? あるお部屋へ通された。すると、二名のメイドさんが紅茶を入れてくれた。

「リリー様、伯爵様へリリー様の到着を知らせてまいりますので、ごゆっくりとおくつろぎ下さい」

 そう言って、部屋を出ていこうとするアルベルトさんを引き止める。

「アルベルトさん、ちょっと待ってください。手ぶらでお会いするのも失礼かと思いますので、これを伯爵様へお渡しくださいませんか?」

 そう言って、アイテムボックスからキレイに包装した「ローズペタルのバスソルト」「ラベンダースティック」「三種のハーブティーセット」を取り出してアルベルトに渡す。


「こちらのローズペタルのバスソルトは花びらと岩塩を使った入浴剤です。まだ売りに出していない新商品ですので、是非使用してみてください。ラベンダースティックはクローゼットなどに入れると、衣服の香り付けに効果的です。こちらは街で人気の三種のハーブティーセットになります。最近では貴族の方のお茶会でも人気の商品になっているようですので、伯爵様へお渡し下さい」


「これは……わざわざありがとうございます。きっと伯爵様もお喜びになることでしょう。それではしばらくお待ちください」

 そう言うと、今度こそ部屋を出ていった。残された私は入れてもらった紅茶を飲み、ホッと息をついた。


 それにしても、すごいお部屋ね。今座っているソファも見事な刺繍が施されていて、おそらく一点物なのだろうと思われる。

 ディスプレイキャビネットには、使われることのないであろう美しい食器やティーセットが並んでいて、ガラスは曇りなく綺麗に磨かれている。


 何だか場違いの様で落ち着かない。そう思っていると扉が開き、アルベルトさんが戻ってきた……と思いきや、鮮やかな色のドレスを身にまとった若い十代の女性が入ってきた。すると突然……

「貴方がお父様の新しいお相手なの? なんてみすぼらしいのかしら! こんな貧相な女を連れてくるなんてアルベルトはどうかしてるわ! 貴方たち! この方はもう帰られるそうよ、早くお見送りして差しあげて!」

 すごい剣幕でメイドさんたちに言いつけている。


 お父様の新しいお相手? なんの事? お父様って事は、もしかして伯爵様のお嬢様かしら?

 メイドさんたちも、突然の事に狼狽えている。

「お嬢様、違いますわ、この方は……」

 そう必死に説明しようとしているが、当のお嬢様は聞く耳を持とうとしない。

「いいから早くしなさい! 貴方も立場をわきまえたらどうなの? そんなみっともない格好でよくここへ来られたわね。さっさと出て行ってちょうだい!」

 今度は私には向けて言葉を発した。


 みっともない格好…々伯爵邸へ行くのに普段着では……とギャレットさんが用意してくれた黒のドレス。ドレスを着るなんて恥ずかしかったが、身だしなみはきちんと整えていくべき。とのギャレットさんの言葉に有難くお借りしたものだ。


 なおもお嬢様は言葉を続けようとしたが、それは叶わなかった。


「ヴェロニカお嬢様。魔女様お相手に何をなさっておられるのですか?」


そう言ってアルベルトさんが入ってきた。言葉は丁寧だが、怒りのオーラ付きで……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ